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第4章 旅の終わり
(5)伝説の宝の意味
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ただぼんやりと旅をさせちゃあ、王子がまた腑抜け野郎になりそうだから。
わたしは、ちょくちょく獣をけしかけることにした。
っていうか、森の獣たちは、王子が近づいたら襲うって設定にした。
本当の獣は、あ、魔物もね。
武器を持ってる人間になんか近づかない。
ちゃんと匂いで判別して、さっさと隠れちゃう。
だけど、それじゃあ、王子が危機を感じないからさ。
不自然だけど、街道にまで獣が出る設定にさせてもらった。
毛皮や肉は売れるから、旅の資金にちょうどイイしね。
ゲームの世界なら、寝なくてもOKだけどさ。
それがリアルになっちゃったら、そうはいかない。
寝て、食べて、買い物して、結構、お金がかかる。
資金提供のためなら、しょうがない。
ま、獣や魔物って、気づいたら増えてるし。アリだよね?
王子が、わたしの思惑通りに、ティムとラブラブになって。
連邦のほかの国をまわりだすと、わたしには、あまりやることがない。
で、思い出した!
この子、どうにかしなきゃ。
この子っていうのは、ゴルトの姫ね。
体を返すつもりだけど、なんとなく戻ったじゃ、お話にならない。
もっと、最後の戦いみたいなのが必要なんじゃない?
ってわけで、伝説の宝を登場させてみる。
各地に散らばせて配置。
配置した途端に、人々の頭の中には、新しい歴史が刻まれる。
古の盗賊に盗まれた伝説の宝が各地に隠されていて、ってやつ。
さっきまでなかった宝なのにね。
自分でやってて、少し怖くなる。
元の世界にいた時のわたしが知ってる歴史ってやつもさ。
誰かが、思いつきで作ったやつで。
わたしたちの記憶は改ざんされてて。
そう思い込まされてるって可能性もあるんじゃない?
別に、陰謀論が好きなわけじゃないけど。
こんなに簡単に、人の記憶が変わっちゃうとさ。
そんなことも考えちゃうよね。
わたしが作り出した伝説の宝は、いい具合に働いてくれた。
王子とティムの前に都合よく現れる設定だけど。
それを手に入れることで、次の国への足がかりになったりするし。
王子を信用してもらえるキッカケにもなる。
まぁ、そうだよね。
王都の王子とはいっても、連邦制でそれぞれの国は独立してるんだし。
逃げてる王子が『王子です!』って胸張って、登場されてもね。
街づくりゲームをしてるような気分になってきた。
自分の意思で街ができていくのって、楽しいじゃん?
独裁者が、権力を手放せなくなるのも分からなくもない。
でも、影響って、自分の想像してないとこに出るからヤバい。
宝箱を置いた途端に、ゴブリン大量発生とか。
吸血鬼がワラワラいる砦跡とか。
そんなことが起きるなんて、思ってなかった。
一番、迷惑かけちゃったのはグリュン。
魔物を使役してたから、その魔物が宝箱の影響で暴走しちゃうし。
神でもさ、自分の想定外のところに影響出るくらいだもん。
人ひとりの独裁って、やっぱムリなんだね。
なんとか、すべての宝をゲットして、各国の協力も取りつけた。
それに、ティムとのラブラブも最高潮!
