よろず屋ななつ星~復讐代行承ります~ マッチングアプリ美人局案件

月見里ゆずる(やまなしゆずる)

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6章

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 大屋が応対に向かった。
 すずらんの中でなんとなく心がざわつく。
 中に小骨が引っかかったような感覚。
 今日は特にアポの予約を取っている人は午前中だけだ。でもそれは草むしりの依頼だったので、すずらん達が関わる仕事ではない。
 だといいのだが……。
「ちょっと嫌な予感がするから行ってくる」
 打ち合わせ用のスーツに着替えて大屋がいる玄関に向かうすずらん。
「……!」
 すずらんの嫌な予感が当たった。
 濃い顔つきで長身で柔和にゅうわな顔立ちの男性。グレーのスーツを着ている。
 女性はボディーラインを強調するかのように、スーツのスカートを短めにし、ブラウスから谷間が見えるように着ている。
 隣で大屋が「やっぱり来たよアイツら」と目配せする。
「よろず屋ななつ星さんはこちらでよろしいでしょうか? 私、セリバーテル社長、占部浩平と申します。こちらは妻の瀬里香です」
浩平は丁寧な口調で挨拶をし、瀬里香も静かに頭を下げる。
「はい。本日はアポはとられましたか?」
「いいえ……うちのスタッフがここにいるみたいで……迎えに来たんですが。今色々と大変で」
「そうなんですよ。心配なので……」
 大屋とすずらんは顔を見合わせた。
「……では、こちらにご案内致しますので、お話お聞かせ頂けますか」
 大屋は応対用の四人がけのスペースに案内する。
 すずらんに「録音と録画よろ」と耳打ちする。
 スーツのジャケットに小型の録音と録画機能のあるペンを忍ばせてある。普段から持ち歩いている。
 よろず屋ななつ星で働くのに必須アイテムだ。
「うちのスタッフのゆあ――琉実菜るみながここ数日行方不明で連絡が取れないんです。仕事に行ったきり帰ってこなくて……私どもは今色々と大変でして、人手が足りなくてしんどいんです。彼女が帰ってきたらどんだけ助かることか……」
「他のスタッフ達も心配しているのです。私もそうです。彼女がいなければ回らないんです」
「そうですか。それは大変ですね」
 大屋の柔らかい声音で共感アピールをして、二人の警戒心を解く。
 二人はまるで瑠実菜を必要と言わんばかりの口調だ。浩平は握り拳を震わせてて、瀬里香はハンカチで目元を抑えている。でも涙は出てない。
「困るって、具体的には?」
「……仕事がまだ残ってるので……そこで……」
「仕事って? それはどのようなものですか?」
「ざ、雑用、とか、そ、掃除とか、ら、来客のお、応対とか……お客様のし、処理とか……」
 瀬里香が無理やり思いつく限り単語を並べていくようにしか見えない。
「それは、他の人でもできるのでは?」
「そ、それはそうなんですけど……」
「けど?」
  瀬里香の目が泳いでいる。浩平はすずらんと大屋をガン見しているだけ。
「そ、それはともかく、琉実菜を返して頂けますか? これ以上長引くとこっちもしんどいので。それにには言いたいことがあるんです」
「お客様? それはどなたですか?」
「それはお答え出来ません。企業秘密なので」
「ああ、そうですね」
「ちなみにどのような内容をお話されますか? 差し支え無ければ教えていただけますか?」
「……そ、それは……」
「スタッフである琉実菜とやり取りしてる人に慰謝料請求のお話をしたいと思いまして。彼女は未成年なので、私たちの監護が必要なんです。身寄りがいないからうちで引き取ってるんです。まあ、保護者みたいなもんです」
「保護者……? では、琉実菜さんが未成年であることを証明するものはありますか? それと彼女とやりとりしている相手との様子の証拠はありますか?」
「し、証拠? そんなものはないですよ!」
「彼女は未成年です! 手を出した人が悪いじゃない! それに夫がいるんですよ! 不倫ですよ! 慰謝料請求されるのは当然です!」
 証拠という単語が出た瞬間、浩平の声が高くなった。
「夫? 彼女はご結婚されてるのですか? ならその証拠は? いつ? どこで? 役所に問い合わせしますが……」
