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6章
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志村家に来客があった。
平日の昼間にも関わらず、スーツ姿の男性が二人。
「どうぞお上がりください」
真凜の母がリビングへ案内する。
「来たわよ。学園長と教頭先生」
真凛の母は「どうぞおかけ下さい。お茶用意致しますから」と来客用のお茶セットを用意し始める。
お茶の準備ができたので、真凜の母も席についた。
ほうじ茶がコップから冷たさを感じる。
両親と真凜、そして学園長と教頭で話し合いが行われる。
平日の昼下がりで学園長と教頭は四月の暑さを耐え忍ぶようにスーツから汗が滲み出てた。
真凛の父は午前だけ勤務し午後から休みを取って帰ってきた。
学園長と教頭は立ち上がって「志村真凛さん、ご家族の皆様、今回このような形になってしまい申し訳ございません!」と深々と頭を下げた。
二人の白髪頭で物悲しさがにじみ出る。
志村家は黙って見てるしかなかった。
「お、お二人とも、せ、席についてください」
真凛の父が座るように促す。
お言葉に甘えて二人は席についた。
「今回、神原千夏さんの件について経緯をお聞かせくださいますか」
学園長の質問に真凛はありのまま答えた。
「田丸先生の授業で、私は目がかゆくなって我慢できずについ目元を触ってしまいました。先生から前にでろと言われ行ったら、首を絞められました。その後、連帯責任で全員走ることに・・・・・・見学していた神原さんも一緒に。授業開始前に神原さんは喘息を持っているので、激しい運動を医師から禁止されていることや吸入薬を持っていることを先生に言って、その時はいいよって言っていました。でも、結局走らされて、神原さんは走ってる途中で苦しくなってました。彼女が吸入薬取ろうとしたら、先生は授業に関係ないもの持ってくんうなと舞台にぶん投げました。私も神原さんと一緒に説明したのですが、足蹴りされて・・・・・・」
「待ってください。最初、田丸先生は神原さんの持病で見学を認めてるんですよね? 吸入薬のことも承諾してるんですよね?」
「はい」
「で、私は痛みを堪えながら吸入薬を取りに行って、神原さんに渡そうとしたら、倒れちゃって……保健室の先生呼ぼうとしたら、田丸先生が走り続けろって。俺と校長先生で呼ぶからと体育館から出ました」
「警備員のおじさんが入れ替わるように来て、田丸先生と校長が保健室にいったって話したら、二人は違う方向に向かってるのを見たそうで・・・・・・代わりに和田さんが保健室に行きました・・・・・・」
真凜が一通り話をすると、学園長と教頭は顔を見合わせたり顰めたりしていた。
おい聞いてたのと違うじゃないかとか、田丸先生と校長の行動が不自然だとか、これは過失だとちらほら聞こえる。
「校長の独断で全て決めていた。皆さんの処遇も説明会も。個人的な話になりますが、警備員――石綿敏夫さんはね、私の親友なんです。敏夫――とっちゃんから連絡きたんですよ」
――なぁ、しばちゃん、俺、クビになるってよ。お前知ってるか?
――保護者説明会で校長がしかるべき処分するってさ言ったんだよ。俺さ、説明会帰りの保護者達の会話で知ったんだよ。でさ、校長にどういうことか聞いたら、解雇だってよ。世間を騒がせたからって。
――俺は倒れた生徒を救急車呼ぶのと応急処置しただけなんだ。なのに・・・・・・なのに・・・・・・。
――もうあの校長の独裁政治にうんざりだよ。むしろ辞めるべきなのは向こうじゃん。校長代わってから、ずっと藤ノ宮で頑張って来た先生や職員を片っ端から理由つけて辞めさせてさ・・・・・・来たのが佐久間家か校長の知り合いばっかで、校長はイエスマンで囲むつもりだよ。
――俺ここの警備員になってから、校長さ、すげーバカにしたこと言ってくるんだ。いつも俺のこと石綿元教頭って呼んでさ。あとは、掃除がなってないとか、勤務中に水分補給禁止とか、夏場に警備室だけ冷房付けさせない嫌がらせとか・・・・・・体調崩す人出てきてるし、去年の夏に暑さで死んだ人もいる。校長は隠蔽してるけど。もう無理だよ。
――頼むから、しばちゃん、あの校長なんとかしてくれ・・・・・・。
涙ながらに縋る敏夫に「分かった」と学園長は約束した。
すぐさま学園長は敏夫を呼び出し、事実確認及び詳細を聞き出した。
神原千夏を一年二組の生徒達と保健室の先生で、救急搬送の手配それまでの応急処置をしただけだった。
田丸先生と校長先生は保健室じゃなく駐車場に向かってた。
学園長は校長にも確認した。
返ってきたのは「あの警備員と生徒達が、変なことで藤ノ宮女子の名前を傷つけたのですから、解雇処分にしたまでです。それが何か?」
「もう済んだことです。蒸し返さないでください。今後この案件の関係者の名前を出すのも連絡取るのも禁止としています。もしした場合謹慎処分にいたします」
「これ以上口出しするなら学園長はここにいられなくなりますよ。あの人が潰してくれるから。あー、口うるさい年寄りがいなくなればいいのに」
なんとしてでも敏夫にいて欲しかった。