っていう王子を見られたから、わたしは大満足。
さて、そろそろ、王子の物語をハッピーエンドに向かわせないと。
それに、ゴルトの姫のことも解放してあげないとね。
わたしは、王都に大きな魔法をぶち上げる。
最後の魔法。
そして、各地に散らばせて配置しておいた魔物を王都に呼び寄せる。
王都と連邦の関係は、微妙な緊張状態。
王都は建前上の地位が、連邦の上にある。
でも、その地位は磐石なものじゃなくて、各国の同意がなければ終わる。
だけど、共通の敵が現れれば、『敵の敵は、味方』ってやつになる。
王子には、このあとも幸せでいて欲しいからね。
灰色の不穏な雲を王都の上にかける。
その中心にいるのは、ゴルトの姫。
……の中に入ってるわたし。
各国の王たちが、わたしの狙い通りに、伝説の宝とともに登場。
彼らを傷つけないように、魔法攻撃や物理攻撃を発動。
ちゃんとかわせるように、ゆっくりと。
最後は、母の愛で。っていっても、結構激しい雷ですが。
ビリビリビリッとね。
ゴルトの姫の頭上に落ちたように見えるけど、もちろん、わたしの加護付き。
ケガは、させてない。
この瞬間に、わたしはゴルトの姫から抜け出す。
体を貸してくれて、ありがとう。
これからは、神目線だけで、みんなを見守るよ。
さて、神が介入しない世界を、どういう風に変えていくのか。
ひたすらに、楽しみだ。
だけど、もし。
また、わたしがイラッとする世界を作られたら。
やっぱり、介入しちゃうかも知れない。
ワガママかな?
まぁ、神だからね。
*****
王都にかかった不穏な灰色の雲が消え去った日の翌日。
城の大会議室では、全王会議が行われていた。
王都全体にかけられていた魅了魔法は、解けていた。
王も王妃も、元の『賢王』と『国母の鏡』としての姿を取り戻している。
「このたびは、我の不徳の致すところにより、連邦に大変な混乱を引き起こした。
各国の王の皆様には、詫びても詫びきれない。本当に申し訳なかった」
会議は、王の謝罪から始まった。
その謝罪に対して、真っ先に口を開いたのはゴルトのミラ王。
「王都全体にかけられた大規模魔法の正体は、未だ分かっていません。
誰がかけたのか、どのような目的があったのか。
そもそも、魔術師ギルドでさえ、その正体を突き止められないのです。
そうでしょう? オランジェ王?」
「そうだ。ゴルト王。
魔術師ギルドの総力を持ってしても、分からないとの報告を受けている」
「だから、王のせいではないと言いたいのだろう?
それなら、そう言えばいいのに」
「そうは言うが、ロート王。物事には、手順というものが……」
「はっはっは。もうすべて、済んだことだろう?
我らが考えるべきことは、過去の事件の犯人探しなんぞではない。
未来の連邦のあるべき姿だろう」
「貴殿の言う通りだと思いますよ、ブラオ王よ。
我らは、この王都に降りかかった災厄で失ったものはない。
むしろ、得たものがある。そうではありませんか? 皆様?」
グリュン王ハンナの呼びかけに、王たちがそれぞれうなずく。
王都の王は、それを目にすると、安堵のため息をついた。
「今回のことは、嵐や雷のような自然災害のひとつ。
そう考えるのが、最も適していると思いますが、いかがでしょう?」
「そうだな。自然災害に最も詳しいグリュン王が言うなら、そうだろう」
「ありがとうございます。それでは、全王会議としては……」
「王に責任を求めない、それでいいんじゃないか?」
「賛成します」
「我も同意する」
グリュン王の提案は受け入れられ、王は責任を問われないことになった。
「引き換えというわけではありませんが……」
そう言って、グリュン王が提案したのは、新しい法律だった。
それは、連邦における種族差別の完全禁止。
そして、モントツッカーの流通禁止の解除だった。
「今回の災害に活躍したのは、カッツェンに吸血鬼、ヴェアヴォルフ。
彼らの力なしに、伝説の宝を探し出し、災害を防ぐことはできませんでした。
それに、モントツッカーは、人には中毒性がないことが判明しました。
それどころか、魔物を従順にさせる効力があるのです」
