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第2章 ラントを巡る旅
(1)母方のいとこ
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ヤンにお礼と別れを告げて、オランジェを出発する。
向かうは、ロート=ラント。
ティムと王子は、再び馬での旅を続けることになった。
「それにしても残念でした。どうして、魔法が……」
「うん。どうして、ティムだけダメだったのだろう?」
オランジェ滞在中、ティムは魔法書店に向かった。
今回、オランジェに目的地を決めた理由のひとつが魔法だった。
これからの戦いで、魔法が必須であると痛感していたティム。
これまでに貯めた金と砦跡の吸血鬼退治の報奨金。
ヤンが受け取らなかった薬代。
ギルドマイスターが買い取ってくれた吸血鬼の灰。
合わせると、相当の数の魔法書が買えるはずだった。
(まずは、炎だな。あとは、氷と雷も必要か?)
(馬がいるから、水上歩行もほしい)
(治療魔法が使えたら、王子も守れる)
色々と思いを巡らせながら、魔法書店に行ったというのに。
ティムには、ひとつも買うことができなかった。
この世界の魔法書は、その本の魔法に対する適性があれば開くことができる。
開くことができる本を買って読めば、魔法が習得できる。
けれど、ティムに開ける本は一冊もなかった。
一番基礎の炎魔法の書でさえも。
なんとか一冊でも、と書店中のすべての本を試してみた。
それなのに、ただの一冊も開く本はなかったのだった。
「ティム、どういうことか分からないけれど。
魔法が必要なら、わたしが学ぶよ。いいだろう?」
「はい。でも、わたしはルイを守りたくて……」
「ありがとう。気持ちは、十分に分かっている」
結局、王子がいくつかの攻撃魔法と水上歩行、治療魔法などを購入した。
解錠魔法も、上のレベルのものを見つけたようだった。
「わたしはダメでしたが、ルイの魔法が増えたのは助かります」
「うん。わたしは、少し嬉しいよ。ティムの役に立てそうで」
「何を言っているんです? あなたは、ただ存在するだけでいいんです。
わたしが、ここで生きている理由です」
「ふふ。ティムは、真面目な顔でそんなことを言う」
「本気ですから」
「うん。信じてる」
「あ、でも癒しはティムにかけてほしい。気持ちいいんだ、あれ」
「はは。もちろんです。ほかの人にかけさせたりはしません!」
「うん! わたしも、ティムだけにかけてほしい」
ロート=ラントまでは、馬で5日の距離。
のんびりとできるわけではないが、前回のように急ぐわけでもない。
馬を休ませながらも、適度に急ぐ。
オランジェで食料や水も入手できていたから、楽な旅路だった。
数日ぶりとはいえ、ふたりきりの旅に浮かれていたのかも知れない。
街道を外れた道で、モンスターにも出くわさず油断していたのかも。
ロートまで、あと2日という地点で、それは起こった。
オランジェで入手できたもののひとつに、野営用ツェルトがあった。
風を通さない布地でできていて、雪にも雨にも倒れない。
付呪されていて、少しの魔法も矢も通さない。
中は適温に保たれる仕組みになっている。
宿屋を使わなくてもいいほど快適なので、宿屋は避けて野営を続けていた。
今日もできる限り進んで、日が落ちたのでツェルトをたてた。
ツェルトがあれば、安心だと思い込んでいた。
たき火をするために、ティムが王子を残して枯れ木を探しにいく。
そのたった数分の間のことだった。
「あぁっ!」
王子の声にティムが振り返ると、王子の周辺が燃えている。
吸血鬼の暗視を使って、周囲を見渡す。
少し離れた場所に、数人の金色のローブの者たちが見える。
手のひらをぎゅっと握って、再び魔法を使おうとしているようだ。
ヒュン!
