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第4章 旅の終わり
(3)救われた姫、そして心の声
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飛び交うものの前に立ちはだかったのは、カールとオスカー。
カールは、『玉風の鎧』を身につけている。
鎧は、カールの周辺に風を巻き起こして、すべての攻撃を跳ね返す。
「ブラオ王! その鎧は?」
「我がブラオの伝説の宝、『玉風の鎧』です。
あらゆる物理攻撃を跳ね返します。皆様、我の周辺にお集まりを!」
ほかの王たちが、カールの周辺に集まるとカールは目をつむる。
カールの周辺に竜巻のような風が起こって、リザの攻撃は跳ね返される。
カールがいる中心部分は、台風の目のように穏やかなままだ。
オスカーは、カールを背後から抱きしめて、その体を支えている。
オスカーに抱きしめられたカールは、よりその力を発揮するようだ。
キェェェェェッ!
リザの口から、魔物のような不可思議な声が発せられる。
その声は、聞く者の鼓膜を破らんばかりの高音だった。
あまりのうるささに、カールの集中が切れる。
すると、鎧が巻き起こす風が弱まってしまう。
その一瞬の隙に、再び、リザは周辺のガラクタや壊れた建物の破片を持ち上げる。
「リザ! やめて! 皆を傷つけないで!」
ゴルトのミラ王の悲痛な叫び声が、再び聞こえる。
バリバリ、バリバリバリバリ!
青白い稲妻が、光る。
ゴルト王ミラがかぶっていた『稲妻のヘルム』から雷が放たれていた。
その雷は、真っ直ぐにリザに向かって落ちる。
脳天に雷を食らうと、リザの周りを囲んでいた灰色の雲が消える。
束の間、そのまま浮かんでいたリザ。
次の瞬間、崩れ落ちるように地面に落ち始める。
それは、まるで城壁の上から身を投げたようにも見えた。
「きゃあぁぁぁぁ!」
その姿を目の当たりにしたミラが叫び声を上げる。
誰もが動けないと思った。
リザは、地面に叩きつけられて命を落とす。
その惨状を想像して、皆が目をふせる。
トンッ!
軽い足音が聞こえる。
皆が想像していた、グシャッという人が壊れる音。
その音がしない。
「皆様、目を開けてください! すぐに介抱を!」
グリュンのゾフィアの声が広場に響く。
空中から落ちてきたリザを受け止めていたのは、グリュンのハンナ王。
「ああ! リザ! 無事なの? グリュン王が?」
ハンナ王が履いていたのは、『琥珀のブーツ』。
人が落ちてくる衝撃は、とても人が受け止められるものではない。
けれど、荷重を受け止められる宝のブーツを履いていたハンナが動いていた。
灰色の雲が消えるのと同時に、リザの真下に動く。
それを助けたのは、オランジェ王のハンスとティム。
一瞬の目配せで、互いの意思を確認し、吸血鬼の力を使う。
ふたりは一瞬でハンナをリザの真下におろし、ともに支えた。
『琥珀のブーツ』の力と吸血鬼ふたりの力。
それらが合わされて、リザの体はふわりと受け止められた。
状況を把握していたゾフィアが、すぐに声を上げる。
王たちは、揃って癒しの魔法をリザにかける。
ゾフィアは、ティムと二言、三言話すと、すぐに荷物から小瓶を取り出す。
そして、ミラ王に抱きかかえられたままのリザの口に小瓶をあてる。
「それは、なに?」
警戒するミラ王に、王子が声をかける。
「ミラ王、ここはグリュンの王を信じてください。
リザ様を魅了から解放することができるはずです」
「本当なの? リザは、大丈夫?」
「ええ。きっと大丈夫です。ゾフィア様、お願いします」
ゾフィアはうなずくと、小瓶の中身をリザに飲ませる。
ケホッ、ケホケホッ。
すぐにリザの呼吸が戻り、軽くむせる。
「リザ? あなたよね? 大丈夫?」
「え……? ここは? お母様?」
わぁっと喜びの声があがる。
その声に、リザが戸惑った表情を浮かべる。
キョロキョロをあたりを見回せば、各国の王の姿がリザの目に入る。
「えっと……。全王会議の日でしたっけ?」
とぼけたようなリザの言葉に、ミラ王が娘を強く抱きしめる。
その顔は、涙でぐしゃぐしゃになっている。
そんな母の様子に、リザはますます戸惑いを隠せない。
王都を覆っていた灰色の雲は消え去った。
建物内に避難していた王都の人々が、一斉に外に出てくる。
青空の下、何事もなかったかのように普通の生活を続けている。
汗だくでボロボロになった王たちに、不思議なものでも見るような目を向ける。
「あははは! 良かった、良かった!」
その様子を見たデレクとアベルが、大きな笑い声をあげる。
つられて、ほかの王たちの顔にも笑みが浮かぶ。
連邦の王たちが集まった場所とは思えないほど和やかな。
そんな午後のひと時だった。
***
宙に浮かんだゴルトの姫が、魔法をやめて物理で殴ろうとしてくる。
やべぇ!
