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第4章 旅の終わり
(4)悩める王子
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王子は、わたしが見ていたままの姿で完璧なイケメン。
早くほかのイケメンとの、いや、イケメンじゃなくてもいいけど。
ラブラブならいいんだ。
特に、わたしは、くっつくまでがツラい話は好みじゃない。
どっちかというと、さっさとくっついて、そのあとのラブラブライフ。
そんな恋を見せてくれ!
そう思って、しばらく見ていたのに。
王子は、公務以外では誰とも関わらず、自室にこもる日々。
はぁぁぁ、と大きなため息をついては、窓から月を見たりしている。
好きな人がいないのかな?
それとも、まさか王子が『BLの世界』の住人じゃない?
そうも思ったけど、よくよく聞いてみると。
王子の口からは、『ティム……』って言葉がもれている。
たぶん、そいつが王子の想いびと。
ティムか……、なんでここにいないんだろう?
遠くに住んでる?
だけど、この世界での王子は権力者なんだから。
呼べばいいよね?
まぁ、もう少し見てみよう。
一旦、王子は置いといて、ほかの国を見に行ってみる。
さすが、『BLの世界』。
王族の婚姻相手が、同性とかが当たり前。
ロート=ラントのデレクとアベルのカップルは、気にいったわ~!
すっごいラブラブで、見てるのが楽しすぎる。
でも、じゃあ、この国に旅してきた王子って、誰と恋をするんだ?
元々のゲームでは、デレクって独り身だったような?
そうだ、そうだよ!
そもそも王子って、もうちょい明るい雰囲気だし。
父王の王権の維持のための旅に出るっていいながらさ。
実際には、各地のイケメンとの恋を楽しみ、情事を楽しみまくり。
それが、結果として、各国の協力をもらえることになって……。
って、まぁ、よくあるご都合主義な展開なんだけど。
でも、プレイヤーが見たいのは、そういう王子なんだし?
別に、実際の国が動いてるわけじゃないから?
それでいいよね? ってことなんだけど。
この世界。
ちゃんと見てみると、やっぱりゲームとは違うみたい。
オモチャみたいに見えても、人々には生活があるし。
国王たちは、恋を楽しみながらも、国家運営に真剣だ。
設定は、ゲームそのものなんだけど。
ここに生きてる人たちにとっては、ここが唯一の世界。
それぞれが、日々を懸命に生きてるんだなぁ。
そんなことを、ようやく理解するわたし。
そう思ったら、あまりヘタなことはできない。
たわむれに瓶を壊せば、それを買うために苦労する人がいる。
せっかく育ったりんごを落とせば、日々の糧に困る人が出る。
そういうことを理解しちゃうと、手は出せなくなる。
元の世界にいた時はさ。
『ああ、なんで神様は願いを叶えてくれないのかな?』
なんて、人並みに思ってたけどさ。
ひとつの願いを神様パワーで叶えちゃったら、ほかに影響が出るんだもん。
そりゃ、なかなかできねぇわ。
ゴルトの隠居のふたりもお気に入りカップル。
穏やかな雰囲気のイケオジふたり。
あれで、意外に夜は燃えてんのよ!
そこがまたイイ!
このふたりもさ。
国のために、惜しまれながら早めの引退をしたっぽいんだよね。
どんなに人気があって、力があってもさ。
持ち続けた力は、腐敗してく。
それが、アウグストの経験上の考えらしい。
特に、経済大国のゴルトにとってはね。
経済を回していくには、常に新しい風を取り入れなきゃいけない。
若い人に、若いうちにチャンスを与えなきゃいけない。
そうしないと、同じところにとどまった水はあっという間に腐る。
そういうこと。
確かに、若いうちに認められたミラは大活躍。
多少のムチャをしても、若いからリカバリーも早い。
次世代を担う娘もすでに大きくなっていて。
隠居のふたりが元気なうちに、次の次の世代まで作っとくと安泰。
ゴルトの国が、連邦で最もお金持ちなのも分かるわ。
それ以外の連邦の国もさ。
その国独自の資源を上手に使って、国家運営をしてる。
逆に王都だけが、なんだか遅れているみたい。
価値観も昔っぽい。
そう、王都だけが種族や同性婚に差別的だったりする。
やたら、身分にこだわってみたり。
そのくせ、薬物とか禁止事項だけは多い。
差別禁止法、なんて法律はあるくせに、差別的。
あ、逆か。
差別があるから、禁止法があるんだね。
ほかの国はない法律だもんね。
ほかの国を堪能して、久しぶりに王都に戻ってみれば。
王子は、あいかわらず、ぐずぐずと悩み中。
その上、ハンパな返事をしたもんだから、婚約者選びが進んでる!
