魅了なんて、オレには効かない

クリヤ

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第4章 旅の終わり

(1)ティムの告白

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 アウグストとアントンの口利きで、王子とティムは城への宿泊が許された。
 城には、ふたりの客人を泊めるための部屋が用意されているらしい。

 「アウグスト様がたのおかげで、今日は宿泊できたが……。
  ミラ王には、信頼されているとは言えないだろうな」
 「はい。それは、これから次第というところでしょう」
 「ところで、ティム。どういうことだ?
  『推し』とかいう言葉を知っているのは、どうしてだ?」
 「それは……」
 「それに、書庫での行動。おまえは、何を知っている?」
 「あの……」
 「さっきから、口ごもってばかりじゃないか。
  わたしに言えないことがあるのか? わたしは、信用できないのか?」
 「いえ、決して。むしろ、信用されないのは、わたしかと」
 「ティム。わたしが、おまえを信じないことがあったか?」
 「ありません。けれど、それは、この世界でのこと」
 「この世界? どういう意味だ? まるで、世界がほかにもあるみたいな」
 「……」
 「……まさか、あるのか?」

 『推し』の意味が分かると口に出した時から、ティムは覚悟していた。
 王子には、必ず、問われるだろうと。
 誰も知らない言葉の意味を知っている理由を。
 そして、異世界のことを抜きにして語ることはできないだろうと。

 「はい。あります。わたしは、別の世界から転移してきた人間なのです」
 「……本当に?」
 「冗談を言えるような時ではないでしょう?」
 「確かに。けれど、ティムは……」
 「王子の幼なじみのティムの記憶は、わたしにもすべてあります。
  けれど、本物のティムがどうなったのか。
  それは、わたしにも分からないのです」
 「ティムの記憶が、すべてあると?」
 「はい。王子と遊んだ城の庭園、一緒に乗った馬のこと。初めての口づけ。
  それから……、今のような関係になった時のこと」
 「そんなことまで、すべての記憶があると?」
 「ええ。この世界にきてすぐに、その記憶が頭の中に流れ込んできて」
 「……そうか」
 「あまり、驚いてはおられないようですね」
 「いや、驚いてはいる。けれど」
 「本物のティムのことが、気に掛かりますか?」
 「……うん。それは、確かにそうだが……」
 「ほかにも、何か?」
 「いや、ティムの見た目にティムの記憶を持つおまえのことを……。
  ティムではないというなら、ティムとは誰なのかと思ってな」
 「ですから、それは、わたしが転移してくる前の……」
 「ふむ……」

 王子は、ティムの話を聞いて考え込んでしまう。
 ティムは、秘密を吐き出してしまうと楽になったように見える。
 ソファに沈み込んで、王子の答えを待っている。

 しばらく考え込んでいた王子が、ゆっくりと顔を上げる。
 その表情は、決意に満ちたようにも、諦めにも見える。

 「ひとつ、聞きたいことがある」
 「はい、何でもお答え致します」
 「おまえは、その元いた世界に帰るつもりはあるのか?」
 「自分の意思で、ということならば。そのつもりは、ありません」
 「他人の意思で、ということがあり得るのか?」
 「わたしの浅い知識でお話させていただきます。
  転移は、そのほとんどが召喚によるもの。
  己の意思とは関係なく、突然、こちらの世界に呼び出されるのです」
 「ということは、戻る時も、突然、戻されるということか?」
 「その可能性は否定できませんが……。
  異世界に転移して、戻ってきた人は、ほとんどいません。
  召喚はできても、送り返す方法は分からないことが大抵です」
 「おまえを召喚した者に心当たりは?」
 「ありません。これまで、特にそういった接触もありませんでした」
 「それでは、おまえは、今まで、望まぬまま、この世界にいたのか?」
 「いえ。わたしは、王子といられて幸せでしたから。
  元の世界に戻りたいと思ったこともありませんでした」

 ティムの言葉に、王子は少し照れたような表情を浮かべる。
 それから、少し聞きづらそうに、それでも口を開いた。

 「おまえは、ずっと、わたしを好きだと。一緒にいられて幸せだと言う。
  なぜだ? おまえにとって、わたしは見知らぬ異世界の人だろう?」
 「それが、違うのです。わたしは、別の世界にいながらも。
  ずっと、あなたを見ていました。恋のようなものでした」
 「なに? どうやって?」
 「それだけは、説明するのが難しいのです。
  あちらの世界からだけ覗ける窓のようなものがあると思ってください」
 「そんなものが?」
 「はい。それを見ながら、わたしは、あなたに恋をしたのです。
  会いたい。抱きしめたい。そう思ってさえ、いました」
 「そう……だったのか」
 「はい。だから、嬉しかった。
  そう考えると、この世界に召喚したのは、わたし自身かも知れません」
 「どういう意味だ?」
 「わたしは、元いた世界を愛してはいませんでした。
  そこに生まれたから仕方なく、息をしていただけ。
  愛する人がいる世界に行きたいという強い思いが、わたしをここに。
  そんな気がしてならないのです」
 「ティム……。わたしだって、おまえを……」