と思ったけど、『玉風の鎧』がみんなを助けてくれる。
伝説の宝たち、大活躍じゃん!
みんなに攻撃しないで、って言ってたミラ王が結局攻撃しちゃう。
まぁ、雷魔法はしびれるのがメインで攻撃力はそこまでじゃないから。
いいのかな?
母のしびれる愛ってやつ?
リザ姫は、力を失って落ちてくる。
とっさに受け止めようとしたけど、衝撃がやべぇ!
って、一瞬、悩んだ瞬間にオランジェの吸血鬼王と目が合う。
そんで、やっぱり動こうとしてるハンナ王を助ける。
リザ姫が無事で良かった。
街の人たちが、あんまり普通に生活を始めるもんだから。
みんな、笑っちゃったよな。
*****
王子を先頭に一行は、王都の城へと向かった。
王子とティムにとっては、あの婚約破棄騒動以来の城である。
城の入り口の前に、近衛兵たちが立っている。
近衛兵たちの1番前にいるのは、近衛隊長。
ティムの父親である。
「王子! よくぞ、ご無事で!」
「うん。ありがとう。ティムのおかげだ」
「愚息が役立って良かったです」
「父上と母上の様子は?」
「ええ。1度気を失われましたが、すぐに目を覚まされて。
今は、王子をお待ちです。もちろん、王様たちのことも」
「皆の魅了魔法は、解けているのか?」
「はい。先ほど、急に皆がバタバタと倒れて、それからすぐに」
「立ち上がって、普通の生活を始めた。そうだな?」
「はい。よくご存知で」
「広場で同じ光景を見たからな」
近衛兵たちに先導されて、一行は城の謁見の間に入る。
玉座に腰かけていた王と王妃が立ち上がる。
「ルートヴィッヒ……」
「父上、母上……」
親子の再会は、ひとことの言葉と目を合わせるだけのものだった。
すぐに、王は連邦各国の王たちに向き直る。
「皆様、このたびは、王都のせいでご迷惑をおかけした。
ついては、こたびのできごとの総括と説明をさせていただきたい。
改めて、全王会議の開催をお願いしたいが、いかがか」
「ええ。異存はありません」
「我も構わない」
王たちの了承を得て、全王会議が開かれることになった。
疲れ切った王たちの状態を考慮して、会議は明日に開かれる。
王たちは、それぞれ用意された部屋へと向かった。
王子は、ティムの手を取って言う。
「わたしたちも行こう。久しぶりの自分たちの部屋に」
廊下を進む時にも、王子はティムの手を離さない。
王子とティムの部屋は隣り合っていた。
王子が自分の部屋にティムを誘う。
ふたりは王子の部屋の浴室で、ともに浴槽に入る。
「あの、ルイ? さっきから、いいんですか?」
「何が?」
「廊下で手を繋いだり、一緒に風呂に入ったり」
「ダメなのか?」
「いえ、今まで、城では隠してきたのでは?」
ティムの髪を王子が洗う。
ティムも王子の髪を洗う。
「王子に髪を洗っていただくなんて……」
「これからは、すべてのことをふたりでやりたい。
どちらかだけが尽くすのは終わりだ」
「けれど、身分がありますので……」
「身分? そんなもの、ムダだとミラ王に叱られただろう?」
「ははは。そうでしたね」
王子の唇が、ティムの肌にふれる。
ティムは、王子の桃色の唇をむさぼるように吸い込む。
「魅了魔法が解けたら……、おまえはいなくなると思ってた……」
「わたしが、異世界から来たからですか?」
「それもある」
「それ以外にも?」
