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目覚める春
目覚め
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春になり、俺は長い眠りから目を覚ました。気だるく重いこの感覚は、もう何度目だろうか。小さい頃からの体質のせいで、春の目覚めはあまりよくない。
俺が今いるのは、白い天井にシンプルな内装。とある大学病院の一室である。力が入らない体を少しだけ動かして、自分の生を確認する。ああ、相変わらず生きている。驚くわけでもないし、まったく嬉しくないというわけでもない。でも、少し憂鬱になったのも事実だ。
それから数十分後、病室のドアが雑に開かれた。
「あっ、冬起きたんだー」
迷いなくズカズカと入ってきた男が俺を見て言う。その顔には、若干の安堵が浮かんでいるのが読み取れた。
「なーんか、冬が起きると春が来たって感じがするよね」
そう言ってくすくすと笑っている彼の名前は、佐原正晴。小学校の頃からの俺の唯一の友人だ。顔が整っているうえに、やらせれば大体何でもできる高スペックの持ち主で、おそらく結構女子からモテる。 実際、中学時代何度か告白現場に遭遇した。
「正晴、今日高校は?」
「……長いこと寝てたから頭働いてないの? もうとっくに放課後だよ」
正晴が自身の腕時計を見せながら言う。小馬鹿にしたような言い方には少しイラッとしたが、いつものことなので気にしないでおいた。それに、正晴の言ったことに間違いはない。長いこと寝ていると本当に感覚が狂うのだ。それに俺は高校に通っていないから「放課後」というものに縁がない。同い年なのに差を見せつけられたようで少し気持ちが沈んだ。
表情が暗くなった俺をちらっと見てから、正晴は近くにあったパイプ椅子に腰掛けた。どうやら長居モードに入ったらしい。スマホを取り出していじり始めている。わざわざ見舞いに来ておいてスマホを見ているのも謎だが、これもいつものことなのでやはり気にしないでおく。
「あ! ねぇ、冬って確か苺好きだよね?」
数分後、スマホを見ていた彼が急に顔を上げてそう聞いてきた。いきなりだったのでびっくりする。
「あ、ああ。それがどうかしたか?」
「ほらこれ見て!」
バッと目の前に出されたのは、スイーツ専門店のサイトだ。画面はたくさんの苺で溢れていた。
「ここ今苺フェアやってるみたい。めっちゃ美味しそうじゃない?」
正晴の楽しそうな感じが伝わってきて、俺は笑って小さく頷いた。俺も大概だが、彼は無類の甘いもの好きである。美味そうなスイーツを見てテンションが上がっているのだろう。
「ビュッフェもやってるみたいだから、冬が退院したら一緒に行こ。それまで楽しみに待ってるから」
その誘い自体はすごく嬉しかった。だが、俺の退院まで待たせるのは申し訳ない気がした。入院しているのは完全に俺の事情なので、そこに正晴を巻き込みたくない。俺は正晴の目を見て返事をする。
「俺が退院するの待たないで誰かと行けばいいのに。正晴だって苺好きだろ」
「えー、冬とがいいんだもん。むしろ冬とじゃなかったら行きたくないし」
「……なんだその一部女子に勘違いされそうなセリフは」
わざと呆れたふりをすると、正晴は吹き出した。一応病院内だから配慮しているのか、声を抑えつつ盛大に笑っている。 それを見ていたら、俺もつられて笑ってしまった。久々に笑ったからか、ぎこちなくなったし、腹筋が痛かったが、やっと起きたんだという実感が湧いた。
「冬、誰か来てるの?」
俺達が笑っていると、髪を無造作に束ねた女性が部屋に入ってきた。俺の母親である。俺が目覚めたのを確認して席を外していたが、しばらく経って戻ってきたのだ。
「あ、美里さん!」
「あら、正晴くん。また冬のお見舞い来てくれたの? ありがとうね」
「いやー、俺は冬の唯一の友達ですから」
正晴は冗談めかしてそんなことを言い、いたずらっぽく笑ってみせている。やや失礼な発言に俺はむすっとしたが、事実なので仕方なく黙った。母さんもそれを分かっているから、咎めることなく笑っている。それから正晴は、母さんに椅子を勧めた。微笑みながら椅子を譲る姿は紳士そのものだ。いたずら好きでSっ気の多い奴だが、面倒見がよく優しい。だからこそ俺なんかの友達でいられるのだろう。正晴がいなければこの世になんの心残りもないと言っても過言ではないくらい、俺は正晴のことを大事に思っている。 こんなこと絶対に本人には言えないが。
「先生なんて言ってた?」
椅子を断ってベッドの傍らに立った母さんに聞いてみた。席を外している間に医者と話をしてきたはずだ。正晴も聞きたそうにしている。
「んー、まあいつもと同じで特別なことはなかったかな。新しく分かったこともなさそうだったしね。あ、そうそう、リハビリはもう少し回復してから始めようってさ」
「うっ、リハビリなぁ」
母さんの言葉に俺は顔を顰めた。大怪我をしたわけではないので大した内容ではないのだが、それでもリハビリは辛いし疲れる。とはいえ、日常生活に戻るためには、しないわけにもいかないから面倒だ。
「大変だねぇ」
意地悪な笑顔で正晴がそう言って、俺の肩に手を乗せる。振り払う気力も体力もないので目だけで反抗すると、さらに笑みを深めた。
「正晴、その顔ムカつく」