えっ? ちょっと! どうするの?
王子の好きな人は、ティムとかいうやつじゃないの?
おいおい! 今のままじゃ、王子に関わった人が不幸になるじゃん。
愛されない王妃に、愛されない子ども。
なんじゃ、そりゃ。
そんなの、わたしが望んだ『BLの世界』じゃねぇ~!
ボ~ッとしてんなよ、王子!
この世界の神として、穏やかに過ごそう。
人々の生活に、手を出すのはやめよう。
そう思っていたはずなのに……。
推しゆえに、王子のやる気のなさにイラッとしてしまった。
そのわたしの苛立ちが、まさかこんなに大きく世界を変えるなんて。
やっぱり、わたしは、神ってものの意味を理解してなかった。
王都がムカつく。
そこにただぼんやりと生きている王子に腹が立つ。
そう思った途端に。
王都全体に、魅了魔法がかかった。
そこに住んでる人にとっては、大規模な魔法。
だけど、わたしにとっては、そうでもない。
魅了された人々は、魅了されていることに気づく様子はない。
わたしが、望んでいるからだろう。
『BLの世界』の住人には、魅了魔法が効かない。
このゲームのタイトル通りってことか。
魅了魔法が効かない人たちは、勝手に動いている。
だけど、そんな些細なことはわたしには関係ない。
とにかく、こんな望まない結婚なんぞ、王子にはさせない。
それに巻き込まれる姫たちを不幸にはさせない。
って思ったんだけど。
いまいち、世界の外から動かすのは、むずかしい。
魅了したからって、自由に動かせるわけじゃなくて。
どっちかっていうと、ぼんやりした人になるだけ。
どうやら、わたしがかけられる魅了魔法は、この世界のものとは違う。
人の無意識下に働きかけて、望んでいない行動を望んでいると錯覚させる。
そのくらいの力しかない。
大規模にかけられる代わりに、魔法自体の効力が薄い。
そんな感じ。
このままだと、わたしの思う通りの『BLの世界』にはならない。
どうにか、この世界の中に入る方法はないのか?
そう思って、この世界を見渡す。
あっ!
そう思った時には、わたしは誰かの体の中に入っていた。
久しぶりのリアルな感触。匂い。頰にあたる風。
お腹が空く感覚。
しばらくは、そんなものを楽しんでしまう。
おっと、危ない。この人は誰だろう?
この体に入れたのはいいけど、抜けられるのか?
鏡を見てみる。
この子の顔は知ってる。
ゴルトの姫だ。ゴルトの隠居の孫に当たる。
なんで、この子の体に?
と思って、自分が手にしていた本を見てみる。
これって……。
恋愛小説ってことになってるけど、いわゆる『BL小説』じゃん!
この子の体を借りた理由は、これ?
きっと、この子と波長が合うんだろうな。
見た目、地味なのも、わたしにはちょうどイイ。
華やかなリア充女子に入ってしまっても、どうすりゃいいのか分からん。
しかも、この子は王子と同世代。
花嫁候補になれそう。
やっぱ、神の力ってすげぇ!