長年の友達とか戦友という感情を抜きにして、警備員が理不尽な理由でやめさせられるのはそもそもおかしな話だから。
立場が弱いとはいえ。
平日の昼間にも関わらず、スーツ姿の男性が二人。
「どうぞお上がりください」
真凜の母がリビングへ案内する。
「来たわよ。学園長と教頭先生」
真凛の母は「どうぞおかけ下さい。お茶用意致しますから」と来客用のお茶セットを用意し始める。
お茶の準備ができたので、真凜の母も席についた。
ほうじ茶がコップから冷たさを感じる。
両親と真凜、そして学園長と教頭で話し合いが行われる。
平日の昼下がりで学園長と教頭は四月の暑さを耐え忍ぶようにスーツから汗が滲み出てた。
真凛の父は午前だけ勤務し午後から休みを取って帰ってきた。
学園長と教頭は立ち上がって「志村真凛さん、ご家族の皆様、今回このような形になってしまい申し訳ございません!」と深々と頭を下げた。
二人の白髪頭で物悲しさがにじみ出る。
志村家は黙って見てるしかなかった。
「お、お二人とも、せ、席についてください」
真凛の父が座るように促す。
お言葉に甘えて二人は席についた。
「今回、神原千夏さんの件について経緯をお聞かせくださいますか」
学園長の質問に真凛はありのまま答えた。
「田丸先生の授業で、私は目がかゆくなって我慢できずについ目元を触ってしまいました。先生から前にでろと言われ行ったら、首を絞められました。その後、連帯責任で全員走ることに・・・・・・見学していた神原さんも一緒に。授業開始前に神原さんは喘息を持っているので、激しい運動を医師から禁止されていることや吸入薬を持っていることを先生に言って、その時はいいよって言っていました。でも、結局走らされて、神原さんは走ってる途中で苦しくなってました。彼女が吸入薬取ろうとしたら、先生は授業に関係ないもの持ってくんうなと舞台にぶん投げました。私も神原さんと一緒に説明したのですが、足蹴りされて・・・・・・」
「待ってください。最初、田丸先生は神原さんの持病で見学を認めてるんですよね? 吸入薬のことも承諾してるんですよね?」
「はい」
「で、私は痛みを堪えながら吸入薬を取りに行って、神原さんに渡そうとしたら、倒れちゃって……保健室の先生呼ぼうとしたら、田丸先生が走り続けろって。俺と校長先生で呼ぶからと体育館から出ました」
「警備員のおじさんが入れ替わるように来て、田丸先生と校長が保健室にいったって話したら、二人は違う方向に向かってるのを見たそうで・・・・・・代わりに和田さんが保健室に行きました・・・・・・」
真凜が一通り話をすると、学園長と教頭は顔を見合わせたり顰めたりしていた。
おい聞いてたのと違うじゃないかとか、田丸先生と校長の行動が不自然だとか、これは過失だとちらほら聞こえる。
「校長の独断で全て決めていた。皆さんの処遇も説明会も。個人的な話になりますが、警備員――石綿敏夫さんはね、私の親友なんです。敏夫――とっちゃんから連絡きたんですよ」
――なぁ、しばちゃん、俺、クビになるってよ。お前知ってるか?
――保護者説明会で校長がしかるべき処分するってさ言ったんだよ。俺さ、説明会帰りの保護者達の会話で知ったんだよ。でさ、校長にどういうことか聞いたら、解雇だってよ。世間を騒がせたからって。
――俺は倒れた生徒を救急車呼ぶのと応急処置しただけなんだ。なのに・・・・・・なのに・・・・・・。
――もうあの校長の独裁政治にうんざりだよ。むしろ辞めるべきなのは向こうじゃん。校長代わってから、ずっと藤ノ宮で頑張って来た先生や職員を片っ端から理由つけて辞めさせてさ・・・・・・来たのが佐久間家か校長の知り合いばっかで、校長はイエスマンで囲むつもりだよ。
――俺ここの警備員になってから、校長さ、すげーバカにしたこと言ってくるんだ。いつも俺のこと石綿元教頭って呼んでさ。あとは、掃除がなってないとか、勤務中に水分補給禁止とか、夏場に警備室だけ冷房付けさせない嫌がらせとか・・・・・・体調崩す人出てきてるし、去年の夏に暑さで死んだ人もいる。校長は隠蔽してるけど。もう無理だよ。
――頼むから、しばちゃん、あの校長なんとかしてくれ・・・・・・。
涙ながらに縋る敏夫に「分かった」と学園長は約束した。
すぐさま学園長は敏夫を呼び出し、事実確認及び詳細を聞き出した。
神原千夏を一年二組の生徒達と保健室の先生で、救急搬送の手配それまでの応急処置をしただけだった。
田丸先生と校長先生は保健室じゃなく駐車場に向かってた。
学園長は校長にも確認した。
返ってきたのは「あの警備員と生徒達が、変なことで藤ノ宮女子の名前を傷つけたのですから、解雇処分にしたまでです。それが何か?」
「もう済んだことです。蒸し返さないでください。今後この案件の関係者の名前を出すのも連絡取るのも禁止としています。もしした場合謹慎処分にいたします」
「これ以上口出しするなら学園長はここにいられなくなりますよ。あの人が潰してくれるから。あー、口うるさい年寄りがいなくなればいいのに」
なんとしてでも敏夫にいて欲しかった。
長年の友達とか戦友という感情を抜きにして、警備員が理不尽な理由でやめさせられるのはそもそもおかしな話だから。
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