「ムカつかせようとしてるからね」
俺の直球な言葉に、悪びれずに答えてくる。いつものこととはいえ、ここまで来るとさすがにイラッとしてしまう。まあ、これはこれで楽しくもあるのだが。 そんな俺たちを母さんも微笑ましそうに見ていた。
俺が今いるのは、白い天井にシンプルな内装。とある大学病院の一室である。力が入らない体を少しだけ動かして、自分の生を確認する。ああ、相変わらず生きている。驚くわけでもないし、まったく嬉しくないというわけでもない。でも、少し憂鬱になったのも事実だ。
それから数十分後、病室のドアが雑に開かれた。
「あっ、冬起きたんだー」
迷いなくズカズカと入ってきた男が俺を見て言う。その顔には、若干の安堵が浮かんでいるのが読み取れた。
「なーんか、冬が起きると春が来たって感じがするよね」
そう言ってくすくすと笑っている彼の名前は、佐原正晴。小学校の頃からの俺の唯一の友人だ。顔が整っているうえに、やらせれば大体何でもできる高スペックの持ち主で、おそらく結構女子からモテる。 実際、中学時代何度か告白現場に遭遇した。
「正晴、今日高校は?」
「……長いこと寝てたから頭働いてないの? もうとっくに放課後だよ」
正晴が自身の腕時計を見せながら言う。小馬鹿にしたような言い方には少しイラッとしたが、いつものことなので気にしないでおいた。それに、正晴の言ったことに間違いはない。長いこと寝ていると本当に感覚が狂うのだ。それに俺は高校に通っていないから「放課後」というものに縁がない。同い年なのに差を見せつけられたようで少し気持ちが沈んだ。
表情が暗くなった俺をちらっと見てから、正晴は近くにあったパイプ椅子に腰掛けた。どうやら長居モードに入ったらしい。スマホを取り出していじり始めている。わざわざ見舞いに来ておいてスマホを見ているのも謎だが、これもいつものことなのでやはり気にしないでおく。
「あ! ねぇ、冬って確か苺好きだよね?」
数分後、スマホを見ていた彼が急に顔を上げてそう聞いてきた。いきなりだったのでびっくりする。
「あ、ああ。それがどうかしたか?」
「ほらこれ見て!」
バッと目の前に出されたのは、スイーツ専門店のサイトだ。画面はたくさんの苺で溢れていた。
「ここ今苺フェアやってるみたい。めっちゃ美味しそうじゃない?」
正晴の楽しそうな感じが伝わってきて、俺は笑って小さく頷いた。俺も大概だが、彼は無類の甘いもの好きである。美味そうなスイーツを見てテンションが上がっているのだろう。
「ビュッフェもやってるみたいだから、冬が退院したら一緒に行こ。それまで楽しみに待ってるから」
その誘い自体はすごく嬉しかった。だが、俺の退院まで待たせるのは申し訳ない気がした。入院しているのは完全に俺の事情なので、そこに正晴を巻き込みたくない。俺は正晴の目を見て返事をする。
「俺が退院するの待たないで誰かと行けばいいのに。正晴だって苺好きだろ」
「えー、冬とがいいんだもん。むしろ冬とじゃなかったら行きたくないし」
「……なんだその一部女子に勘違いされそうなセリフは」
わざと呆れたふりをすると、正晴は吹き出した。一応病院内だから配慮しているのか、声を抑えつつ盛大に笑っている。 それを見ていたら、俺もつられて笑ってしまった。久々に笑ったからか、ぎこちなくなったし、腹筋が痛かったが、やっと起きたんだという実感が湧いた。
「冬、誰か来てるの?」
俺達が笑っていると、髪を無造作に束ねた女性が部屋に入ってきた。俺の母親である。俺が目覚めたのを確認して席を外していたが、しばらく経って戻ってきたのだ。
「あ、美里さん!」
「あら、正晴くん。また冬のお見舞い来てくれたの? ありがとうね」
「いやー、俺は冬の唯一の友達ですから」
正晴は冗談めかしてそんなことを言い、いたずらっぽく笑ってみせている。やや失礼な発言に俺はむすっとしたが、事実なので仕方なく黙った。母さんもそれを分かっているから、咎めることなく笑っている。それから正晴は、母さんに椅子を勧めた。微笑みながら椅子を譲る姿は紳士そのものだ。いたずら好きでSっ気の多い奴だが、面倒見がよく優しい。だからこそ俺なんかの友達でいられるのだろう。正晴がいなければこの世になんの心残りもないと言っても過言ではないくらい、俺は正晴のことを大事に思っている。 こんなこと絶対に本人には言えないが。
「先生なんて言ってた?」
椅子を断ってベッドの傍らに立った母さんに聞いてみた。席を外している間に医者と話をしてきたはずだ。正晴も聞きたそうにしている。
「んー、まあいつもと同じで特別なことはなかったかな。新しく分かったこともなさそうだったしね。あ、そうそう、リハビリはもう少し回復してから始めようってさ」
「うっ、リハビリなぁ」
母さんの言葉に俺は顔を顰めた。大怪我をしたわけではないので大した内容ではないのだが、それでもリハビリは辛いし疲れる。とはいえ、日常生活に戻るためには、しないわけにもいかないから面倒だ。
「大変だねぇ」
意地悪な笑顔で正晴がそう言って、俺の肩に手を乗せる。振り払う気力も体力もないので目だけで反抗すると、さらに笑みを深めた。
「正晴、その顔ムカつく」
「ムカつかせようとしてるからね」
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