 そう言いかけた王子の言葉を遮って、ティムは言葉を続ける。

 「けれど、許して欲しいとは言えません。
  本物のティムのフリをしていたわたしを」
 「わたし……、わたしは、おまえを愛している」
 「この話を聞いても、そう言ってくださるのですか?
  わたしの本当の姿は、今のティムとは似ても似つかないのですよ?」
 「姿? わたしは、ティムの姿を愛したわけじゃない」
 「わたしの元の世界での姿は、オルクのようなものです」
 「ふふふ」
 「何か、おもしろいですか?」
 「さっきからティムは、わたしに嫌われようとしているようで。
  少しおかしくなった。大抵の人は、好かれようとするものだが」
 「本当のことを言ってこなかったのです。
  そのくらいの罰は、受けなければならないかと」
 「わたしは、自分の前世の姿は知らない。
  前世というものがあるのかも知らないけれど。
  おまえは、わたしの前世が虫だったら、今のわたしを嫌いになるのか?」
 「そんなことは、絶対にあり得ません。
  前世が虫だろうと、魔物だろうと、今のあなたを愛しているので」
 「ほらな」
 「あっ……」

 王子は、ティムの手を取ってその指に自分の指をからめる。
 そして、手の甲に口づけをした。

 「おまえが何者でも、今のおまえを愛している。
  だから、頼む。ずっと離さないでくれ。どこにも行くな」
 「いいのですか? ずっと、ともにいても」
 「当然だ。おまえは、わたしの魂の伴侶だ」

 その言葉を聞いたティムが、王子の唇をふさぐ。
 王子は、すべてを受け止めるように口を開く。
 ティムは、王子のすべてをひとつずつ確かめるように舌を使う。
 いつもは、同じくらい、からめてくる王子が受け身のまま。
 されるがままになっている。

 「ルイ……?」
 「今日は、すべてをおまえにまかせたいんだ。わたしの信頼と愛の証しだ」
 「いいのですか?」
 「うん。そう、されたい」

 ティムは、まるで飢えた獣のように王子のすべてに唇を這わせる。
 手のひらは、王子のすべてを撫でまわす。
 指は、王子の体にある窪みという窪みすべてを探り。
 胸の桃色の突起は、止むことなく、なぶり、しゃぶられる。
 王子の桃色の唇が、はぁはぁと荒い息を吐く。
 すぐに、その唇はティムによって、ふさがれる。
 体すべてが快感に震えると、ティムはゆっくりと王子の中に入り込んだ。
 緩やかな動きは、やがて激しく、くり返す動きに変わる。
 王子は、ティムの肩に歯を立てて、耐える。

 「きょ、今日は……、さ、最後まで、気を失わない……」

 王子が切なげな声で、そうティムの耳元で言う。
 その言葉に、ティムはますます動きが止められなくなる。

 「……好き、好きだ……。ティム……」

 絞り出すような声で、そう言うと、王子は気を失った。
 ティムは、最後に強くひと突きすると果てる。
 身も心も、今までになく満ち足りていた。

 数時間後。
 王子を胸に抱いて眠っていたティムは、覚えのある気配に目を開ける。
 
 「おふたりのお気持ちが、真に通じ合ったようで何よりです」
 「そんな時くらい、遠慮はしてくれないのか?」
 「そうしたいのですが、そうも言ってはいられないようです」
 「何があった?」
 「王都で全王会議が開かれます」
 「どなたが招集を?」
 「王都の国王陛下です」
 「議題は?」
 「次の国王の選出とのことです」
 「なにっ? まだ陛下は引退なさる年ではないだろう?」
 「ええ。詳細は不明です。ご自身の意思かどうかも。
  なるべく早く王都にお戻りを」
 「分かった。そのつもりだったが、より急ごう」
 「我ら影ギルドにできることは?」
 「各地をまわって、伝説の宝を持って参集いただくようにと。
  王たちに伝えてもらいたい」
 「戦いがあると?」
 「分からない。けれど、同時期に失われ、同時期に見つかった宝だ。
  意味がないとは思えない」
 「なるほど、それでは、そのように」

 影ギルドの男が、来た時と同じように闇に消える。
 満足気な表情で眠る王子をティムは、ぎゅっと抱きしめる。
 何かの終わりが近づいている。
 そんな気がしていた。
 ぶるり、と身を震わせるとティムは、王子をかき抱いて目をつむった。


 ***

 王子には、いつか言わなければと思っていたこと。
 オレの正体。
 だけど、今の関係を壊したくなくて。
 いや、本物のティムを返せと泣かれるのが怖くて?
 オレは、ずっと先送りにしてきた。

 けどさ。
 『推し』なんて言葉を使ったからには。
 もう説明するしかない。
 これで追い出されても、仕方がない。
 覚悟はしたけど、ちょっとツラい。

 だが、オレの予想に反して!
 案外、王子は冷静だった。
 もしかして、ピンときていないのかも?
 異世界転移なんて、すぐに理解できるもんじゃねぇしな。

 不思議なことに、王子の関心は転移とかじゃなくて。
 ティムが、離れちゃわないかだった。
 本物のティムのことは知らんが、オレなら大丈夫。
 王子がいいと言うなら、絶対に離れたりしない。

 王子は、オレの話を落ち着いて聞いて。
 さらに、それでもいいと言ってくれた。
 身も心もまかせるって。
 オレは、今の心のすべてをぶつけるように王子を抱いた。
 あまりの快感に、オレも気を失いそうだ。
 何とか耐えて、王子を抱いて眠る。

 って、こんな時ほど現れる影ギルドの人!
 お久しぶりですが、今じゃなくても。
 そう思ったけど、そうも言っていられなくなった。
 全王会議が開かれる。
 ゴルトの姫のことで、王都に向かう予定だったから都合はいい。
 都合が良すぎて、疑いたくなる。
 この世界、誰かの意思で動いてないか?
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