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クリヤ

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第4章 独占欲

(4)過去さえ欲しい

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 次の週の同じコマ。
 窓の外を見るショウゴは、ユウスケを見つけた。
 空き時間にやることは、いつもだいたい同じになるのが学生だ。

 (今だ、今なら声がかけられる!)

 大教室の通路側に座っていたショウゴは、ナオキに声をかける。

 「ごめん、ちょっとトイレ」
 「珍しいね。大丈夫?」
 「うん、すぐ戻るから」
 「気をつけて」

 どこにでも一緒のナオキだが、さすがに講義中の離席にはついてこない。
 先生から遠い扉を選んで、静かに廊下に出る。
 出た瞬間に、廊下を猛ダッシュ。
 その甲斐あって、校舎の外に、ユウスケの姿を見つける。

 「あの! ……ちょっと、いい?」
 「え? 何? なんで、そんなにゼーゼーしてんの?」
 「あ、あの。走ってきたから」

 荒い息で話しかけるショウゴに、ユウスケは驚き顔で応える。

 「ショウゴくん、だよね? ナオキくんの」
 「そ、そう」
 「ボクになんか用? ナオキくんに近づくなって言われてんだけど」
 「あ、ごめん。でも、ユウスケくんに聞きたいことあって」
 「今? っていうか、いいの? ボク、一応、元カレだよ?」
 「う、うん。だから、むしろ聞きたい、みたいな?」
 「授業、いいの?」
 「ちょっとマズい。あんまり長いとナオキに疑われるし」
 「はぁ? ナオキくんにヒミツなの?」
 「うん、ナオキのいないとこで聞きたい」
 「でも、キミら、べったりじゃん」
 「はは。えっと、明日の語学の時なら、別の教室だから」
 「明日の何限?」
 「えっと、3限」

 ユウスケの隣りにいたリョウヘイが、ボソッと口を出す。

 「ユウスケ、大丈夫? いいの? 話しても」
 「リョウヘイは心配しすぎ。大丈夫だよ、おもしろそうじゃん」
 「別に、おもしろくはないと思うけどね」
 「今カレに、元カレが話すって構図が、もうおもしろいじゃん」
 「そう? なら、話してくれる?」
 「いいよ、明日の3限ね」

 ユウスケとの約束を取りつけて、ショウゴは再び猛ダッシュ。
 教室に戻って、必死に息を整えて、席につく。

 「ショウゴ、大丈夫? 迎えに行こうかと思ったよ」
 「大丈夫、大丈夫」

 講義中なので、ナオキは不審そうな顔をしながらも、それ以上は聞いてこない。
 ショウゴは、心の中で、明日を楽しみにしていた。

 次の日の3限。
 語学のクラスは別なので、ナオキとは廊下で別々になる。

 「授業終わったら、迎えに来るから」
 「うん、待ってる」

 語学の次は、必修科目。
 同じ教室に向かうのだから、バラバラでもいいとショウゴは思う。
 けれど、ナオキがわざわざ迎えに来てくれることは嬉しい。
 それに、ちょっとした優越感も。

 ナオキの姿が廊下から消えると、ショウゴは隣りの教室に入る。
 そこには、コンビニランチを広げたユウスケとリョウヘイの姿があった。

 「食べながらでいいよね?」
 「うん。今、お昼?」
 「3限が空きの時は、そうしてんの。コンビニ空いてるし」
 「そっか。あ、これ、お礼」
 「うわっ、いいの? これ、好き。でも、買えなくて」
 「うん、ユウスケくん、甘いもの好きそうだったから」
 「ありがと。ラッキー!」

 ユウスケとリョウヘイのために買ったのは、学食限定あんドーナツ。
 月ごとに味が変わる人気商品だが、昼しか売っていない。
 意外に手に入れるのが難しいおやつだった。

 「これ、もらっちゃったからには、なんでも聞いてよ」
 「はは。ユウスケくん、おもしろい人だね」
 「キミほどじゃないよ」
 「そうかなぁ。ナオキの高校時代のこと、聞きたくてさ」
 「ふうん。なんで? そんなおもしろいこと、ないけど?」
 「うん、でも、ナオキのことなら、なんでも知りたい」
 「え、こわ! ショウゴくん、普通っぽく見えるけど、ヤバい人?」
 「ふふ。そうかも。ナオキのことになると、ね」
 「なるほどね、ちょっと分かったよ。ショウゴくんを好きな意味」
 「ん? そう?」
 「だって、ナオキくんって、めんどくさいでしょ?」
 「え? どこが?」


 ***

 ユウスケがナオキを初めて見たのは、高校に入学して少し経った頃。
 イケメンの先輩がいると、同じクラスのやつに聞いてから。

 校庭で体育の授業中だったナオキを見たのが、最初だった。
 整った顔立ちに、サラサラの髪がキレイな人。
 スラリとしたスタイルに、立ち姿がカッコいい。
 特定の誰かとつるんでいる様子はなくて、そんなところもいいと思った。
 ユウスケもひと目で、気に入ってしまった。
 学校でも人気があって、いつもキャーキャー言われていた。
 けれど、ナオキ本人は、騒がれるのは得意じゃないように見えた。