怒りに駆られたティムは、吸血鬼の速度で近づき、その全員を倒す。
金色のローブの者たちは、自分がやられたことにさえ気づかない。
そんな速度で。
それから、王子のもとへ飛ぶように急ぐ。
背中を炎魔法で焼かれた王子のもとに、ひとりの男性が寄り添っていた。
「誰だっ! その人から離れろっ!」
ティムが威嚇するように大声で叫ぶ。
すると、その人は両手を上げて王子から少しだけさがる。
「ティ、ティム。大丈夫だ……。この人は……、敵ではない」
王子が苦痛に耐えながらも、声を振り絞る。
すると再び、その男性が王子の側に近づいて手のひらを王子の背中にかざす。
その手からは、あふれんばかりの緑色の光が出ている。
「あぁ……、んくぅ、……あっ、……ん、んぅ。ふぅ、……ああ」
王子がいつもよりも大きなあえぎ声を上げる。
「もう少しだ。耐えてくれ、ルー」
「う、うん。……あ、……んふぅ、ふっ、……いやぁ……」
「よし。もう大丈夫だ、よく耐えたな。ルー」
「あ、ありがとう。アベル兄さん」
「……王子。そちらのかたは……?」
「ああ。ティムは、会ったことがなかったか。いとこのアベル兄さんだ」
「なぜ、このようなところに?」
「おまえが、ルーの従者か? わたしはアベル。ルーの母方のいとこだ」
「では、ブラオのかたですか?」
「元はそうだが、今はロートの王の元に嫁いでいる。
ルーたちが、ロートに向かっているという知らせを聞いてな。
迎えにきてみたところだったのだ」
「……王の配偶者がおひとりで?」
「いや。数人、ともにきたはずなんだが。馬がな」
「馬が?」
「あ、ほら。ようやく追いついてきたようだ」
「アベル様~! 我々の馬に合わせていただかないと~!」
「ははは。わたしのシュネルにゆっくり走れと?」
「シュネル様に追いつく馬などいないのですから」
「だから、わたしひとりでいいと言っただろう?」
「殿下をおひとりで行かせたとあっては、我々が王に叱られます」
「はっはっは。デレクは、そんな狭量な男ではないぞ」
「そうですが。そうもいかない我々の立場というものを……」
「分かった、分かった」
突然、ティムと王子の前に現れたのは、ロートの王の配偶者だった。
しかも、王子の母方のいとこだという。
ティムは、たくさんの情報が一度に降りかかって、少し混乱する。
「殿下、王子をお願いしてよろしいでしょうか?」
「構わないが、おまえはどこに?」
「先ほど、王子を襲った暗殺者たちの亡骸を確認して参ります」
「うん。分かった。ルー、こちらに来い」
「はい! 兄さん」
ティムは、サッとその場から離れて、先ほどの敵を倒した場所へと戻る。
念のため、吸血鬼の力は使わず、普通の人の速度で。
ティムは、さっきから胸に違和感を感じていた。
痛いような、モヤモヤするような。
(なんだ? 悪いものでも食べたような、この気分は?)
金色のローブの者たちの亡骸を探る。
身元を示すようなものは、何も見つからない。
(それにしても、おかしい。なぜ、我らの位置が分かったんだ?)
色々と気になるところはあるが、今は王子の側を離れすぎるのも良くない。
すぐに、ツェルトのところへ戻る。
「おう! 何か分かったか?」
「いえ、特には。あの、殿下……」
「なんだ?」
「我々の到着の知らせは、どちらから?」
「ああ。オランジェからだ。魔術師ギルドのマイスターを知ってるな?
あれは、わたしの叔父なんだ」
「なるほど、そうでしたか」
(ということは、影ギルドからの知らせか。早いはずだ)
「野営などせずとも良い。すぐ近くに、王族用の宿泊所がある。
今夜は、そこに泊まろう」
「でも、兄さん」
「おまえを外になど寝かせはしないぞ、ルーよ」
「は、はい」
「ティムもいいな? 荷物を片づけて、あとを追え。
わたしとルーは先に行く」
「……かしこまりました、殿下」
「え? でも、わたしはティムと……」
「従者にべったりという年でもないだろう。いいから、来い。
シュネルの速さを見せてやる」
「は、はい。アベル兄さん」
そういうとアベルは、軽々と王子を抱えて馬に乗せる。
自らの従者たちに、ひとことふたこと残すと、すぐに馬を走らせる。
あっという間に、アベルと王子はティムの視界から消えた。
「申し訳ありません。ティム殿。
我が殿下は、思いついたらまっすぐのかたでして……」
「いえ、とんでもない。迎えに来てくださるなど、ありがたいことです」
「それでは、我々も参りましょう。ご案内致します」
荷物を片づけたティムは、アベルの従者たちとともに宿泊所に向かう。
気のいい従者たちと世間話をしながらの道行きは、楽しいものだった。
それなのに、ティムの心のモヤは晴れる気配がない。
***
なんで魔法書が一冊も読めないんだ?
一周目では、魔法書はどんどん買えたし、読めた。
読むって言っても、開けばいいだけ。
プレイヤーが使う分厚い本の中に、取り込まれて使えるようになる。
一周目でも、スキルレベルが足りなくて使えない魔法はあった。
だけど、本は開けたし。
分厚い本に取り込むこともできたんだよなぁ。
ヌルい炎魔法さえ使えない意味が分からない。
王子が代わりに習得してくれたのはいいけどさ!