って、今だと自画自賛になっちゃうけど。
体を借りて、久しぶりに、わたしも小説が読みたくなった。
ゴルトの本屋をめぐるけど、小説が少ない。
さすが、経済第一の国。
本屋の主人に聞くと、小説は王都でたくさん売ってるらしい。
夢見がちで、現実的じゃない王都らしいのかな。
わたしは、王都に本を買いに行って。
せっかくだから、推しのイケオジカップルにも会う。
ふたりの恋バナ。しかも、若い頃の話を聞くのは楽しい。
ついでに、大量のBL本を置かせてもらう。
だって、ゴルトの姫は、こっそり読んでたみたいだから。
戻った時に、ビックリさせたら悪いからね。
ゴルトでは、王都の要請もなんのその。
花嫁候補を辞退させようとしてた。
わたしが入ったこの子って、次の王様らしい。
だから、もちろん、花嫁候補になんてさせない。
誰か、親戚の子を養子にして出そうとしてる。
ヤバい、ヤバい。
せっかく、この子の中に入れたのに。
だから、わたしはこの子のフリをしてミラに伝えた。
「お母様、わたし、王子様の花嫁候補になるわ」
もちろん反対されたけど、そんなの関係ない。
わたしは神だから。
ミラも反対しつつ、仕方がないって状態になる。
よし! 王都に、そして王子に近づける手段は確保。
次は、どうにかして、王子を恋に向かわせないと。
どうやれば、王子はティムとやらに正直になってくれるんだろう?
花嫁選びは、正直、楽しかった。
どの国の姫たちも、明るくてかわいくて。
育ちがいいのか、みんな優しい。
もっとギスギスした試験みたいなのを想像してたからさ。
そんな自分がゲスに思えたよ。
結局、婚約者にはグリュンの姫が選ばれた。
すごく素敵な子だから、納得。
だけど、この子との婚約は破棄してもらわなくちゃ。
そして、王子を危機に陥れる。
そうしたら、王子の想いびとが現れる。
わたしには、確証があった。
理由なんかはない。確証があるだけ。
それは、ひとえにわたしが神だから。
婚約破棄の理由をゴルトの姫のせいにするのは、心苦しい。
だけど、きっと最後には、すべて丸くおさまるから。
それまでは、どうにか許してもらうしかない。
まぁ、許してもらえなくてもやるけどね。神だからね。
わたしの思惑通り、王子は魅了の魔法にかからない。
どこからか現れたティムが、王子を救い出す。
そして、旅に出る。
わたしは、ゴルトの姫の中にいても、この世界を俯瞰で見られる。
思うところに、リアルではない物や人を置くこともできる。
モンスターや暗殺者なんかの配置は自由らしい。
だから……、宝箱も置ける。都合のいい場所に。
王子は、急に投獄されて驚いていたけど、ティムが現れて元気いっぱい。
素直だな。
おいおい! ティムよ! 今まで何してたんだよ!
王子の危機に飛び出してくるくらいなら、とっとと告ればいいのに。
王子も王子でしょ。
ティムが好きなら、婚約なんかしてんじゃねぇよ!
でもさ。ふたりで王都を脱出しようとする姿は、きゅんときたね。
さてさて、ラブ展開を後押しするために、わたしは動かなきゃ。
地下水路に暗殺者を置こう。
普通に戦えば勝てるくらいのやつ。
見た目は……、ゴルトの衛兵の格好と同じでいっか。
服のデザインなんか、わたしには思いつかないし。
モブって思ってたからか、暗殺者が女性になっちゃった。
ま、いっか。
このティムってやつ。王子のためなら、なんでもやるっぽいし。
暗殺者に襲われると、王子は一気に命の危機を感じたみたい。
急に素直になって、ティムとからみ合う。
いいですねぇ。
わたしが望んでたBL展開が、ようやくって感じ。
それにしても。
命の危機のあとは、燃えるってのは本当らしい。
これからも、ちょくちょく命の危機の場面を作っていこう。
外に出て、ホッとしてるところに暗殺者投入!
しかも、暗殺指令書付き。
ずっと、誰かに追われてるって感じ。きっと萌えるよね?
って、思ったら、予定通り。
ケガを治して、ちょっとエッチな癒し魔法で王子がメロメロじゃん。
イイ! イイね!
とにかく、ラブ展開が好きなわたしの趣味的なもので。
旅は大変にはなるが、王子もティムも喜んでるようだからアリ!
だよね?
