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8章
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高村亜津紗は七つ星駅から車で二十分のところにある墓地に来ていた。
周りは住宅街だが、その途中になぜか墓地がある。向かいには寺がある。
亜津紗は先祖代々の墓の手入れに来ていた。
約一ヶ月ぶりだろうか。最近仕事が忙しく中々行く余裕がなかった。
以前は週一回ぐらいのペースで仕事がない日に行っていた。
それに加えて、家にある小さな仏壇にある両親と妹の遺影に手を合わせるのが日課になっていた。
地味に暑い。薄手とはいえ長袖のブラウスにして少し後悔した。七分にすれば良かった。
ここの墓はもちろん妹と両親も入っている。
両親は裁判の後、心労で相次いで亡くなった。
身寄りのいない亜津紗にとって、ここが心の拠り所である。
墓前に手をあわせる。
線香の煙が雲ひとつない空に向って流れる。線香の独特の匂いが鼻腔を刺激する。
しーちゃん、敵をとったよ!
まさか仕事関係で絡むとは思わなかったよ。
長かったなー。ちょっと疲れたけど。
あとお父さんとお母さんにもよろしく。
亜津紗が立ち上がった瞬間、奥から細身の女性が見えた。
黒のパンツスーツ姿で花束を抱えながら亜津紗の元へやってきた。
「あっ、大屋さん……」
「すず……高村亜津紗さんがいいかしら? それとも川端理沙さんがいい?」
「高村亜津紗でいいです」
「そう。わかった。一緒に手をあわせていい?」
大屋は花立てにお供え用の花を生けて、手を合わせた。
亜津紗は黙ってその姿を見ているだけだ。
「おねーさんの上司です。いつもお世話になってます。あなたのおねーさんは優秀ですよってアピールしといた」
「あ、ありがとうございます」
はにかみながら笑う亜津紗。
「あらー照れた顔もかわいー。そうだ、今日時間ある?」
「あ、はい」
「じゃぁこれから、カフェ行きましょ。七つ星駅のバスロータリーの近くにあるとこ」
上司に誘われると断れない。断ったら後が面倒だ。
「はい」
二人はそれぞれ駅近くの駐車場に車を止めてからバスロータリーの近くにあるカフェに向かった。
平日なのでお客がまばらだ。学生がちらほらいるぐらいだろうか。
穏やかなBGMが流れて来るひとをリラックスモードにさせる。
「こうしてあなたとゆっくりしゃべる機会ってなかなかなかったわ」
「はい……」
緊張する。粗相しないようにとか気を利かせてますよアピールしなきゃとか、体が固くなる。
「そんな緊張しなくてもいいのよ。なんかあなたが最初来た時のことを思い出した。あなたが汗だくでうちにきたんだから」
「そうでしたっけ?」
周りは住宅街だが、その途中になぜか墓地がある。向かいには寺がある。
亜津紗は先祖代々の墓の手入れに来ていた。
約一ヶ月ぶりだろうか。最近仕事が忙しく中々行く余裕がなかった。
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それに加えて、家にある小さな仏壇にある両親と妹の遺影に手を合わせるのが日課になっていた。
地味に暑い。薄手とはいえ長袖のブラウスにして少し後悔した。七分にすれば良かった。
ここの墓はもちろん妹と両親も入っている。
両親は裁判の後、心労で相次いで亡くなった。
身寄りのいない亜津紗にとって、ここが心の拠り所である。
墓前に手をあわせる。
線香の煙が雲ひとつない空に向って流れる。線香の独特の匂いが鼻腔を刺激する。
しーちゃん、敵をとったよ!
まさか仕事関係で絡むとは思わなかったよ。
長かったなー。ちょっと疲れたけど。
あとお父さんとお母さんにもよろしく。
亜津紗が立ち上がった瞬間、奥から細身の女性が見えた。
黒のパンツスーツ姿で花束を抱えながら亜津紗の元へやってきた。
「あっ、大屋さん……」
「すず……高村亜津紗さんがいいかしら? それとも川端理沙さんがいい?」
「高村亜津紗でいいです」
「そう。わかった。一緒に手をあわせていい?」
大屋は花立てにお供え用の花を生けて、手を合わせた。
亜津紗は黙ってその姿を見ているだけだ。
「おねーさんの上司です。いつもお世話になってます。あなたのおねーさんは優秀ですよってアピールしといた」
「あ、ありがとうございます」
はにかみながら笑う亜津紗。
「あらー照れた顔もかわいー。そうだ、今日時間ある?」
「あ、はい」
「じゃぁこれから、カフェ行きましょ。七つ星駅のバスロータリーの近くにあるとこ」
上司に誘われると断れない。断ったら後が面倒だ。
「はい」
二人はそれぞれ駅近くの駐車場に車を止めてからバスロータリーの近くにあるカフェに向かった。
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「はい……」
緊張する。粗相しないようにとか気を利かせてますよアピールしなきゃとか、体が固くなる。
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