「うん。我らは、それをこの目で見た。王都へ続く橋の上でな」
「ああ。あれは、壮観だった」
グリュン王の提案は、全会一致で可決された。
連邦内では、これから、自然な姿であらゆる種族が暮らせることになる。
「だが、差別禁止だといっても、それが徹底されるかは分からないぞ」
「そうですね。それに関しては、秘策があります。王子、どうぞ」
会議室の扉を開けて入ってきたのは、ルートヴィッヒ王子。
その姿は、カッツェンに変身していた。
「ま、まさか、ルートヴィッヒなのか?」
王が息子のカッツェン姿を目の当たりにして、驚愕のまま固まる。
王が王妃のほうを見ると、王妃は諦めのため息をついている。
「王妃よ、そなたは知っていたのか?」
「ええ。わたしの祖先に、グリュンの王族と婚姻した者がいます。
ですから、稀に、先祖と同じ力を持つ者が生まれるのです」
「今まで、なぜ、秘密に?」
「まだまだ差別があるからです。幸い、変身は魔導具で抑えられますから」
そこで、口を開いたのは王子だった。
「父上、母上。わたしは、今回のことで、自分の気持ちを知りました。
カッツェンであることを隠したくはないし、愛しているのは従者です。
その気持ちを大切にできないのなら、わたしは王子の地位を捨てます」
それを聞いた各国の王たちが、拍手を贈る。
「皆様は、驚かれていないようだが……」
「そうですよ、王よ。王子は、我らとともに多くの困難を制した。
そのカッツェンとしての能力を使って。
この場にいる者は、それをよく知っている」
「知らなかったのは、我だけということか……」
自分だけが知らない事実に衝撃を受けた王だった。
が、そこは『賢王』と呼ばれるだけの知力と度量があった。
「分かった。王子に、それだけの覚悟があるというのなら。
王子を使って、今度こそ、本当に連邦を差別のない国にしてみせよう」
王の宣言に、先ほどよりも大きな拍手が巻き起こる。
「して、王の交代は……?」
当初の議題とされた『王の交代』の話を王自身が持ち出す。
それを聞いたオランジェ王が、口を開く。
「それは、あの不思議な災害が言わせた間違いだろう。
我は、現国王に不満はない。種族差別のない国を実現してもらいたい。
そう思うのだが、皆はいかがか?」
やはり大きな拍手が起こる。
全王会議は、和やかな雰囲気の中で閉会を迎えた。
各国の王たちは、しばらく王都滞在を楽しむと、それぞれ自国へと戻った。
王子は、全王会議で宣言した通り、ピアスを外して生活を始めた。
1日に2時間、王子はカッツェン姿に変身してしまう。
すると、王子は城を出て、街や周辺地域に向かう。
街を歩くカッツェンが王子であることは、すでに国民に知らされている。
それゆえ、『ネコ』などと揶揄する輩はいなくなった。
そのほかのカッツェンや吸血鬼、ヴェアヴォルフ。
これらの種族の者たちも、王都に普通に入ってこられるようになった。
当初は、その姿に怯える者もいた。
けれど、人は大抵のことには慣れていく。
今では、当たり前の住人として受け入れられるようになった。
モントツッカーの流通解禁で、連邦内では魔物の使役が普通になった。
手軽な労働力の増加で、各地はより豊かになった。
王都は特色のない地域から、連邦内のすべてのものが手に入る都市へと変わった。
他国からの旅行者も増え、真の王都にふさわしい姿になった。
王子とティムは、その後も、ともに過ごした。
数年後、王子は全王会議の全会一致で王都の王に選ばれた。
その発表と同時に、王子はティムとの婚姻を国民に報告した。
従者との婚姻を王子がしたことで、変わったことがある。
身分差での婚姻に反対する者は、この国にはいなくなった。
王子とティムは、王と王配として、国によく尽くした。
早めの隠居をしたあとは、グリュンに居を移し、仲睦まじく暮らした。
「ティム……。本当に離れないでいてくれるなんて思わなかったよ」
「なぜです? ルイ。わたしは、初めからそう言っていたじゃないですか」
「うん……。だが、いつか、元の世界に戻ってしまうんじゃないかって」
「わたしから戻ることは、絶対にないと言ったでしょう?