早くほかのイケメンとの、いや、イケメンじゃなくてもいいけど。
ラブラブならいいんだ。
特に、わたしは、くっつくまでがツラい話は好みじゃない。
どっちかというと、さっさとくっついて、そのあとのラブラブライフ。
そんな恋を見せてくれ!
そう思って、しばらく見ていたのに。
王子は、公務以外では誰とも関わらず、自室にこもる日々。
はぁぁぁ、と大きなため息をついては、窓から月を見たりしている。
好きな人がいないのかな?
それとも、まさか王子が『BLの世界』の住人じゃない?
そうも思ったけど、よくよく聞いてみると。
王子の口からは、『ティム……』って言葉がもれている。
たぶん、そいつが王子の想いびと。
ティムか……、なんでここにいないんだろう?
遠くに住んでる?
だけど、この世界での王子は権力者なんだから。
呼べばいいよね?
まぁ、もう少し見てみよう。
一旦、王子は置いといて、ほかの国を見に行ってみる。
さすが、『BLの世界』。
王族の婚姻相手が、同性とかが当たり前。
ロート=ラントのデレクとアベルのカップルは、気にいったわ~!
すっごいラブラブで、見てるのが楽しすぎる。
でも、じゃあ、この国に旅してきた王子って、誰と恋をするんだ?
元々のゲームでは、デレクって独り身だったような?
そうだ、そうだよ!
そもそも王子って、もうちょい明るい雰囲気だし。
父王の王権の維持のための旅に出るっていいながらさ。
実際には、各地のイケメンとの恋を楽しみ、情事を楽しみまくり。
それが、結果として、各国の協力をもらえることになって……。
って、まぁ、よくあるご都合主義な展開なんだけど。
でも、プレイヤーが見たいのは、そういう王子なんだし?
別に、実際の国が動いてるわけじゃないから?
それでいいよね? ってことなんだけど。
この世界。
ちゃんと見てみると、やっぱりゲームとは違うみたい。
オモチャみたいに見えても、人々には生活があるし。
国王たちは、恋を楽しみながらも、国家運営に真剣だ。
設定は、ゲームそのものなんだけど。
ここに生きてる人たちにとっては、ここが唯一の世界。
それぞれが、日々を懸命に生きてるんだなぁ。
そんなことを、ようやく理解するわたし。
そう思ったら、あまりヘタなことはできない。
たわむれに瓶を壊せば、それを買うために苦労する人がいる。
せっかく育ったりんごを落とせば、日々の糧に困る人が出る。
そういうことを理解しちゃうと、手は出せなくなる。
元の世界にいた時はさ。
『ああ、なんで神様は願いを叶えてくれないのかな?』
なんて、人並みに思ってたけどさ。
ひとつの願いを神様パワーで叶えちゃったら、ほかに影響が出るんだもん。
そりゃ、なかなかできねぇわ。
ゴルトの隠居のふたりもお気に入りカップル。
穏やかな雰囲気のイケオジふたり。
あれで、意外に夜は燃えてんのよ!
そこがまたイイ!
このふたりもさ。
国のために、惜しまれながら早めの引退をしたっぽいんだよね。
どんなに人気があって、力があってもさ。
持ち続けた力は、腐敗してく。
それが、アウグストの経験上の考えらしい。
特に、経済大国のゴルトにとってはね。
経済を回していくには、常に新しい風を取り入れなきゃいけない。
若い人に、若いうちにチャンスを与えなきゃいけない。
そうしないと、同じところにとどまった水はあっという間に腐る。
そういうこと。
確かに、若いうちに認められたミラは大活躍。
多少のムチャをしても、若いからリカバリーも早い。
次世代を担う娘もすでに大きくなっていて。
隠居のふたりが元気なうちに、次の次の世代まで作っとくと安泰。
ゴルトの国が、連邦で最もお金持ちなのも分かるわ。
それ以外の連邦の国もさ。
その国独自の資源を上手に使って、国家運営をしてる。
逆に王都だけが、なんだか遅れているみたい。
価値観も昔っぽい。
そう、王都だけが種族や同性婚に差別的だったりする。
やたら、身分にこだわってみたり。
そのくせ、薬物とか禁止事項だけは多い。
差別禁止法、なんて法律はあるくせに、差別的。
あ、逆か。
差別があるから、禁止法があるんだね。
ほかの国はない法律だもんね。
ほかの国を堪能して、久しぶりに王都に戻ってみれば。
王子は、あいかわらず、ぐずぐずと悩み中。
その上、ハンパな返事をしたもんだから、婚約者選びが進んでる!
