婚約破棄された悪役令嬢ですが、私の”役目”に気づいたのは冷酷公爵だけでした

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第7話|遅すぎた真実

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 北部辺境から三日後。

 王都に一通の手紙が届いた。

 差出人は、ディートリヒ・フォン・シュタインベルク公爵。

 クラウス執事は、すぐにそれを王太子アレクシスのもとへ運んだ。

「殿下、公爵様からの急報です」

「シュタインベルク公爵から? 読ませてくれ」

 アレクシスは手紙を開いた。

 そこには、衝撃的な内容が記されていた。

-----

『王太子殿下へ

 北部国境にて、重大な事実を確認しました。

 若者たちの拉致は、隣国の仕業ではありません。

 これは王国内部の貴族による陰謀です。

 首謀者の一人として、バルトロメオ・ランカスター男爵を確認。

 彼は隣国の軍服を着た傭兵を雇い、若者を拉致させていました。

 目的は、戦争を引き起こし、混乱に乗じて権力を握ることと推測されます。

 なお、この陰謀には複数の貴族が関与している可能性があります。

 王都でも、警戒を怠らないようお願いいたします。

 詳細は、救出作戦終了後、直接ご報告いたします。

ディートリヒ・フォン・シュタインベルク』

-----

「なんだと……!」

 アレクシスは愕然とした。

「国内の貴族が、若者を拉致していた?」

「殿下、これは……」

「すぐに調査を開始しろ! ランカスター男爵の屋敷を家宅捜索だ!」

「承知しました!」

 クラウスが部屋を出ようとした時、アレクシスが呼び止めた。

「待て、クラウス」

「はい?」

「公爵は……エリアナと共にいるのか?」

 クラウスは少し躊躇した後、頷いた。

「はい。エリアナ様も、調査に協力されているようです」

「そうか……」

 アレクシスは複雑な表情を浮かべた。

「彼女は、追放されてもなお、この国のために動いているのか」

「……」

「私は……本当に愚かだった」

-----

 その日の午後、ランカスター男爵の屋敷が家宅捜索された。

 そこで発見されたのは、驚くべき証拠の数々だった。

「殿下! これを!」

 近衛隊長が、大量の書類を持ってきた。

「これは……」

 アレクシスは書類に目を通した。

 そこには、若者拉致の詳細な計画、傭兵への支払い記録、そして――

「隣国との偽の交渉記録……戦争を引き起こすための工作か」

「さらに、こちらには共謀者の名前が」

 隊長が別の書類を示した。

 そこには、十数名の貴族の名前が記されていた。

 バルドウィン・ハートレー子爵、エドワード・フェアファックス伯爵、そして――

「これほど多くの貴族が……」

 アレクシスは拳を握りしめた。

「すぐに全員を拘束しろ!」

「承知しました!」

-----

 王宮は、一気に騒然となった。

 次々と貴族たちが拘束され、牢に送られていく。

 廊下では、貴族たちがざわめいていた。

「まさか、ハートレー子爵までもが……」

「あれほど王太子殿下に忠誠を誓っていたのに」

「いや、最初から陰謀を企んでいたんだろう」

 その時、一人の老貴族が呟いた。

「そういえば……エリアナ・ヴェルノン嬢は、以前ランカスター男爵と対立していたな」

「ああ、確か社交界で激しく非難していた」

「でも、証拠がなくて失敗したんだっけ?」

「まさか……あの時、彼女は男爵の不正を知っていたのか?」

 貴族たちの間に、疑念が広がり始めた。

-----

 アレクシスは、執務室で過去の記録を調べ始めた。

 エリアナが関わった「事件」を、一つ一つ見直す。

「マーガレット・ウィンザー伯爵令嬢との諍い……エリアナが彼女を侮辱した後、ウィンザー伯爵家の不正が発覚」

「使用人の解雇……解雇された三人は、後に隣国のスパイと判明」

「ランカスター男爵との対立……今回、男爵の陰謀が明らかになった」