オレが、使いたいの!
魔法を!
だって、ゲーム世界だよ? 魔法は使いたいじゃん?
エロい癒し魔法が使えるし、水中呼吸も最初から使えたのに……。
なんで、ほかはダメなんだよぉぉ!
と、いくら心の中で叫んでもダメなものはダメ。
仕方なく、オレたちは前に進む。
ロートは鍛治に強い国。
もしかして、めっちゃ強い武器がゲットできるかも?
そっちに期待しよう。
オランジェを出てからの3日間は、平和なもんだった。
クマやオオカミが出るのには慣れたし。
そこら中にいるシカを倒せば、うまい肉も食える。
ツェルトは快適だし、まるでただの旅行みたいに楽しい。
夜は、変わらず王子とイチャつける。
そうそう!
このツェルト、外の音は聞こえるのに中の音は外にもれない。
すごくいい仕組み。
おかげで、王子の鳴き声はとどまるところを知らず。
すっかり堪能させてもらったぜ。
それでも警戒はしているつもりだった。
まさか、ちょっと目を離した隙に王子が襲われるなんてな!
思わないだろ~。
まぢであせった。
いくら、治せるといっても痛いものは痛い。
オレの王子に、ヤケドさせたやつは許さん!
吸血鬼パワーで、金色フード野郎どもをくびり殺す。
愛しの王子が心配で、急いで戻ってみれば……。
長身でサラリとした髪のイケメンが、王子の側に。
イラッときて、オレは怒鳴ってしまった。
「誰だっ! その人から離れろっ!」
王子を守るために叫んだのに、それを止めたのも王子。
「ティ、ティム。大丈夫だ……。この人は……、敵ではない」
じゃあ、何者なんだよ? こんなとこに突然現れて?
え? 王子のいとこ?
なんで、ティムが知らないの?
そう思っていたら、母方のいとこだって。
たまに謁見に来る親戚は、たくさんいるからなぁ。
それにしても、目立つイケメンだと思っていたらさ。
ロートの王の配偶者だって!
この人が若く美しいってウワサの配偶者か!
納得!
癒し魔法のレベルが高いみたいで、すぐに王子のヤケドを治す。
その様子を見せられたオレは、なんだかイライラしてた。
やっぱり、魔法って使えたほうがいいよな。
魔法たっぷり使えて、うらやましすぎる!
で、なんで、この人はひとりなの?
だって、王様の配偶者でしょ?
ひとりで来るかなぁ? あやしい……って思ったら。
馬がめっちゃ速いらしい。
さすが、王族が乗る馬ってことかぁ。
アベルの従者も現れて、ひと安心。
オレは、アベルに王子を預けて金色ローブたちのもとに向かう。
こいつらに、オレたちの居場所が分かるのはなんでだ?
GPSでも付いてんのか?
金色ローブを探ってみたけど、何も分からず。
今回は、暗殺指令書も見つからない。
何も得られずに王子の元に戻るオレ。
いつまで経っても、分からないことだらけだ。
って、少し落ち込んでるオレに追い討ち。
王子を連れて、アベルが先に行くんだってさ。
なんだかムカつくイケメンだ。
オレは、王子を抱いて馬に乗るのが好きなんだよぉ!
返せよぉ!
とは、立場上、言えず。
今、知り合った従者の人たちと宿泊所に向かうことになった。
ま、すっごくいい人たちだったんだが。
*****
宿泊所は、王族用というだけあって頑丈な造りに見えた。
オランジェの建物のような、不思議な美しさはない。
黒いレンガらしきものを積んで作ったように見える。
「ティム!」
「王子。お待たせしました」
「ううん。構わない。兄さんの馬は、速すぎた」
「ははは。楽しかったですか?」
「うん。少しだけ」
「それは良かった。荷物を片づけてきます」
「え? う、うん」
アベルの従者の人に案内されて、建物の二階の部屋に向かう。
宿泊所といっても王族用だけあって、かなりの広さ。
王子とティムの部屋も別々に用意されていた。
片づけるといっても、大した荷物があるわけでもない。
すぐに終わってしまい、ティムは自分にあてがわれた部屋にいた。
従者の部屋も広く、ロートが豊かな国だということがよく分かる。
トントン! トントン!