もし戻るとしたら、神の気まぐれくらいだろうと」
「そうだな……。神が気まぐれを起こさないでくれて嬉しいよ」
「ええ。きっと、この世界の神は、我々に好意的なんでしょう」
「大変なこともたくさんあったけどな」
「はい。でも、最後は幸せに。そんな意思を感じるのです」
「そうか……」
緑に囲まれたグリュンの別邸。
ティムのひざ枕で午睡を楽しむルートヴィッヒ。
その様子を人の及ばぬ場所から、ほほ笑ましそうに見る神。
それは、ふたりには関係のないこと。
ふたりは、ただ互いの存在を確かめ合うように寄り添っていた。
わたしは、ちょくちょく獣をけしかけることにした。
っていうか、森の獣たちは、王子が近づいたら襲うって設定にした。
本当の獣は、あ、魔物もね。
武器を持ってる人間になんか近づかない。
ちゃんと匂いで判別して、さっさと隠れちゃう。
だけど、それじゃあ、王子が危機を感じないからさ。
不自然だけど、街道にまで獣が出る設定にさせてもらった。
毛皮や肉は売れるから、旅の資金にちょうどイイしね。
ゲームの世界なら、寝なくてもOKだけどさ。
それがリアルになっちゃったら、そうはいかない。
寝て、食べて、買い物して、結構、お金がかかる。
資金提供のためなら、しょうがない。
ま、獣や魔物って、気づいたら増えてるし。アリだよね?
王子が、わたしの思惑通りに、ティムとラブラブになって。
連邦のほかの国をまわりだすと、わたしには、あまりやることがない。
で、思い出した!
この子、どうにかしなきゃ。
この子っていうのは、ゴルトの姫ね。
体を返すつもりだけど、なんとなく戻ったじゃ、お話にならない。
もっと、最後の戦いみたいなのが必要なんじゃない?
ってわけで、伝説の宝を登場させてみる。
各地に散らばせて配置。
配置した途端に、人々の頭の中には、新しい歴史が刻まれる。
古の盗賊に盗まれた伝説の宝が各地に隠されていて、ってやつ。
さっきまでなかった宝なのにね。
自分でやってて、少し怖くなる。
元の世界にいた時のわたしが知ってる歴史ってやつもさ。
誰かが、思いつきで作ったやつで。
わたしたちの記憶は改ざんされてて。
そう思い込まされてるって可能性もあるんじゃない?
別に、陰謀論が好きなわけじゃないけど。
こんなに簡単に、人の記憶が変わっちゃうとさ。
そんなことも考えちゃうよね。
わたしが作り出した伝説の宝は、いい具合に働いてくれた。
王子とティムの前に都合よく現れる設定だけど。
それを手に入れることで、次の国への足がかりになったりするし。
王子を信用してもらえるキッカケにもなる。
まぁ、そうだよね。
王都の王子とはいっても、連邦制でそれぞれの国は独立してるんだし。
逃げてる王子が『王子です!』って胸張って、登場されてもね。
街づくりゲームをしてるような気分になってきた。
自分の意思で街ができていくのって、楽しいじゃん?
独裁者が、権力を手放せなくなるのも分からなくもない。
でも、影響って、自分の想像してないとこに出るからヤバい。
宝箱を置いた途端に、ゴブリン大量発生とか。
吸血鬼がワラワラいる砦跡とか。
そんなことが起きるなんて、思ってなかった。
一番、迷惑かけちゃったのはグリュン。
魔物を使役してたから、その魔物が宝箱の影響で暴走しちゃうし。
神でもさ、自分の想定外のところに影響出るくらいだもん。
人ひとりの独裁って、やっぱムリなんだね。
なんとか、すべての宝をゲットして、各国の協力も取りつけた。
それに、ティムとのラブラブも最高潮!