 すべてが、繋がっていく。

「エリアナは……ずっと、この国を守っていたんだ」

 アレクシスは頭を抱えた。

「彼女が糾弾した相手は、すべて本当に悪だった」

 そして、エリアナはその悪を暴くために、自ら憎まれ役を買って出た。

「なぜ……なぜ誰にも言わなかったんだ」

「なぜ一人で、すべてを背負ったんだ」

 アレクシスの目から、涙が溢れた。

-----

 その夜、アレクシスはルシアを呼んだ。

「ルシア、聞いてほしい」

「はい、殿下」

「私は……エリアナに、取り返しのつかないことをした」

 アレクシスは、これまで調べたことをすべて話した。

 エリアナが守ってきたもの。

 彼女が一人で戦ってきたこと。

 そして、自分がどれほど愚かだったか。

「……という訳だ」

 話し終えた時、アレクシスの顔は涙で濡れていた。

「私は、彼女を悪役だと決めつけた。証拠も確認せず、彼女の言い分も聞かず」

「殿下……」

「そして、公衆の面前で婚約を破棄し、爵位を剥奪し、追放した」

 アレクシスは両手で顔を覆った。

「彼女は……どれほど孤独だったろう」

「どれほど辛かったろう」

「それでも、最後まで弁解しなかった。この国を守るために」

 ルシアは、そっとアレクシスの肩に手を置いた。

「殿下、今からでも遅くありません」

「何?」

「エリアナ様に、謝罪なさってください」

「だが……彼女は、もう私の謝罪など受け入れないだろう」

「それでも、伝えるべきです」

 ルシアは優しく微笑んだ。

「謝罪は、許してもらうためにするものではありません。自分の過ちを認め、相手に伝えるためにするものです」

「ルシア……」

「私も、エリアナ様に謝りたいんです」

 ルシアの目にも、涙が浮かんでいた。

「私は……殿下の隣で、何も気づかなかった。エリアナ様の孤独に、気づいてあげられなかった」

「君は悪くない」

「いいえ、私も同罪です」

 ルシアは首を横に振った。

「だから、一緒に謝りに行きましょう。北部へ」

-----

 翌朝、アレクシスは準備を始めた。

 北部へ向かい、エリアナに直接会う。

 そして、謝罪する。

「殿下、本当に行かれるのですか?」

 侍従が心配そうに尋ねた。

「ああ。これは、私がすべきことだ」

「ですが、王都を離れるのは危険では……」

「大丈夫だ。ハートレー子爵たちは拘束した。王都の守りは固めてある」

 アレクシスは剣を腰に差した。

「それに、これ以上エリアナを待たせるわけにはいかない」

-----

 出発の準備をしていると、クラウス執事が現れた。

「殿下、お待ちください」

「クラウス? どうした」

「公爵様から、追加の報告が届きました」

 クラウスは手紙を差し出した。

 アレクシスはそれを読み、顔色を変えた。

「明日……救出作戦を決行する?」

「はい。公爵様の私兵が到着したようです」

「ならば、急がねば」

 アレクシスは決意を固めた。

「私も、その場に立ち会う」

「殿下!」

「エリアナが戦っている場所に、私もいるべきだ」

 アレクシスは真剣な目で言った。

「彼女が一人で戦ってきたことを、この目で見なければ。そして、せめて今回は――共に戦いたい」

-----

 その日の夕方、アレクシスとルシアは王都を出発した。

 護衛の騎士たちを伴い、北部へと向かう。

「殿下、本当に大丈夫なのでしょうか」

 ルシアが不安そうに尋ねた。

「大丈夫だ。必ず、エリアナに会える」

 アレクシスは前を見据えた。

「そして、伝えるんだ。私の後悔と、感謝を」

-----

 一方、北部辺境では。

 エリアナとディートリヒが、最終的な作戦の打ち合わせをしていた。

「明日の夜明けに、救出作戦を決行します」

 ディートリヒが地図を指し示す。

「私兵が到着した。総勢五十人。十分な戦力だ」

「傭兵の数は十五人……勝算はありますね」

「ああ。だが、油断は禁物だ」

 ディートリヒはエリアナを見た。

「エリアナ、あなたは村で待機していてくれ」

「いいえ、私も行きます」