「ふふ。いつか話そう」
風呂でキレイにした王子の体をベッドに横たえる。
どのベッドでも、野営の布の上でさえも王子の裸身は美しかった。
けれど、やはり、王子の本物のベッドは王子にふさわしい。
ティムは、そう思っていた。
「そうやって、いつまで眺めているつもりだ?」
「すみません。つい、見とれてしまって」
「これからもずっと、この体はおまえのものなのに?」
その言葉に、ティムは胸がぎゅっと苦しくなってしまう。
苦しい胸の内をぶつけるように、王子の体に挑みかかる。
王子の体は、ティムのすべてを受け入れるように、すべてが開かれている。
スルスルと肌をさわる延長で、窪みすらスルスルと指を飲み込む。
刺激に頬を染める王子は、今日も美しい。
ティムの情欲をそそる王子の鳴き声は、細く長く続く。
摘んで欲しいと言わんばかりの胸の桃色の果実。
両手で摘みながら、王子の窪みにティムは自身を深く沈み込ませる。
一際、高い声があがる。
その夜は、王子を離すことができずに、何度も何度も果てた。
王子は、辛そうな声を出しながら、終始、顔は笑っていた。
*****
この世界にいると分かった時、わたしは歓喜した。
異世界転移をするなら、好きなゲームの世界がいい。
そう思っていたから。
転移するなら、推しの王子の近くにいられるモブがいい。
王子の恋模様を近くで見られたら、それだけで満足。尊い。
だけど、わたしは、この世界にきてもわたしのまま。
一体、自分が何になったのかが分からない。
誰もわたしに気づかない。
お腹は空かない。
この連邦全体を俯瞰で見ることができる。
王子のことも近くで見られる。
空を飛ぶように、連邦内のほかの国にも一瞬で行ける。
だけど、やっぱり、誰とも話せない。
誰もわたしに気づかない。
しばらくの間、色々とさわってみた。
わたしが動かしたものは、自然のせいか誰かのせいになった。
果樹園でりんごを全部落としたら、台風がきたことになった。
川でサワガニを見つけた。
『もっと大きかったら、食べ応えがあるのに』
そう思った。
わたしの好物はカニだったから。
すると、次の日には、サワガニはタラバガニみたいなサイズになってた。
ゲームの世界にはなかった王都の地下水路。
ただ、キレイな水が流れていた。
乙女ゲーじゃなくて、冒険ものだったら、ここにはヤツらがいそう。
そう思ってしまった。
乙女ゲーも好きだけど、洋ゲーのオープンワールドRPGも好きだったから。
次の日には、巨大ネズミとゴブリンが地下水路に現れた。
ここまできて、ようやくわたしは気づいた。
自分が一体、何になってるのかに。
そう。
わたしが転移してしまったものは神。
この世界の創造神。
わたしが思ったことは、この世界に起きてしまう。
戸惑った。
だけど、すぐに思い直した。
神ってポジションは、最高のモブなんじゃないか?
自分の立ち位置が分かってしまうと、あとは楽しむだけだ。
お腹も空かない、風呂もトイレも要らない。
睡眠さえ、必要ない。
ボードゲームの盤面上を見るように、ひたすら見てるのが楽しい。
街づくりゲームを見ているような感覚。
小さな人間たちが、日々を営み、愛し合い、ケンカし合う。
見ているだけなのに、飽きはしない。
そうだ!
わたしの推しの王子の恋を見届けなくちゃ!