っていう王子を見られたから、わたしは大満足。
さて、そろそろ、王子の物語をハッピーエンドに向かわせないと。
それに、ゴルトの姫のことも解放してあげないとね。
わたしは、王都に大きな魔法をぶち上げる。
最後の魔法。
そして、各地に散らばせて配置しておいた魔物を王都に呼び寄せる。
王都と連邦の関係は、微妙な緊張状態。
王都は建前上の地位が、連邦の上にある。
でも、その地位は磐石なものじゃなくて、各国の同意がなければ終わる。
だけど、共通の敵が現れれば、『敵の敵は、味方』ってやつになる。
王子には、このあとも幸せでいて欲しいからね。
灰色の不穏な雲を王都の上にかける。
その中心にいるのは、ゴルトの姫。
……の中に入ってるわたし。
各国の王たちが、わたしの狙い通りに、伝説の宝とともに登場。
彼らを傷つけないように、魔法攻撃や物理攻撃を発動。
ちゃんとかわせるように、ゆっくりと。
最後は、母の愛で。っていっても、結構激しい雷ですが。
ビリビリビリッとね。
ゴルトの姫の頭上に落ちたように見えるけど、もちろん、わたしの加護付き。
ケガは、させてない。
この瞬間に、わたしはゴルトの姫から抜け出す。
体を貸してくれて、ありがとう。
これからは、神目線だけで、みんなを見守るよ。
さて、神が介入しない世界を、どういう風に変えていくのか。
ひたすらに、楽しみだ。
だけど、もし。
また、わたしがイラッとする世界を作られたら。
やっぱり、介入しちゃうかも知れない。
ワガママかな?
まぁ、神だからね。
*****
王都にかかった不穏な灰色の雲が消え去った日の翌日。
城の大会議室では、全王会議が行われていた。
王都全体にかけられていた魅了魔法は、解けていた。
王も王妃も、元の『賢王』と『国母の鏡』としての姿を取り戻している。
「このたびは、我の不徳の致すところにより、連邦に大変な混乱を引き起こした。
各国の王の皆様には、詫びても詫びきれない。本当に申し訳なかった」
会議は、王の謝罪から始まった。
その謝罪に対して、真っ先に口を開いたのはゴルトのミラ王。
「王都全体にかけられた大規模魔法の正体は、未だ分かっていません。
誰がかけたのか、どのような目的があったのか。
そもそも、魔術師ギルドでさえ、その正体を突き止められないのです。
そうでしょう? オランジェ王?」
「そうだ。ゴルト王。
魔術師ギルドの総力を持ってしても、分からないとの報告を受けている」
「だから、王のせいではないと言いたいのだろう?
それなら、そう言えばいいのに」
「そうは言うが、ロート王。物事には、手順というものが……」
「はっはっは。もうすべて、済んだことだろう?
我らが考えるべきことは、過去の事件の犯人探しなんぞではない。
未来の連邦のあるべき姿だろう」
「貴殿の言う通りだと思いますよ、ブラオ王よ。
我らは、この王都に降りかかった災厄で失ったものはない。
むしろ、得たものがある。そうではありませんか? 皆様?」
グリュン王ハンナの呼びかけに、王たちがそれぞれうなずく。
王都の王は、それを目にすると、安堵のため息をついた。
「今回のことは、嵐や雷のような自然災害のひとつ。
そう考えるのが、最も適していると思いますが、いかがでしょう?」
「そうだな。自然災害に最も詳しいグリュン王が言うなら、そうだろう」
「ありがとうございます。それでは、全王会議としては……」
「王に責任を求めない、それでいいんじゃないか?」
「賛成します」
「我も同意する」
グリュン王の提案は受け入れられ、王は責任を問われないことになった。
「引き換えというわけではありませんが……」
そう言って、グリュン王が提案したのは、新しい法律だった。
それは、連邦における種族差別の完全禁止。
そして、モントツッカーの流通禁止の解除だった。
「今回の災害に活躍したのは、カッツェンに吸血鬼、ヴェアヴォルフ。
彼らの力なしに、伝説の宝を探し出し、災害を防ぐことはできませんでした。
それに、モントツッカーは、人には中毒性がないことが判明しました。
それどころか、魔物を従順にさせる効力があるのです」
「うん。我らは、それをこの目で見た。王都へ続く橋の上でな」
「ああ。あれは、壮観だった」
グリュン王の提案は、全会一致で可決された。
連邦内では、これから、自然な姿であらゆる種族が暮らせることになる。
「だが、差別禁止だといっても、それが徹底されるかは分からないぞ」