ティムが椅子に座り、ボーッとしているとドアがノックされる。
「はい」
「ティム。わたしだ」
「王子?」
すぐにティムはドアを開ける。
そこには、薄衣をまとい、ほのかに化粧をほどこされた王子が立っていた。
「王子、その格好は?」
「まずは、部屋に入れてくれ」
「でも、こちらは従者の部屋で……」
「いいから!」
「はい……」
王子は、ティムの部屋に無理やり入るとベッドに横たわる。
「はぁ~、疲れた。城に戻ったみたいだ」
「どういうことです? その衣服は?」
「この宿泊所の使用人に着せられた」
「なぜです?」
「アベル兄さんが、美しいものが好きだから」
「なるほど」
「夕食は、この格好で来いってことらしい。窮屈すぎる」
「ははは。なんだか懐かしいですね。
城を出てから、まだひと月も経っていないというのに」
「本当にそうだ。わたしは、ティムとふたりがいい」
「そう……ですか?」
「ティム……。何か怒っているのか?」
「王子にですか? そんなことは、あり得ません」
「でも、さっきから目を合わせてくれないし。外でも素っ気なかった」
「そんなことは……」
「ほら、今だって」
横を向いたティムの顔を、王子が両手で挟んで自分のほうを向かせる。
「すみません、王子。少し疲れが……」
「ウソは通じないぞ、ティム。吸血鬼は、これくらいでは疲れない」
「ははっ。バレましたか。
それでは、吸血鬼の寝室に入る意味もお分かりですね?」
「えっ? それは……」
王子の目が急にキラキラと期待に輝き出す。
「窮屈な服が嫌いなら、脱がせて差し上げましょう」
「あ、でも」
「イヤなら言ってください。いつでもやめます」
「イヤ……じゃ、ない……」
破いてしまわないように、ゆっくりと王子の薄衣をはぎ取る。
いつもの装備と違い、すぐに王子は生まれたままの姿になる。
ベッドに王子を横たわらせると、ティムはじっくりと王子を眺める。
「ティム……? 恥ずかしい……んだが?」
「美しい体をしばらく見せてください。
最近は、野営ばかりで、ゆっくりと見られなかったので」
「う、ん」
「どうしたのです? さわってもいないのに、反応しているようですよ?」
「なぜ、そんなイジワルを言うのだ?」
「イジワル? なんのことですか?」
「早く、近くに来て……」
「王子の命ならば、逆らえませんね」
「さわって……」
「どこをさわりましょうか?」
「ティムがさわりたいところ、全部を」
「はい。かしこまりました」
すぐに唇を合わせるティムに、王子が喜びの表情で応える。
耳に唇を落とすと、その吐息に王子がもだえる。
首筋から胸におりていった唇は、突起を激しくねぶり尽くす。
王子の声が、大きくなる。
さらに下へとおりていく唇は、内ももの内側で止まると強く吸う。
「んん、……あっ、あっ、うぅ……」
ティムの唇の跡を刻まれると、嬉しげな声をあげる王子。
王子をクルリと返すと、背中にも唇を落とす。
指は、王子の中に入れる場所すべてに入り込み。
王子は、そのたびに鳴き声をあげ続ける。
息も絶え絶えになった王子の顔を見つめるティム。
繋がるふたりの間には、隙間などないかのように溶け合う。
「ルイ。すみません……」
「何が?」
「やっぱり、イジワルをしていました」
「どうして?」
「アベル殿下に癒しをかけられているのを見て、妬いたようです」
「妬いてくれたのか? 嬉しい……」
「わたしだけが、王子に癒しをかけたかったのです」
「うん。すまない。わたしも気をつける」
「いえ、ワガママを申しました。ケガをされていたのに」
「ううん、ワガママも嬉しい。
でも、妬いて、こんなに気持ちよくしてくれるなら。
もっと妬かせるのもいいかも知れない」
イタズラっぽく笑う王子に、ティムの胸は高鳴りが止まないのだった。
***
宿泊所に着いたオレは、なぜだか王子の顔を見るのがツラくなる。
王子との身分差みたいなものを感じて、気分が落ち込む。
ついつい、素っ気ない態度のオレ。
大人げねぇ!
と思いつつ、やめられない。
はぁ~! アホなことしてるわ、とため息をついてると。
王子登場!
しかも、何そのエロいスケスケ衣装!
アベルめ! あいつ、なかなかいい趣味してやがる!
でも、こんな服。
脱がせてくださいって言ってるようなもんだろ?
久しぶりにじっくり見る王子は、やはりキレイだ。
恥ずかしがる姿もイイ!
王子の命には逆らえないので、いただきます!
オレ、妬いてたのか⁉︎
ティムの口からだと本音がボロボロ出ちゃうみたいだ。
なんか、オレ。
この人のこと、本気で好きみたいなんだけど。
ヤバくね?