えっ? ちょっと! どうするの?
王子の好きな人は、ティムとかいうやつじゃないの?
おいおい! 今のままじゃ、王子に関わった人が不幸になるじゃん。
愛されない王妃に、愛されない子ども。
なんじゃ、そりゃ。
そんなの、わたしが望んだ『BLの世界』じゃねぇ~!
ボ~ッとしてんなよ、王子!
この世界の神として、穏やかに過ごそう。
人々の生活に、手を出すのはやめよう。
そう思っていたはずなのに……。
推しゆえに、王子のやる気のなさにイラッとしてしまった。
そのわたしの苛立ちが、まさかこんなに大きく世界を変えるなんて。
やっぱり、わたしは、神ってものの意味を理解してなかった。
王都がムカつく。
そこにただぼんやりと生きている王子に腹が立つ。
そう思った途端に。
王都全体に、魅了魔法がかかった。
そこに住んでる人にとっては、大規模な魔法。
だけど、わたしにとっては、そうでもない。
魅了された人々は、魅了されていることに気づく様子はない。
わたしが、望んでいるからだろう。
『BLの世界』の住人には、魅了魔法が効かない。
このゲームのタイトル通りってことか。
魅了魔法が効かない人たちは、勝手に動いている。
だけど、そんな些細なことはわたしには関係ない。
とにかく、こんな望まない結婚なんぞ、王子にはさせない。
それに巻き込まれる姫たちを不幸にはさせない。
って思ったんだけど。
いまいち、世界の外から動かすのは、むずかしい。
魅了したからって、自由に動かせるわけじゃなくて。
どっちかっていうと、ぼんやりした人になるだけ。
どうやら、わたしがかけられる魅了魔法は、この世界のものとは違う。
人の無意識下に働きかけて、望んでいない行動を望んでいると錯覚させる。
そのくらいの力しかない。
大規模にかけられる代わりに、魔法自体の効力が薄い。
そんな感じ。
このままだと、わたしの思う通りの『BLの世界』にはならない。
どうにか、この世界の中に入る方法はないのか?
そう思って、この世界を見渡す。
あっ!
そう思った時には、わたしは誰かの体の中に入っていた。
久しぶりのリアルな感触。匂い。頰にあたる風。
お腹が空く感覚。
しばらくは、そんなものを楽しんでしまう。
おっと、危ない。この人は誰だろう?
この体に入れたのはいいけど、抜けられるのか?
鏡を見てみる。
この子の顔は知ってる。
ゴルトの姫だ。ゴルトの隠居の孫に当たる。
なんで、この子の体に?
と思って、自分が手にしていた本を見てみる。
これって……。
恋愛小説ってことになってるけど、いわゆる『BL小説』じゃん!
この子の体を借りた理由は、これ?
きっと、この子と波長が合うんだろうな。
見た目、地味なのも、わたしにはちょうどイイ。
華やかなリア充女子に入ってしまっても、どうすりゃいいのか分からん。
しかも、この子は王子と同世代。
花嫁候補になれそう。
やっぱ、神の力ってすげぇ!