今は、誰と恋に落ちてるんだろう?
どんな甘いセリフを吐いてくれるのかな?
ワクワクしながら、見始めた王子の生活。
それは、まさかの灰色の苦悩の日々だった。
カールは、『玉風の鎧』を身につけている。
鎧は、カールの周辺に風を巻き起こして、すべての攻撃を跳ね返す。
「ブラオ王! その鎧は?」
「我がブラオの伝説の宝、『玉風の鎧』です。
あらゆる物理攻撃を跳ね返します。皆様、我の周辺にお集まりを!」
ほかの王たちが、カールの周辺に集まるとカールは目をつむる。
カールの周辺に竜巻のような風が起こって、リザの攻撃は跳ね返される。
カールがいる中心部分は、台風の目のように穏やかなままだ。
オスカーは、カールを背後から抱きしめて、その体を支えている。
オスカーに抱きしめられたカールは、よりその力を発揮するようだ。
キェェェェェッ!
リザの口から、魔物のような不可思議な声が発せられる。
その声は、聞く者の鼓膜を破らんばかりの高音だった。
あまりのうるささに、カールの集中が切れる。
すると、鎧が巻き起こす風が弱まってしまう。
その一瞬の隙に、再び、リザは周辺のガラクタや壊れた建物の破片を持ち上げる。
「リザ! やめて! 皆を傷つけないで!」
ゴルトのミラ王の悲痛な叫び声が、再び聞こえる。
バリバリ、バリバリバリバリ!
青白い稲妻が、光る。
ゴルト王ミラがかぶっていた『稲妻のヘルム』から雷が放たれていた。
その雷は、真っ直ぐにリザに向かって落ちる。
脳天に雷を食らうと、リザの周りを囲んでいた灰色の雲が消える。
束の間、そのまま浮かんでいたリザ。
次の瞬間、崩れ落ちるように地面に落ち始める。
それは、まるで城壁の上から身を投げたようにも見えた。
「きゃあぁぁぁぁ!」
その姿を目の当たりにしたミラが叫び声を上げる。
誰もが動けないと思った。
リザは、地面に叩きつけられて命を落とす。
その惨状を想像して、皆が目をふせる。
トンッ!
軽い足音が聞こえる。
皆が想像していた、グシャッという人が壊れる音。
その音がしない。
「皆様、目を開けてください! すぐに介抱を!」
グリュンのゾフィアの声が広場に響く。
空中から落ちてきたリザを受け止めていたのは、グリュンのハンナ王。
「ああ! リザ! 無事なの? グリュン王が?」
ハンナ王が履いていたのは、『琥珀のブーツ』。
人が落ちてくる衝撃は、とても人が受け止められるものではない。
けれど、荷重を受け止められる宝のブーツを履いていたハンナが動いていた。
灰色の雲が消えるのと同時に、リザの真下に動く。
それを助けたのは、オランジェ王のハンスとティム。
一瞬の目配せで、互いの意思を確認し、吸血鬼の力を使う。
ふたりは一瞬でハンナをリザの真下におろし、ともに支えた。
『琥珀のブーツ』の力と吸血鬼ふたりの力。
それらが合わされて、リザの体はふわりと受け止められた。
状況を把握していたゾフィアが、すぐに声を上げる。
王たちは、揃って癒しの魔法をリザにかける。
ゾフィアは、ティムと二言、三言話すと、すぐに荷物から小瓶を取り出す。
そして、ミラ王に抱きかかえられたままのリザの口に小瓶をあてる。
「それは、なに?」
警戒するミラ王に、王子が声をかける。
「ミラ王、ここはグリュンの王を信じてください。
リザ様を魅了から解放することができるはずです」
「本当なの? リザは、大丈夫?」
「ええ。きっと大丈夫です。ゾフィア様、お願いします」
ゾフィアはうなずくと、小瓶の中身をリザに飲ませる。
ケホッ、ケホケホッ。
すぐにリザの呼吸が戻り、軽くむせる。
「リザ? あなたよね? 大丈夫?」
「え……? ここは? お母様?」
わぁっと喜びの声があがる。
その声に、リザが戸惑った表情を浮かべる。
キョロキョロをあたりを見回せば、各国の王の姿がリザの目に入る。
「えっと……。全王会議の日でしたっけ?」
とぼけたようなリザの言葉に、ミラ王が娘を強く抱きしめる。
その顔は、涙でぐしゃぐしゃになっている。
そんな母の様子に、リザはますます戸惑いを隠せない。
王都を覆っていた灰色の雲は消え去った。
建物内に避難していた王都の人々が、一斉に外に出てくる。
青空の下、何事もなかったかのように普通の生活を続けている。
汗だくでボロボロになった王たちに、不思議なものでも見るような目を向ける。
「あははは! 良かった、良かった!」
その様子を見たデレクとアベルが、大きな笑い声をあげる。
つられて、ほかの王たちの顔にも笑みが浮かぶ。
連邦の王たちが集まった場所とは思えないほど和やかな。
そんな午後のひと時だった。
***
宙に浮かんだゴルトの姫が、魔法をやめて物理で殴ろうとしてくる。
やべぇ!
