春になったら君に会いたい

松下柚子

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告げる秋

恋の正解

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病院から出てスマホを確認すると、不在着信が入っていた。正晴からのものだ。メッセージではなく電話なのは珍しい。掛け直すと彼はすぐに電話に出た。

「もしもし」
「もしもしー。冬、どうしたの?」

どこか楽しそうな声が耳に届く。聞き慣れたその声に、昂っていた心が少し落ち着いた。 

「いや、どうしたのって、お前が先に掛けてきたんだろ」
「あ、そうだった。忘れてた」
「何か用か?」
「んーん、単に冬と話したくなっただけ」
「そんな理由で掛けてくるなんて珍しいな」

本当に珍しい。意地悪な物言いをする割に気を遣いがちなタイプなので、要件もなく電話を掛けてくることなんて今までほとんどなかった。何かあったのだろうか。気になるものの、正晴相手では聞き出そうとしてもかわされるに違いなかった。

「そうだっけ? じゃあさ、恋バナしよ!」
「は? 何お前好きな子でもできたの?」
「そうじゃないよ。もちろん議題は、冬とのぞみちゃんについて」

そう言われて、さっきのことを思い出してしまう。途端にぶわっと顔が熱くなった。電話越しでよかったと思う。顔を突き合わせて話していたら、絶対にからかわれていただろう。

「冬ー?」

俺が無言になったのを不思議に思ってか、電話の向こうから名前を呼ばれた。俺ははっとして返事をする。

「そ、そういう話題は」
「ぶっちゃけ今どんな感じなの? 体質の話しても特に態度変わらなかったんでしょ?」
「ちょ、待っ」
「告白とかしたの? もしかしてもう付き合ってたり?」

質問攻めにあって反抗できなくなる。俺には素直に答えるという選択肢しかないようだ。

「どんな感じって言われてもなぁ。特に進展はないし……」
「告白しようとか思わないの?」
「んん、まあ、したい気持ちはあるけど」
「お、ヘタレ冬くんにしてはいい感じじゃないですか」
「ヘタレ言うな。……でも、告白してもいいのかな」

俺がそう言うと、正晴は「あぁ」と暗い声を落とした。俺が言わんとしていることに気づいたらしい。のぞみが亡くなるまで、あと数ヶ月しか残っていない。そんな状況で思いを告げるべきなのか、などと考えてしまうのだ。一方的に好意を押し付けることになったら無責任な感じがするし、ギクシャクするのも嫌だ。仮にのぞみが同じ思いを持ってくれていたとしても、一緒にいられる時間は長くない。それなら今のままでいた方がきっと楽だろう。それに、伝えたらのぞみに今までよりも辛い思いをさせてしまうかもしれない。彼女は優しいから、自分を好きだと言ってくれる人を残して死ぬことに申し訳なくなってしまうのではないか。だから告白に踏み切れていない。俺にとってものぞみにとっても、残りの時間を最高のものにするためには、今の関係を変えない方がいい気がした。たとえ、愛の言葉を伝えられないとしても。

「俺は、冬が告白したいならすればいいと思うよ」

正晴が静かな声でそう言った。投げやりにも聞こえるが、俺の意思を尊重してくれているがゆえの発言だと分かる。

「のぞみちゃんの気持ちを考えたって、ぶっちゃけよく分かんないじゃん? だったら冬がしたいようにした方が上手くいくんじゃないかな」
「じゃあ、正晴ならどう? 同じ状況下だったら告白されたい?」
「えぇ、俺? うーん、どうだろうな。もちろん嬉しい気持ちにはなると思うけど……」

普通は嬉しいものなのだろうか。しかし、正晴はすぐに言葉を継ぐ。

「でも、好きにさせてごめんって思うかも。俺を好きになったせいで、より苦しまなきゃいけなくさせてごめんって」

やっぱりそうかと思った。告白したら、嬉しいだけじゃ済まない思いも背負わせることになってしまう。そんなことで苦しむのぞみを見たくない。

「そう、だよなぁ……」
「ま、あくまで俺の意見だけどね。どっちが正解かなんてきっと誰にも分かんないよ」

どんよりと暗い俺の声に、正晴が明るい声で答える。それを聞いて、あることを思い出した。

"恋愛は正解がないから面白いんだよ。こうすべきだって思ったことが裏目に出ることもあるし、失敗したと思ったことが案外いい結果に繋がることもある。"

確か、正晴に薦められて読んだ本の中に出てきた台詞だ。まるで今の俺にあてられた言葉のようである。もしかしたら正晴はそれを分かってて薦めてきたのかもしれない、というのは深読みのしすぎだろうか。正解がないというのはもっともだ。だからこんなに悩んでいるのだから。

正直、告白したいという気持ちはかなりある。のぞみに好きだと言えるのは今しかない。恋人という関係性にこだわりはないが、何もないまま終わるのは寂しいものだ。正解がないのなら、告白してもいいのだろうか。

「……正晴」

気づけば自然と口が開いていた。

「なーに?」
「告白したい、って言ったら背中押してくれるか?」

まだすると決めたわけではないが、どうしても正晴からの一押しが欲しかった。それがあれば、自分が一番したい決断をできそうな気がする。

「冬が何かをしたいって言うなら、俺はいつだって応援するよ」

正晴は嬉しそうに言う。その顔に暖かい笑みが浮かんでいることくらい、容易に想像できた。

「頑張れ、冬」

たった一言。それなのに、その言葉は俺の心にすっと入って、これ以上ないほどエネルギーをくれた。さすがに親友の言葉は強い。おかげで決心がついた。

「ありがとな。頑張ってみる」
「うん。何かあったらいつでも相談して」

こんなに心強い言葉はないだろう。頼りっぱなしで情けないが、正晴のようなやつが近くにいてくれて本当によかったと思う。

俺たちは別れの言葉を言うと電話を切った。次にのぞみに会うのは日曜日。そこで思いを告げよう。さっきまではあんなに悩んでいたのに、一度決心してしまえば迷いはない。どう伝えようかなんて考えながら、俺は家までの道のりをゆっくり歩いた。
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