「危険だ」

「分かっています。でも、あの若者たちは、私の領民だったんです」

 エリアナは決意に満ちた目で言った。

「私には、彼らを救う責任があります」

 ディートリヒは長い沈黙の後、頷いた。

「……分かった。だが、私から離れるな」

「約束します」

-----

 その夜、エリアナは眠れずにいた。

 明日、多くの若者たちを救える。

 でも、戦いになる。

 誰かが傷つくかもしれない。

「大丈夫……公爵様がいる」

 エリアナは自分に言い聞かせた。

 もう一人じゃない。

 彼が、共に戦ってくれる。

 その時、窓の外に馬の蹄の音が聞こえた。

「こんな夜中に……?」

 エリアナは窓から外を見た。

 月明かりの中、数騎の馬が村に近づいてくる。

「まさか、敵の襲撃?」

 エリアナは急いで部屋を出た。

 外に出ると、ディートリヒも駆けつけてきた。

「エリアナ、下がっていろ」

「はい」

 二人が警戒していると、馬が村の入り口で止まった。

 そして、一人の男が馬から降りた。

 月明かりがその顔を照らす。

「……殿下?」

 エリアナは信じられない思いで呟いた。

 そこにいたのは――王太子アレクシスだった。

「エリアナ……」

 アレクシスは彼女の名を呼んだ。

「会いに来た」

 その声は、震えていた。

「どうして……殿下が、こんな場所に」

「君に……謝らなければならないことがあるんだ」

 アレクシスは一歩、エリアナに近づいた。

「エリアナ・ヴェルノン。私は、すべてを知った」

「すべて……?」

「君が、この国のために何をしてきたか」

 アレクシスの目には、涙が浮かんでいた。

「君が、どれほど一人で戦ってきたか」

「そして、私がどれほど愚かだったか」

 アレクシスは跪いた。

 王太子が、地に膝をつく。

 その光景に、エリアナは息を呑んだ。

「殿下……何を」

「エリアナ、許してほしい」

 アレクシスは頭を下げた。

「私は君を誤解し、傷つけ、追放した」

「君の孤独に気づかず、君の努力を踏みにじった」

「取り返しのつかないことをした」

 静寂が訪れた。

 エリアナは、何も言えなかった。

「私は……君に償うことはできない」

 アレクシスは顔を上げた。

「でも、伝えたかった。君は悪役なんかじゃない。この国の、真の英雄だと」

「そして……ありがとう。君が守ってくれたから、この国は今も存在している」

 エリアナの目から、涙が溢れた。

 長い間、誰にも認められず、誰にも理解されなかった。

 でも今――王太子が、自分の努力を認めてくれた。

「殿下……」

 エリアナは小さく微笑んだ。

「私は……殿下を恨んでなんかいません」

「エリアナ……」

「これが、私の役目でしたから」

 エリアナは優しく言った。

「でも、気づいてくださって……ありがとうございます」

 アレクシスは立ち上がり、エリアナの手を取った。

「エリアナ、もう一度――いや、これは無理な願いだな」

「殿下?」

「君を、もう一度王宮に迎えたい。王太子妃として」

 その言葉に、エリアナは首を横に振った。

「それは……できません」

「やはり、そうか」

 アレクシスは悲しげに微笑んだ。

「当然だ。私は、君を傷つけすぎた」

「いいえ、そうではありません」

 エリアナは、ディートリヒを見た。

 公爵は少し離れた場所で、静かに二人を見守っていた。

「私には……もう、守るべき場所が見つかったんです」

 エリアナは優しく言った。

「ここで、公爵様と共に、新しい人生を歩みたいんです」

 アレクシスは、ディートリヒを見た。

 公爵は無表情だったが、その瞳には――確かな決意があった。

「そうか……」

 アレクシスは諦めたように微笑んだ。

「ならば、祝福しよう」

「殿下……」

「エリアナ、どうか幸せに」

 アレクシスは最後に、深々と頭を下げた。

「そして、改めて――本当に、ありがとう」
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