 「だからさ、ボクは、じわっと近づいたわけ。
  気づいたら、近くにいるのが当たり前みたいになりたくて」
 「策士だね、ユウスケくん」
 「ふふん。自分の気持ち押しつけるだけじゃ、受け入れてもらえないでしょ」
 「うん、分かる」

 ユウスケの作戦はうまくいって、ナオキと付き合うことになった。
 初めは、イケメンが彼氏というだけで、ユウスケは満足だった。
 けれど、少しずつ、不満が出てくる。
 ユウスケは、ラブラブな付き合いを望んでいたのに。
 ナオキは、あまり、付き合う前と変わらないように接してくる。

 「そうなの?」
 「キミには違った?」
 「う、ん。まぁ……」
 「べっつに、気使わなくていいし! なんかムカつくけど」

 ナオキのことは好きだったけれど、ナオキから自分に対する熱を感じない。
 何を考えているのか分からないけれど、キスさえ望んでこない。
 付き合っているのに片想いのような、不毛な時間が過ぎる。

 「ボクはさ、ずっとベタベタしてたいわけ」
 「リョウヘイくんみたいに?」
 「ちょ、ちょっと。何言ってんの? リョウヘイは友だち!」
 「ふうん。そうなの?」
 「そう……だよ」

 ナオキを好きだという気持ちより、自分の不満が勝ってしまった時。
 ユウスケは、ナオキに別れを告げた。
 思い悩むのには疲れて、面倒くさいと思った。
 意外なことに、ナオキは、ショックを受けたようだった。
 そのことに、ユウスケは、少しの嬉しさを感じた。
 けれど、だからこそ、別れを選んだ自分は間違っていないと思えた。

 「ってわけで、元カレって言えるかは微妙なんだけどね」
 「付き合うって決めたんだから、元カレだよ。
  いいなぁ! ナオキの初カレに、ボクもなりたかった!」
 「うわぁ、まぢでショウゴくん、ヤバい人だね。
  今、付き合ってて、べったりラブラブじゃん」
 「へへっ。そう。だけど、ボクは、ナオキの過去も欲しい。
  タイムマシンがあったら、ユウスケくんより先に告白しに行くよ」
 「ひぇ~! もう、ふたりはお似合いだよ」
 「どういう意味?」
 「ナオキくんもさ、久しぶりに会ったら別人みたいで」
 「あ、そうだ! 学食で、何話したの?」
 「あぁ、あれ? キミに色々言ったら、許さないってさ。怖いよね」
 「えっ! 嬉しい」
 「はぁ?」
 「それって、ボクへの配慮でしょ。やっぱり優しい、ナオキは」
 「やっぱ、キミもヤバいね。まぢでお似合い。それも、警告でしょ?」

 ショウゴの首筋にくっきりと残る、唇の跡を指差してユウスケが指摘する。

 「これ? ふふ。恥ずかしいけど、嬉しいんだよね」
 「何? ボク、のろけられてる?」
 「うん。ごめん」
 「う~っわ、ムカつく」
 「ふふ」

 ショウゴは、ユウスケの話を授業をサボって、1コマまるまる聞いた。
 それでも足りなさそうに、こう言った。

 「ねぇ、また時間あったら、聞かせてよ。どんなことでもいいから」
 「はぁ……。時間あったらね。お茶おごってよ?」
 「もちろん! おやつもつける!」

 そう言って、スキップでもしそうな足取りで、ショウゴは教室を出ていった。
 その後ろ姿を見送りながら、ユウスケは笑いがこみ上げてくる。

 「何、あのふたり。どっちもお互いが大好きじゃん」

 そう言うと、リョウヘイが応える。

 「そうだね。でも、本当のことは言わなくて良かったの?」
 「あぁ、ナオキくんが、このキャンパスにいるのはおかしいって?」
 「うん。だって、現役合格してたんでしょ」
 「そう。留年するとは思えないから、休学してるよね」
 「嘘ついてるって、教えてあげなくていいの?」
 「いいよ。そんなのバレたら、うるさそうだし。
  ま、そんなこと、バレても別れないと思うけどね。あのふたりは」
 「ユウスケって、自分勝手みたいに見えて、本当はすごく優しいよね」
 「はぁ? ボクは、元々、ちゃんと優しいですけど?」
 「知ってる。そういうとこ、好きだから」
 「ちょ、ちょっと! 何、サラッと告ってる?」
 「うん、オレも、ユウスケと付き合いたい。ベタベタさせるから」
 「……それは、全然いいけど」

 リョウヘイは、ニッコリ笑うとユウスケを抱き寄せた。
 恥ずかしがるユウスケの唇をふさいで、それから唇を割る。
 数分後、真っ赤に頬を染めたユウスケと満足顔のリョウヘイが教室を出る。
 指をからませて繋いだ手。
 ユウスケは、すっかりナオキのこともショウゴのことも頭から消えていた。
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