と思ったけど、『玉風の鎧』がみんなを助けてくれる。
伝説の宝たち、大活躍じゃん!
みんなに攻撃しないで、って言ってたミラ王が結局攻撃しちゃう。
まぁ、雷魔法はしびれるのがメインで攻撃力はそこまでじゃないから。
いいのかな?
母のしびれる愛ってやつ?
リザ姫は、力を失って落ちてくる。
とっさに受け止めようとしたけど、衝撃がやべぇ!
って、一瞬、悩んだ瞬間にオランジェの吸血鬼王と目が合う。
そんで、やっぱり動こうとしてるハンナ王を助ける。
リザ姫が無事で良かった。
街の人たちが、あんまり普通に生活を始めるもんだから。
みんな、笑っちゃったよな。
*****
王子を先頭に一行は、王都の城へと向かった。
王子とティムにとっては、あの婚約破棄騒動以来の城である。
城の入り口の前に、近衛兵たちが立っている。
近衛兵たちの1番前にいるのは、近衛隊長。
ティムの父親である。
「王子! よくぞ、ご無事で!」
「うん。ありがとう。ティムのおかげだ」
「愚息が役立って良かったです」
「父上と母上の様子は?」
「ええ。1度気を失われましたが、すぐに目を覚まされて。
今は、王子をお待ちです。もちろん、王様たちのことも」
「皆の魅了魔法は、解けているのか?」
「はい。先ほど、急に皆がバタバタと倒れて、それからすぐに」
「立ち上がって、普通の生活を始めた。そうだな?」
「はい。よくご存知で」
「広場で同じ光景を見たからな」
近衛兵たちに先導されて、一行は城の謁見の間に入る。
玉座に腰かけていた王と王妃が立ち上がる。
「ルートヴィッヒ……」
「父上、母上……」
親子の再会は、ひとことの言葉と目を合わせるだけのものだった。
すぐに、王は連邦各国の王たちに向き直る。
「皆様、このたびは、王都のせいでご迷惑をおかけした。
ついては、こたびのできごとの総括と説明をさせていただきたい。
改めて、全王会議の開催をお願いしたいが、いかがか」
「ええ。異存はありません」
「我も構わない」
王たちの了承を得て、全王会議が開かれることになった。
疲れ切った王たちの状態を考慮して、会議は明日に開かれる。
王たちは、それぞれ用意された部屋へと向かった。
王子は、ティムの手を取って言う。
「わたしたちも行こう。久しぶりの自分たちの部屋に」
廊下を進む時にも、王子はティムの手を離さない。
王子とティムの部屋は隣り合っていた。
王子が自分の部屋にティムを誘う。
ふたりは王子の部屋の浴室で、ともに浴槽に入る。
「あの、ルイ? さっきから、いいんですか?」
「何が?」
「廊下で手を繋いだり、一緒に風呂に入ったり」
「ダメなのか?」
「いえ、今まで、城では隠してきたのでは?」
ティムの髪を王子が洗う。
ティムも王子の髪を洗う。
「王子に髪を洗っていただくなんて……」
「これからは、すべてのことをふたりでやりたい。
どちらかだけが尽くすのは終わりだ」
「けれど、身分がありますので……」
「身分? そんなもの、ムダだとミラ王に叱られただろう?」
「ははは。そうでしたね」
王子の唇が、ティムの肌にふれる。
ティムは、王子の桃色の唇をむさぼるように吸い込む。
「魅了魔法が解けたら……、おまえはいなくなると思ってた……」
「わたしが、異世界から来たからですか?」
「それもある」
「それ以外にも?」
「ふふ。いつか話そう」
風呂でキレイにした王子の体をベッドに横たえる。
どのベッドでも、野営の布の上でさえも王子の裸身は美しかった。