オレって、いつかは帰るんだよなぁ?
向かうは、ロート=ラント。
ティムと王子は、再び馬での旅を続けることになった。
「それにしても残念でした。どうして、魔法が……」
「うん。どうして、ティムだけダメだったのだろう?」
オランジェ滞在中、ティムは魔法書店に向かった。
今回、オランジェに目的地を決めた理由のひとつが魔法だった。
これからの戦いで、魔法が必須であると痛感していたティム。
これまでに貯めた金と砦跡の吸血鬼退治の報奨金。
ヤンが受け取らなかった薬代。
ギルドマイスターが買い取ってくれた吸血鬼の灰。
合わせると、相当の数の魔法書が買えるはずだった。
(まずは、炎だな。あとは、氷と雷も必要か?)
(馬がいるから、水上歩行もほしい)
(治療魔法が使えたら、王子も守れる)
色々と思いを巡らせながら、魔法書店に行ったというのに。
ティムには、ひとつも買うことができなかった。
この世界の魔法書は、その本の魔法に対する適性があれば開くことができる。
開くことができる本を買って読めば、魔法が習得できる。
けれど、ティムに開ける本は一冊もなかった。
一番基礎の炎魔法の書でさえも。
なんとか一冊でも、と書店中のすべての本を試してみた。
それなのに、ただの一冊も開く本はなかったのだった。
「ティム、どういうことか分からないけれど。
魔法が必要なら、わたしが学ぶよ。いいだろう?」
「はい。でも、わたしはルイを守りたくて……」
「ありがとう。気持ちは、十分に分かっている」
結局、王子がいくつかの攻撃魔法と水上歩行、治療魔法などを購入した。
解錠魔法も、上のレベルのものを見つけたようだった。
「わたしはダメでしたが、ルイの魔法が増えたのは助かります」
「うん。わたしは、少し嬉しいよ。ティムの役に立てそうで」
「何を言っているんです? あなたは、ただ存在するだけでいいんです。
わたしが、ここで生きている理由です」
「ふふ。ティムは、真面目な顔でそんなことを言う」
「本気ですから」
「うん。信じてる」
「あ、でも癒しはティムにかけてほしい。気持ちいいんだ、あれ」
「はは。もちろんです。ほかの人にかけさせたりはしません!」
「うん! わたしも、ティムだけにかけてほしい」
ロート=ラントまでは、馬で5日の距離。
のんびりとできるわけではないが、前回のように急ぐわけでもない。
馬を休ませながらも、適度に急ぐ。
オランジェで食料や水も入手できていたから、楽な旅路だった。
数日ぶりとはいえ、ふたりきりの旅に浮かれていたのかも知れない。
街道を外れた道で、モンスターにも出くわさず油断していたのかも。
ロートまで、あと2日という地点で、それは起こった。
オランジェで入手できたもののひとつに、野営用ツェルトがあった。
風を通さない布地でできていて、雪にも雨にも倒れない。
付呪されていて、少しの魔法も矢も通さない。
中は適温に保たれる仕組みになっている。
宿屋を使わなくてもいいほど快適なので、宿屋は避けて野営を続けていた。
今日もできる限り進んで、日が落ちたのでツェルトをたてた。
ツェルトがあれば、安心だと思い込んでいた。
たき火をするために、ティムが王子を残して枯れ木を探しにいく。
そのたった数分の間のことだった。
「あぁっ!」
王子の声にティムが振り返ると、王子の周辺が燃えている。
吸血鬼の暗視を使って、周囲を見渡す。
少し離れた場所に、数人の金色のローブの者たちが見える。
手のひらをぎゅっと握って、再び魔法を使おうとしているようだ。
ヒュン!