って、今だと自画自賛になっちゃうけど。
体を借りて、久しぶりに、わたしも小説が読みたくなった。
ゴルトの本屋をめぐるけど、小説が少ない。
さすが、経済第一の国。
本屋の主人に聞くと、小説は王都でたくさん売ってるらしい。
夢見がちで、現実的じゃない王都らしいのかな。
わたしは、王都に本を買いに行って。
せっかくだから、推しのイケオジカップルにも会う。
ふたりの恋バナ。しかも、若い頃の話を聞くのは楽しい。
ついでに、大量のBL本を置かせてもらう。
だって、ゴルトの姫は、こっそり読んでたみたいだから。
戻った時に、ビックリさせたら悪いからね。
ゴルトでは、王都の要請もなんのその。
花嫁候補を辞退させようとしてた。
わたしが入ったこの子って、次の王様らしい。
だから、もちろん、花嫁候補になんてさせない。
誰か、親戚の子を養子にして出そうとしてる。
ヤバい、ヤバい。
せっかく、この子の中に入れたのに。
だから、わたしはこの子のフリをしてミラに伝えた。
「お母様、わたし、王子様の花嫁候補になるわ」
もちろん反対されたけど、そんなの関係ない。
わたしは神だから。
ミラも反対しつつ、仕方がないって状態になる。
よし! 王都に、そして王子に近づける手段は確保。
次は、どうにかして、王子を恋に向かわせないと。
どうやれば、王子はティムとやらに正直になってくれるんだろう?
花嫁選びは、正直、楽しかった。
どの国の姫たちも、明るくてかわいくて。
育ちがいいのか、みんな優しい。
もっとギスギスした試験みたいなのを想像してたからさ。
そんな自分がゲスに思えたよ。
結局、婚約者にはグリュンの姫が選ばれた。
すごく素敵な子だから、納得。
だけど、この子との婚約は破棄してもらわなくちゃ。
そして、王子を危機に陥れる。
そうしたら、王子の想いびとが現れる。
わたしには、確証があった。
理由なんかはない。確証があるだけ。
それは、ひとえにわたしが神だから。
婚約破棄の理由をゴルトの姫のせいにするのは、心苦しい。
だけど、きっと最後には、すべて丸くおさまるから。
それまでは、どうにか許してもらうしかない。
まぁ、許してもらえなくてもやるけどね。神だからね。
わたしの思惑通り、王子は魅了の魔法にかからない。
どこからか現れたティムが、王子を救い出す。
そして、旅に出る。
わたしは、ゴルトの姫の中にいても、この世界を俯瞰で見られる。
思うところに、リアルではない物や人を置くこともできる。
モンスターや暗殺者なんかの配置は自由らしい。
だから……、宝箱も置ける。都合のいい場所に。
王子は、急に投獄されて驚いていたけど、ティムが現れて元気いっぱい。
素直だな。
おいおい! ティムよ! 今まで何してたんだよ!
王子の危機に飛び出してくるくらいなら、とっとと告ればいいのに。
王子も王子でしょ。
ティムが好きなら、婚約なんかしてんじゃねぇよ!
でもさ。ふたりで王都を脱出しようとする姿は、きゅんときたね。
さてさて、ラブ展開を後押しするために、わたしは動かなきゃ。
地下水路に暗殺者を置こう。
普通に戦えば勝てるくらいのやつ。
見た目は……、ゴルトの衛兵の格好と同じでいっか。
服のデザインなんか、わたしには思いつかないし。
モブって思ってたからか、暗殺者が女性になっちゃった。
ま、いっか。
このティムってやつ。王子のためなら、なんでもやるっぽいし。
暗殺者に襲われると、王子は一気に命の危機を感じたみたい。
急に素直になって、ティムとからみ合う。
いいですねぇ。
わたしが望んでたBL展開が、ようやくって感じ。
それにしても。
命の危機のあとは、燃えるってのは本当らしい。
これからも、ちょくちょく命の危機の場面を作っていこう。
外に出て、ホッとしてるところに暗殺者投入!
しかも、暗殺指令書付き。
ずっと、誰かに追われてるって感じ。きっと萌えるよね?
って、思ったら、予定通り。
ケガを治して、ちょっとエッチな癒し魔法で王子がメロメロじゃん。
イイ! イイね!
とにかく、ラブ展開が好きなわたしの趣味的なもので。
旅は大変にはなるが、王子もティムも喜んでるようだからアリ!
だよね?
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前世、日本の証券会社で働いていた**瑞穂紗羅(みずほ さら)**は、異世界に転生し、サラ・レティシア伯爵令嬢として生まれ変わった。
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