けれど、やはり、王子の本物のベッドは王子にふさわしい。
ティムは、そう思っていた。
「そうやって、いつまで眺めているつもりだ?」
「すみません。つい、見とれてしまって」
「これからもずっと、この体はおまえのものなのに?」
その言葉に、ティムは胸がぎゅっと苦しくなってしまう。
苦しい胸の内をぶつけるように、王子の体に挑みかかる。
王子の体は、ティムのすべてを受け入れるように、すべてが開かれている。
スルスルと肌をさわる延長で、窪みすらスルスルと指を飲み込む。
刺激に頬を染める王子は、今日も美しい。
ティムの情欲をそそる王子の鳴き声は、細く長く続く。
摘んで欲しいと言わんばかりの胸の桃色の果実。
両手で摘みながら、王子の窪みにティムは自身を深く沈み込ませる。
一際、高い声があがる。
その夜は、王子を離すことができずに、何度も何度も果てた。
王子は、辛そうな声を出しながら、終始、顔は笑っていた。
*****
この世界にいると分かった時、わたしは歓喜した。
異世界転移をするなら、好きなゲームの世界がいい。
そう思っていたから。
転移するなら、推しの王子の近くにいられるモブがいい。
王子の恋模様を近くで見られたら、それだけで満足。尊い。
だけど、わたしは、この世界にきてもわたしのまま。
一体、自分が何になったのかが分からない。
誰もわたしに気づかない。
お腹は空かない。
この連邦全体を俯瞰で見ることができる。
王子のことも近くで見られる。
空を飛ぶように、連邦内のほかの国にも一瞬で行ける。
だけど、やっぱり、誰とも話せない。
誰もわたしに気づかない。
しばらくの間、色々とさわってみた。
わたしが動かしたものは、自然のせいか誰かのせいになった。
果樹園でりんごを全部落としたら、台風がきたことになった。
川でサワガニを見つけた。
『もっと大きかったら、食べ応えがあるのに』
そう思った。
わたしの好物はカニだったから。
すると、次の日には、サワガニはタラバガニみたいなサイズになってた。
ゲームの世界にはなかった王都の地下水路。
ただ、キレイな水が流れていた。
乙女ゲーじゃなくて、冒険ものだったら、ここにはヤツらがいそう。
そう思ってしまった。
乙女ゲーも好きだけど、洋ゲーのオープンワールドRPGも好きだったから。
次の日には、巨大ネズミとゴブリンが地下水路に現れた。
ここまできて、ようやくわたしは気づいた。
自分が一体、何になってるのかに。
そう。
わたしが転移してしまったものは神。
この世界の創造神。
わたしが思ったことは、この世界に起きてしまう。
戸惑った。
だけど、すぐに思い直した。
神ってポジションは、最高のモブなんじゃないか?
自分の立ち位置が分かってしまうと、あとは楽しむだけだ。
お腹も空かない、風呂もトイレも要らない。
睡眠さえ、必要ない。
ボードゲームの盤面上を見るように、ひたすら見てるのが楽しい。
街づくりゲームを見ているような感覚。
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見ているだけなのに、飽きはしない。
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まだ、誰も気づいていない。
欠席から始まる、静かなるファンタジー戦記。
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