「し、しなくても結婚してるわよ! 彼女は」
「相手はどなたですか?」
「わ、私です」
 浩平が答える。
「あら? 先程彼女は未成年だから、保護者みたいなもんと仰ってましたよね? 私の記憶違いかしら? ねぇ?」
 大屋はすずらんに聞く。
「ええ、私しかとこの耳でききました」
  すずらんはわざと大袈裟に頭を上下する。
「ごちゃごちゃうるさいわね。オバサン達。さっさと連れてきなさい!」
 瀬里香は大屋とすずらんに早口でかみつく。
 浩平は額の周りに汗がでている。
すずらんはこの二人が墓穴を掘ってるのを確信した。
 自分達が不利になって逆ギレし始めてる。先程の低姿勢はどこへやら。
 浩平が席を外して中へ入ろうとするので、大屋が慌てて「ここから先はスタッフルームです。立ち入らないで下さい」と制止する。
「ちょっとぐらいいいじゃないですか。瀬里香、行こう」
 瀬里香も猫なで声で「待ってー」とついて行こうとする。
「だからダメですって!」
「おーい! 瑠実菜はどこだー?」
「帰るわよー!」
 二人の瑠実菜を呼ぶ声が廊下に木霊こだまする。
「なんですか?! 誰か呼んだ?」
 声に反応したみみずくとすいせんと琉実菜が出てきて、打ち合わせスペースにやってきた。
「あちゃー」とすずらんは額に手を当てる。
 やばい。みんな出てきた。
「琉実菜、こんなとこにいたのか! 帰ろう! みんな待ってる!」
「散々心配させておいて! 罰としてお小遣いなしね」
琉実菜はみみずくの後ろに隠れて、彼の腕をしがみつくように掴む。
「あ、君がゆうきって人? 写真見せてもらったよ。 うちの琉実菜とやり取りしてた人! 彼女は未成年だし、俺は彼女の夫だ! 琉実菜! こんな人の腕掴むなんて! 無理やりやらさられてるんだろ? 慰謝料請求だ!」
 浩平と瀬里香はみみずくの顔見るなり、づかづかと近寄って慰謝料請求を始める。
 いきなりの要求に面食らって言葉が出ない。
 しかも心配させたからお小遣いなしって何様だよ。あの女は。かなりウエメセだ。
 あの男もいきなり慰謝料がどうのこうのとエラソーに。
「ほら、帰るわよ! あんたには後始末してもらわないと! 今、セリバーテルに苦情がかなり来てるの。その処理をあんたにしてもらわないと……」
 うわぁ、こいつスケープゴートにさせようとしてんじゃん。引くわー。
「未成年? 彼女が? 既婚者? その証拠は?」
 みみずくが矢継ぎ早に質問する。
「この子は俺の妻だよ。まだ十八の高校生なんだけどねー。君は未成年に手を出したことになるよ」
「その証拠は? 高校生なら生徒手帳を見せてください」
 みみずくは手の平を差し出して「頂戴」のポーズをする。
「……か、彼女は見るからに未成年じゃないか。きききみ、警察に捕まるよ。君みたいな冴えない人が瑠実菜のようなスタイルいい子は釣り合わないよ。
月とスッポンレベル。君は瑠実菜の体で夢みさせてあげたんだから、もういいじゃないか」
 忙しく手を動かしながら言い返す浩平。
 さっきから一方的な要求しかしてこないし、証拠もなく未成年で俺の妻に手を出したと抜かしてるこの二人に、みみずくは舌打ちをしたくなった。
 全く話が通じない。
 証拠もなく、慰謝料払えだ警察のお世話になりたいか? なんて言われる筋合いはない。
瀬川をはじめセリバーテルで騙された男性達はこの手口でお金を巻き上げられたのだろう。
「証拠もないのに慰謝料請求ってそれ美人局ってやつじゃないですか? 本当に彼女が未成年かどうか証明してくださいよ。既婚者か証明してくださいよ。何時何分何秒? 地球が何回回った時ですかー?」
 みみずくはまくしたてるように占部夫妻を挑発する。
「『何時何分何秒、地球が何回回った時?』て久しぶりに聞いたわ……小学生以来よ」
「私も小学生の時に同級生によく言われてました」
「うちの娘もたまに言ってくるわー」
「うちもよー」
 よろず屋ななつ星のメンバーは小学生の定番フレーズに感慨に浸ってる一方で、浩平は「やれやれ、この子は俺たちの保護者みたいなもんだ。君は彼女に手を出した。それだけだ」と努めて穏やかな口調に戻る。
 このままだと堂々巡りになってしまう。
「――私、帰りません。ここにいます!」
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