怒りに駆られたティムは、吸血鬼の速度で近づき、その全員を倒す。
金色のローブの者たちは、自分がやられたことにさえ気づかない。
そんな速度で。
それから、王子のもとへ飛ぶように急ぐ。
背中を炎魔法で焼かれた王子のもとに、ひとりの男性が寄り添っていた。
「誰だっ! その人から離れろっ!」
ティムが威嚇するように大声で叫ぶ。
すると、その人は両手を上げて王子から少しだけさがる。
「ティ、ティム。大丈夫だ……。この人は……、敵ではない」
王子が苦痛に耐えながらも、声を振り絞る。
すると再び、その男性が王子の側に近づいて手のひらを王子の背中にかざす。
その手からは、あふれんばかりの緑色の光が出ている。
「あぁ……、んくぅ、……あっ、……ん、んぅ。ふぅ、……ああ」
王子がいつもよりも大きなあえぎ声を上げる。
「もう少しだ。耐えてくれ、ルー」
「う、うん。……あ、……んふぅ、ふっ、……いやぁ……」
「よし。もう大丈夫だ、よく耐えたな。ルー」
「あ、ありがとう。アベル兄さん」
「……王子。そちらのかたは……?」
「ああ。ティムは、会ったことがなかったか。いとこのアベル兄さんだ」
「なぜ、このようなところに?」
「おまえが、ルーの従者か? わたしはアベル。ルーの母方のいとこだ」
「では、ブラオのかたですか?」
「元はそうだが、今はロートの王の元に嫁いでいる。
ルーたちが、ロートに向かっているという知らせを聞いてな。
迎えにきてみたところだったのだ」
「……王の配偶者がおひとりで?」
「いや。数人、ともにきたはずなんだが。馬がな」
「馬が?」
「あ、ほら。ようやく追いついてきたようだ」
「アベル様~! 我々の馬に合わせていただかないと~!」
「ははは。わたしのシュネルにゆっくり走れと?」
「シュネル様に追いつく馬などいないのですから」
「だから、わたしひとりでいいと言っただろう?」
「殿下をおひとりで行かせたとあっては、我々が王に叱られます」
「はっはっは。デレクは、そんな狭量な男ではないぞ」
「そうですが。そうもいかない我々の立場というものを……」
「分かった、分かった」
突然、ティムと王子の前に現れたのは、ロートの王の配偶者だった。
しかも、王子の母方のいとこだという。
ティムは、たくさんの情報が一度に降りかかって、少し混乱する。
「殿下、王子をお願いしてよろしいでしょうか?」
「構わないが、おまえはどこに?」
「先ほど、王子を襲った暗殺者たちの亡骸を確認して参ります」
「うん。分かった。ルー、こちらに来い」
「はい! 兄さん」
ティムは、サッとその場から離れて、先ほどの敵を倒した場所へと戻る。
念のため、吸血鬼の力は使わず、普通の人の速度で。
ティムは、さっきから胸に違和感を感じていた。
痛いような、モヤモヤするような。
(なんだ? 悪いものでも食べたような、この気分は?)
金色のローブの者たちの亡骸を探る。
身元を示すようなものは、何も見つからない。
(それにしても、おかしい。なぜ、我らの位置が分かったんだ?)
色々と気になるところはあるが、今は王子の側を離れすぎるのも良くない。
すぐに、ツェルトのところへ戻る。
「おう! 何か分かったか?」
「いえ、特には。あの、殿下……」
「なんだ?」
「我々の到着の知らせは、どちらから?」
「ああ。オランジェからだ。魔術師ギルドのマイスターを知ってるな?
あれは、わたしの叔父なんだ」
「なるほど、そうでしたか」
(ということは、影ギルドからの知らせか。早いはずだ)
「野営などせずとも良い。すぐ近くに、王族用の宿泊所がある。
今夜は、そこに泊まろう」
「でも、兄さん」
「おまえを外になど寝かせはしないぞ、ルーよ」
「は、はい」
「ティムもいいな? 荷物を片づけて、あとを追え。
わたしとルーは先に行く」
「……かしこまりました、殿下」
「え? でも、わたしはティムと……」
「従者にべったりという年でもないだろう。いいから、来い。
シュネルの速さを見せてやる」
「は、はい。アベル兄さん」
そういうとアベルは、軽々と王子を抱えて馬に乗せる。
自らの従者たちに、ひとことふたこと残すと、すぐに馬を走らせる。
あっという間に、アベルと王子はティムの視界から消えた。
「申し訳ありません。ティム殿。
我が殿下は、思いついたらまっすぐのかたでして……」
「いえ、とんでもない。迎えに来てくださるなど、ありがたいことです」
「それでは、我々も参りましょう。ご案内致します」
荷物を片づけたティムは、アベルの従者たちとともに宿泊所に向かう。
気のいい従者たちと世間話をしながらの道行きは、楽しいものだった。
それなのに、ティムの心のモヤは晴れる気配がない。
***
なんで魔法書が一冊も読めないんだ?
一周目では、魔法書はどんどん買えたし、読めた。
読むって言っても、開けばいいだけ。
プレイヤーが使う分厚い本の中に、取り込まれて使えるようになる。
一周目でも、スキルレベルが足りなくて使えない魔法はあった。
だけど、本は開けたし。
分厚い本に取り込むこともできたんだよなぁ。
ヌルい炎魔法さえ使えない意味が分からない。
王子が代わりに習得してくれたのはいいけどさ!