「そうですね。それに関しては、秘策があります。王子、どうぞ」
会議室の扉を開けて入ってきたのは、ルートヴィッヒ王子。
その姿は、カッツェンに変身していた。
「ま、まさか、ルートヴィッヒなのか?」
王が息子のカッツェン姿を目の当たりにして、驚愕のまま固まる。
王が王妃のほうを見ると、王妃は諦めのため息をついている。
「王妃よ、そなたは知っていたのか?」
「ええ。わたしの祖先に、グリュンの王族と婚姻した者がいます。
ですから、稀に、先祖と同じ力を持つ者が生まれるのです」
「今まで、なぜ、秘密に?」
「まだまだ差別があるからです。幸い、変身は魔導具で抑えられますから」
そこで、口を開いたのは王子だった。
「父上、母上。わたしは、今回のことで、自分の気持ちを知りました。
カッツェンであることを隠したくはないし、愛しているのは従者です。
その気持ちを大切にできないのなら、わたしは王子の地位を捨てます」
それを聞いた各国の王たちが、拍手を贈る。
「皆様は、驚かれていないようだが……」
「そうですよ、王よ。王子は、我らとともに多くの困難を制した。
そのカッツェンとしての能力を使って。
この場にいる者は、それをよく知っている」
「知らなかったのは、我だけということか……」
自分だけが知らない事実に衝撃を受けた王だった。
が、そこは『賢王』と呼ばれるだけの知力と度量があった。
「分かった。王子に、それだけの覚悟があるというのなら。
王子を使って、今度こそ、本当に連邦を差別のない国にしてみせよう」
王の宣言に、先ほどよりも大きな拍手が巻き起こる。
「して、王の交代は……?」
当初の議題とされた『王の交代』の話を王自身が持ち出す。
それを聞いたオランジェ王が、口を開く。
「それは、あの不思議な災害が言わせた間違いだろう。
我は、現国王に不満はない。種族差別のない国を実現してもらいたい。
そう思うのだが、皆はいかがか?」
やはり大きな拍手が起こる。
全王会議は、和やかな雰囲気の中で閉会を迎えた。
各国の王たちは、しばらく王都滞在を楽しむと、それぞれ自国へと戻った。
王子は、全王会議で宣言した通り、ピアスを外して生活を始めた。
1日に2時間、王子はカッツェン姿に変身してしまう。
すると、王子は城を出て、街や周辺地域に向かう。
街を歩くカッツェンが王子であることは、すでに国民に知らされている。
それゆえ、『ネコ』などと揶揄する輩はいなくなった。
そのほかのカッツェンや吸血鬼、ヴェアヴォルフ。
これらの種族の者たちも、王都に普通に入ってこられるようになった。
当初は、その姿に怯える者もいた。
けれど、人は大抵のことには慣れていく。
今では、当たり前の住人として受け入れられるようになった。
モントツッカーの流通解禁で、連邦内では魔物の使役が普通になった。
手軽な労働力の増加で、各地はより豊かになった。
王都は特色のない地域から、連邦内のすべてのものが手に入る都市へと変わった。
他国からの旅行者も増え、真の王都にふさわしい姿になった。
王子とティムは、その後も、ともに過ごした。
数年後、王子は全王会議の全会一致で王都の王に選ばれた。
その発表と同時に、王子はティムとの婚姻を国民に報告した。
従者との婚姻を王子がしたことで、変わったことがある。
身分差での婚姻に反対する者は、この国にはいなくなった。
王子とティムは、王と王配として、国によく尽くした。
早めの隠居をしたあとは、グリュンに居を移し、仲睦まじく暮らした。
「ティム……。本当に離れないでいてくれるなんて思わなかったよ」
「なぜです? ルイ。わたしは、初めからそう言っていたじゃないですか」
「うん……。だが、いつか、元の世界に戻ってしまうんじゃないかって」
「わたしから戻ることは、絶対にないと言ったでしょう?
もし戻るとしたら、神の気まぐれくらいだろうと」
「そうだな……。神が気まぐれを起こさないでくれて嬉しいよ」
「ええ。きっと、この世界の神は、我々に好意的なんでしょう」
「大変なこともたくさんあったけどな」
「はい。でも、最後は幸せに。そんな意思を感じるのです」
「そうか……」
緑に囲まれたグリュンの別邸。
ティムのひざ枕で午睡を楽しむルートヴィッヒ。
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