よろず屋ななつ星~復讐代行承ります~ 藤ノ宮女子高校死亡案件

月見里ゆずる(やまなしゆずる)

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8章

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「みんなー、天文堂のお菓子もらったからたべよー。神原さんから頂いたのー」
 部屋にいた二人は「おおぅ!」「やったー!」とサボる口実ができたと言わんばかりに休憩スペースの準備をする。
 長机に三人が囲む。
「みみずく、あんたはお茶の準備して」
「えーっ、俺がですか?」
 大屋に言われみみずくは口を尖らせる。
「お茶一つ入れられない男子なんて女の子にモテないよー。この間マッチングアプリで出会った女の子に食事ドタキャンされたんでしょ? お茶一つ入れるので『気遣いできる俺』アピールできるから、さっさとやる!」
「てか、何で俺がドタキャンされたの知ってるんです? 大屋さん」
「すいせんが言ってた」
 すいせんはてへっ言っちゃったーと悪びれもなく舌をだす。
「えーっー」
「つべこべ言わずにやる! 私、コーヒーブラックでお砂糖多めで」
「すいせんさん、なにしれっとコーヒーブラックでなんて言ってるんですか!」
 すいせんがみみずくを無言の圧力で見つめる。
「……わ、わかりました。い、いれてきます……」
 みみずくはそそくさと給湯室へ向かった。
「はぁ、何で俺がいれねーといけねーんだ……」
 ぶつぶつ文句いいながら、電気ケトルに水を入れて沸騰するまで待つ。
 お茶の一つ入れられないと女子にモテないというけど、本当なんだろうか。
 要は男女問わず気遣いできるような人が好かれるよと言いたいのだろうけど、そんな器用な人間ではない。
 昔から自分の興味のあることばかりに熱中ばかりして、人に対する気遣いや振る舞いや言動が苦手なのは自覚している。
 アルバイトを始めてから多少はマシになってきたし、社会人としての最低限のことはできていると思う。でもやっぱり自信ない。
 毎日すずらんやすいせんに厳しく言われる日々だ。
 マッチングアプリ始めたのも、最初は同じ趣味の女の子がいないかなーと探していただけだった。だんだん、ちょっとはモテたいと思うようになってきた。
 中学・高校と男子校で、大学も男子が多い学部で、女子にえんがなかった。いざマッチングアプリで女性とやりとりするとどうすればいいか分からなくなる。
 撮り鉄仲間を見ていると、自分はあぁはなりまいと心に誓うばかりだ。服装に無頓着むとんちゃくだ。皆、見た目というか……髪型が坊主頭ばっかで誰がどの人か区別付かない。鞄も似たようなもので、斜めがけばっかだ。それでやたら声が甲高いし罵声のオンパレード。気遣いのきや思いやりのおの字がない人が少なくない。もちろん気が利く撮り鉄仲間もいるが少数派だ。そういう人はだいたい既婚者だ。
 鉄道の写真以外に星空や風景を撮るのが楽しい。そういうのを共有できる女性に出会えることを祈るばかりだ。
 電気ケトルの沸騰ふっとうした音が鳴った。
 それぞれのマイカップに緑茶のティーバッグ、すずらんはコーヒーだから間違えないようにとお湯を入れていく。
「おっと、入れすぎるとこだった」
 これで準備万端だと丸盆にマイカップを置いてそれぞれに渡していく。
「おーすまんなー! ありがとー」
「俺の分とっといてくれてますよね?」
「もちのロンよ!」
 古臭い言い方で返すすいせん。
 たいやきは十六入りで四種類の味になっている。
 カスタードクリーム、こしあん、安納芋あんのういも、小豆あん。
 無事自分の取り分を確保できたみみずくは「いただきまーす」とたいやきに手をだした。
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