オレが、使いたいの!
魔法を!
だって、ゲーム世界だよ? 魔法は使いたいじゃん?
エロい癒し魔法が使えるし、水中呼吸も最初から使えたのに……。
なんで、ほかはダメなんだよぉぉ!
と、いくら心の中で叫んでもダメなものはダメ。
仕方なく、オレたちは前に進む。
ロートは鍛治に強い国。
もしかして、めっちゃ強い武器がゲットできるかも?
そっちに期待しよう。
オランジェを出てからの3日間は、平和なもんだった。
クマやオオカミが出るのには慣れたし。
そこら中にいるシカを倒せば、うまい肉も食える。
ツェルトは快適だし、まるでただの旅行みたいに楽しい。
夜は、変わらず王子とイチャつける。
そうそう!
このツェルト、外の音は聞こえるのに中の音は外にもれない。
すごくいい仕組み。
おかげで、王子の鳴き声はとどまるところを知らず。
すっかり堪能させてもらったぜ。
それでも警戒はしているつもりだった。
まさか、ちょっと目を離した隙に王子が襲われるなんてな!
思わないだろ~。
まぢであせった。
いくら、治せるといっても痛いものは痛い。
オレの王子に、ヤケドさせたやつは許さん!
吸血鬼パワーで、金色フード野郎どもをくびり殺す。
愛しの王子が心配で、急いで戻ってみれば……。
長身でサラリとした髪のイケメンが、王子の側に。
イラッときて、オレは怒鳴ってしまった。
「誰だっ! その人から離れろっ!」
王子を守るために叫んだのに、それを止めたのも王子。
「ティ、ティム。大丈夫だ……。この人は……、敵ではない」
じゃあ、何者なんだよ? こんなとこに突然現れて?
え? 王子のいとこ?
なんで、ティムが知らないの?
そう思っていたら、母方のいとこだって。
たまに謁見に来る親戚は、たくさんいるからなぁ。
それにしても、目立つイケメンだと思っていたらさ。
ロートの王の配偶者だって!
この人が若く美しいってウワサの配偶者か!
納得!
癒し魔法のレベルが高いみたいで、すぐに王子のヤケドを治す。
その様子を見せられたオレは、なんだかイライラしてた。
やっぱり、魔法って使えたほうがいいよな。
魔法たっぷり使えて、うらやましすぎる!
で、なんで、この人はひとりなの?
だって、王様の配偶者でしょ?
ひとりで来るかなぁ? あやしい……って思ったら。
馬がめっちゃ速いらしい。
さすが、王族が乗る馬ってことかぁ。
アベルの従者も現れて、ひと安心。
オレは、アベルに王子を預けて金色ローブたちのもとに向かう。
こいつらに、オレたちの居場所が分かるのはなんでだ?
GPSでも付いてんのか?
金色ローブを探ってみたけど、何も分からず。
今回は、暗殺指令書も見つからない。
何も得られずに王子の元に戻るオレ。
いつまで経っても、分からないことだらけだ。
って、少し落ち込んでるオレに追い討ち。
王子を連れて、アベルが先に行くんだってさ。
なんだかムカつくイケメンだ。
オレは、王子を抱いて馬に乗るのが好きなんだよぉ!
返せよぉ!
とは、立場上、言えず。
今、知り合った従者の人たちと宿泊所に向かうことになった。
ま、すっごくいい人たちだったんだが。
*****
宿泊所は、王族用というだけあって頑丈な造りに見えた。
オランジェの建物のような、不思議な美しさはない。
黒いレンガらしきものを積んで作ったように見える。
「ティム!」
「王子。お待たせしました」
「ううん。構わない。兄さんの馬は、速すぎた」
「ははは。楽しかったですか?」
「うん。少しだけ」
「それは良かった。荷物を片づけてきます」
「え? う、うん」
アベルの従者の人に案内されて、建物の二階の部屋に向かう。
宿泊所といっても王族用だけあって、かなりの広さ。
王子とティムの部屋も別々に用意されていた。
片づけるといっても、大した荷物があるわけでもない。
すぐに終わってしまい、ティムは自分にあてがわれた部屋にいた。
従者の部屋も広く、ロートが豊かな国だということがよく分かる。
トントン! トントン!
