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第5話 護りと柊
(4)文箱からの手紙
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「なにこれ……?」
ひとりだというのに、タモツは思わず気持ちが声に出てしまっていた。
それから、この光る箱を見るのが初めてではない、と思い出した。
タモツは、とりあえず恐る恐るその箱の蓋を開けてみた。
中には真っ白な封筒が入っている。
それは、大叔父から受け取った封筒と同じもののように見えた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
タモツへ
これを読んでいるならば、ひとまずは家に来て文箱を見つけたということだろう。
わたしのおかしな手紙を受け取って、さぞ困惑したことだろうね。
それでも、ここにたどり着いてくれてありがとう。
まずは、タモツたちとすっかり疎遠になってしまったことを謝りたい。
理由も伝えずに申し訳なかったが、説明させて欲しい。
代書屋の件とも関連があることだ。
タモツに引き継いで欲しい代書屋の仕事は、普通の代書屋とは違う。
我々がするのは、『人の思い』を伝える代書だ。
それは、場所も時間も関係なく届けたい思いと受け取る必要があれば届く手紙だ。
まだ何も知らないタモツには、叔父さんがおかしなことを言っているように感じるかも知れないね。
だけども、この手紙が入っていた箱の光が見えていて、この手紙が読めているなら、これから書く話を信じてもらえるものと思っています。
代書屋を引き継ぐ条件は、文箱の光が見えることです。
受け取るべき人にも見えるが、代書屋にはすべての光が見えなければならない。
実はかなり早い段階で、タモツにその資格があることには気づいていた。
憶えていないかも知れないが、かなり幼い頃からタモツには光が見えていたから。
代書屋の依頼者は、通常、家族がいない時に訪ねてくるようになっている。
それなのに、タモツがいる時に、依頼者は来るようになったこともあってね。
だから、わたしはタモツに引き継いでもらうために特訓を始めた。
自在に筆記具を操れるようにしようと書道を教え、菓子作りや茶のことも教えこんだ。
菓子や茶は代書に関係ないと思うだろ?
だけどね、この不思議な代書屋にたどり着く人たちは、多かれ少なかれ不安や焦りを感じているんだ。その人たちに、寛いでもらって、手紙を受け取ったり出したりしてもらうには必要なことなんだよ。
それなのに、最後まで教えずに疎遠にしてしまったのは、叔父さんの愚かな親心です。
うちの子たちは、タモツにばかり構うわたしに不満を持っていたようだ。
ある時に子どものひとりが、「箱が光ってるのが見える」と言い出した。
きちんと子どもの話を聞いていれば、それがわたしの気を引くための嘘だと気づくのは簡単だったはずなんだ。
それなのに、自分の天職ともいえる代書の仕事を我が子が継いでくれるかもという期待に目が曇ったわたしは、タモツたちを遠ざけ、子に教えることに夢中になった。
子どもたちが大きくなって、わたしよりも友だちや恋人と過ごすようになり、書道も菓子作りもしたくないと言われるまで、わたしの目は曇ったままでした。
結局、代書屋を継ぐことができるのは、タモツだけだった。
けれども、どう話していいものか悩むうちに、わたしの寿命が尽きてしまった。
ただ、わたしにとって幸運だったのは、こうして今でもタモツに手紙を出せることだ。
タモツが必要とすれば、いつだって手紙は届けられる。
そして、その手紙は受け取るべき人にしか見えないのです。
だから、子どもに預けた手紙には詳細を書くのを控えました。
この期に及んで、子どものことを気にしている馬鹿な叔父を笑っても構わない。
だけど、本当に頼む。
この代書屋を必要とする人のために、引き継いでもらいたい。
誰かが引き継がねばならない大切な仕事なのです。
マモル
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ひとりだというのに、タモツは思わず気持ちが声に出てしまっていた。
それから、この光る箱を見るのが初めてではない、と思い出した。
タモツは、とりあえず恐る恐るその箱の蓋を開けてみた。
中には真っ白な封筒が入っている。
それは、大叔父から受け取った封筒と同じもののように見えた。
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タモツへ
これを読んでいるならば、ひとまずは家に来て文箱を見つけたということだろう。
わたしのおかしな手紙を受け取って、さぞ困惑したことだろうね。
それでも、ここにたどり着いてくれてありがとう。
まずは、タモツたちとすっかり疎遠になってしまったことを謝りたい。
理由も伝えずに申し訳なかったが、説明させて欲しい。
代書屋の件とも関連があることだ。
タモツに引き継いで欲しい代書屋の仕事は、普通の代書屋とは違う。
我々がするのは、『人の思い』を伝える代書だ。
それは、場所も時間も関係なく届けたい思いと受け取る必要があれば届く手紙だ。
まだ何も知らないタモツには、叔父さんがおかしなことを言っているように感じるかも知れないね。
だけども、この手紙が入っていた箱の光が見えていて、この手紙が読めているなら、これから書く話を信じてもらえるものと思っています。
代書屋を引き継ぐ条件は、文箱の光が見えることです。
受け取るべき人にも見えるが、代書屋にはすべての光が見えなければならない。
実はかなり早い段階で、タモツにその資格があることには気づいていた。
憶えていないかも知れないが、かなり幼い頃からタモツには光が見えていたから。
代書屋の依頼者は、通常、家族がいない時に訪ねてくるようになっている。
それなのに、タモツがいる時に、依頼者は来るようになったこともあってね。
だから、わたしはタモツに引き継いでもらうために特訓を始めた。
自在に筆記具を操れるようにしようと書道を教え、菓子作りや茶のことも教えこんだ。
菓子や茶は代書に関係ないと思うだろ?
だけどね、この不思議な代書屋にたどり着く人たちは、多かれ少なかれ不安や焦りを感じているんだ。その人たちに、寛いでもらって、手紙を受け取ったり出したりしてもらうには必要なことなんだよ。
それなのに、最後まで教えずに疎遠にしてしまったのは、叔父さんの愚かな親心です。
うちの子たちは、タモツにばかり構うわたしに不満を持っていたようだ。
ある時に子どものひとりが、「箱が光ってるのが見える」と言い出した。
きちんと子どもの話を聞いていれば、それがわたしの気を引くための嘘だと気づくのは簡単だったはずなんだ。
それなのに、自分の天職ともいえる代書の仕事を我が子が継いでくれるかもという期待に目が曇ったわたしは、タモツたちを遠ざけ、子に教えることに夢中になった。
子どもたちが大きくなって、わたしよりも友だちや恋人と過ごすようになり、書道も菓子作りもしたくないと言われるまで、わたしの目は曇ったままでした。
結局、代書屋を継ぐことができるのは、タモツだけだった。
けれども、どう話していいものか悩むうちに、わたしの寿命が尽きてしまった。
ただ、わたしにとって幸運だったのは、こうして今でもタモツに手紙を出せることだ。
タモツが必要とすれば、いつだって手紙は届けられる。
そして、その手紙は受け取るべき人にしか見えないのです。
だから、子どもに預けた手紙には詳細を書くのを控えました。
この期に及んで、子どものことを気にしている馬鹿な叔父を笑っても構わない。
だけど、本当に頼む。
この代書屋を必要とする人のために、引き継いでもらいたい。
誰かが引き継がねばならない大切な仕事なのです。
マモル
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