ティムが椅子に座り、ボーッとしているとドアがノックされる。
「はい」
「ティム。わたしだ」
「王子?」
すぐにティムはドアを開ける。
そこには、薄衣をまとい、ほのかに化粧をほどこされた王子が立っていた。
「王子、その格好は?」
「まずは、部屋に入れてくれ」
「でも、こちらは従者の部屋で……」
「いいから!」
「はい……」
王子は、ティムの部屋に無理やり入るとベッドに横たわる。
「はぁ~、疲れた。城に戻ったみたいだ」
「どういうことです? その衣服は?」
「この宿泊所の使用人に着せられた」
「なぜです?」
「アベル兄さんが、美しいものが好きだから」
「なるほど」
「夕食は、この格好で来いってことらしい。窮屈すぎる」
「ははは。なんだか懐かしいですね。
城を出てから、まだひと月も経っていないというのに」
「本当にそうだ。わたしは、ティムとふたりがいい」
「そう……ですか?」
「ティム……。何か怒っているのか?」
「王子にですか? そんなことは、あり得ません」
「でも、さっきから目を合わせてくれないし。外でも素っ気なかった」
「そんなことは……」
「ほら、今だって」
横を向いたティムの顔を、王子が両手で挟んで自分のほうを向かせる。
「すみません、王子。少し疲れが……」
「ウソは通じないぞ、ティム。吸血鬼は、これくらいでは疲れない」
「ははっ。バレましたか。
それでは、吸血鬼の寝室に入る意味もお分かりですね?」
「えっ? それは……」
王子の目が急にキラキラと期待に輝き出す。
「窮屈な服が嫌いなら、脱がせて差し上げましょう」
「あ、でも」
「イヤなら言ってください。いつでもやめます」
「イヤ……じゃ、ない……」
破いてしまわないように、ゆっくりと王子の薄衣をはぎ取る。
いつもの装備と違い、すぐに王子は生まれたままの姿になる。
ベッドに王子を横たわらせると、ティムはじっくりと王子を眺める。
「ティム……? 恥ずかしい……んだが?」
「美しい体をしばらく見せてください。
最近は、野営ばかりで、ゆっくりと見られなかったので」
「う、ん」
「どうしたのです? さわってもいないのに、反応しているようですよ?」
「なぜ、そんなイジワルを言うのだ?」
「イジワル? なんのことですか?」
「早く、近くに来て……」
「王子の命ならば、逆らえませんね」
「さわって……」
「どこをさわりましょうか?」
「ティムがさわりたいところ、全部を」
「はい。かしこまりました」
すぐに唇を合わせるティムに、王子が喜びの表情で応える。
耳に唇を落とすと、その吐息に王子がもだえる。
首筋から胸におりていった唇は、突起を激しくねぶり尽くす。
王子の声が、大きくなる。
さらに下へとおりていく唇は、内ももの内側で止まると強く吸う。
「んん、……あっ、あっ、うぅ……」
ティムの唇の跡を刻まれると、嬉しげな声をあげる王子。
王子をクルリと返すと、背中にも唇を落とす。
指は、王子の中に入れる場所すべてに入り込み。
王子は、そのたびに鳴き声をあげ続ける。
息も絶え絶えになった王子の顔を見つめるティム。
繋がるふたりの間には、隙間などないかのように溶け合う。
「ルイ。すみません……」
「何が?」
「やっぱり、イジワルをしていました」
「どうして?」
「アベル殿下に癒しをかけられているのを見て、妬いたようです」
「妬いてくれたのか? 嬉しい……」
「わたしだけが、王子に癒しをかけたかったのです」
「うん。すまない。わたしも気をつける」
「いえ、ワガママを申しました。ケガをされていたのに」
「ううん、ワガママも嬉しい。
でも、妬いて、こんなに気持ちよくしてくれるなら。
もっと妬かせるのもいいかも知れない」
イタズラっぽく笑う王子に、ティムの胸は高鳴りが止まないのだった。
***
宿泊所に着いたオレは、なぜだか王子の顔を見るのがツラくなる。
王子との身分差みたいなものを感じて、気分が落ち込む。
ついつい、素っ気ない態度のオレ。
大人げねぇ!
と思いつつ、やめられない。
はぁ~! アホなことしてるわ、とため息をついてると。
王子登場!
しかも、何そのエロいスケスケ衣装!
アベルめ! あいつ、なかなかいい趣味してやがる!
でも、こんな服。
脱がせてくださいって言ってるようなもんだろ?
久しぶりにじっくり見る王子は、やはりキレイだ。
恥ずかしがる姿もイイ!
王子の命には逆らえないので、いただきます!
オレ、妬いてたのか⁉︎
ティムの口からだと本音がボロボロ出ちゃうみたいだ。
なんか、オレ。
この人のこと、本気で好きみたいなんだけど。
ヤバくね?
オレって、いつかは帰るんだよなぁ?
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