前世で追放された王女は、腹黒幼馴染王子から逃げられない

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第1章:追放の日

第8話「監視される日々」

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私は、ルシアン様の私邸で暮らしている。

 彼の言った通り、別の棟。

 顔を合わせることは——ほとんどない。

 でも。

 何かが、おかしい。

「姫様」

 リリアが、小さな声で言った。

「最近……護衛が増えていませんか?」

 言われて、気づいた。

 確かに、館の周りに騎士が多い。

 庭を散歩するだけでも、必ず誰かがついてくる。

「……気のせいじゃない?」

「でも……」

 リリアは不安そうだった。

 私も——なんとなく、視線を感じていた。

 常に、誰かに見られている気がする。

 

 その日の午後、庭を散歩していた。

 リリアと二人、花を見ながら歩く。

 久しぶりの、穏やかな時間。

 でも——。

「……あの、姫様」

 リリアが、後ろを振り返った。

「護衛が……何人いますか?」

 私も振り返った。

 騎士が——五人。

 しかも、全員武装している。

「……多いわね」

 私は、苦笑した。

 庭を散歩するだけなのに、五人も必要だろうか。

 その時、ルシアン様が現れた。

 館から出てきて、こちらを見ている。

「ルシアン様……?」

 彼は、無表情のまま近づいてきた。

「護衛を増やした」

 唐突に、そう言った。

「え……?」

「五人では足りない。十人にする」

「十人!?」

 リリアが、声を上げた。

 私も、驚いた。

 庭を散歩するのに、十人?

「殿下、さすがに多すぎませんか……?」

 リリアが、恐る恐る言った。

 ルシアン様は、冷たく答えた。

「まだ足りない」

「……は?」

 リリアが、固まった。

 私も——何と言っていいかわからなかった。

「あの……ルシアン様」

 私は、できるだけ丁寧に尋ねた。

「庭を歩くだけなのですが……」

「危険だ」

 彼は、真顔で言った。

「虫が出るかもしれない」

 虫。

 虫で、十人。

 リリアと私は、顔を見合わせた。

 これは——おかしい。

 明らかに、おかしい。

「……承知いたしました」

 私は、諦めて頷いた。

 ルシアン様は、それだけ言うと——また館に戻っていった。

 残された私たちは、呆然としていた。

「姫様……」

 リリアが、小さく言った。

「殿下、何を考えてるんでしょう……」

「わからないわ」

 本当に、わからない。

 追放を止めなかった人が。

 冷たく、何も語らなかった人が。

 なぜ——こんなに過剰な護衛を?

 

 翌日、食事の時間になった。

 いつものように、部屋で食べるつもりだった。

 でも——ルシアン様が来た。

「これから、食事は俺と一緒に摂れ」

「え……?」

「命令だ」

 彼は、有無を言わさぬ口調で言った。

 私は——従うしかなかった。

 

 食堂に案内された。

 長いテーブル。

 私とルシアン様が、向かい合って座る。

 沈黙の中、食事が運ばれてきた。

 豪華な料理。

 でも——喉を通らない。

 彼が、じっと見ているから。

「……食え」

 ルシアン様が、低く言った。

「は、はい……」

 私は、フォークを持った。

 でも、手が震える。

 一口、口に運ぶ。

「もっと食え」

「……え?」

「お前は痩せた。もっと食べろ」

 彼は、真顔で言った。

 私は——困惑した。

 確かに、辺境で痩せたかもしれない。

 でも、そこまで気にすることだろうか。

「あの……十分、いただいています」

「足りない。あと三口」

「……三口、ですか?」

「そうだ」

 彼は、腕を組んで見ている。

 私は——仕方なく、三口食べた。

 お腹が、苦しい。

 でも——。

「よし」

 ルシアン様は、満足そうに頷いた。

 そして——また、黙って食事を続けた。

 私は——混乱していた。

 これは、何?

 監視?

 それとも——。

 わからない。

 本当に、わからない。

 

 食事が終わり、部屋に戻った。

 リリアが、心配そうに尋ねる。

「姫様、どうでしたか?」

「……わからないわ」

 私は、ベッドに座り込んだ。

「ルシアン様が、私に食事を強要するの」

「強要……?」

「もっと食べろ、って」

 リリアは、首を傾げた。

「それは……心配してるんじゃ?」

「でも、追放を止めなかったのよ?」

 私は、首を振った。

「冷たかったのよ。なのに、今は——」

 矛盾している。

 全てが、矛盾している。

 彼の行動が、理解できない。

 

 それから、毎日が同じだった。

 朝、目が覚めると——護衛がいる。

 庭を散歩すると——護衛がついてくる。

 食事は——ルシアン様と一緒。

 そして——常に、見られている。

 ある日、図書館に行った。

 本を読みたかったから。

 一冊、手に取ろうとすると——。

「それは重い」

 背後から、声がした。

 振り返ると——ルシアン様。

「俺が持つ」

「え……でも、これ……」

 私が手に取ろうとしたのは、薄い絵本だった。

 子供用の、軽い本。

「重い」

 彼は、断固として言った。

 そして——本を取り、抱えた。

 私は——唖然とした。

 薄い絵本を、彼が抱えて歩く。

 周りの侍女たちも、困惑している。

 これは——。

 恥ずかしい。

 とても、恥ずかしい。

「あの……ルシアン様……」

「何だ」

「自分で持てます……」

「重い」

 彼は、譲らなかった。

 結局、絵本を抱えた彼が、私の後をついてきた。

 図書館を出るまで。

 

 部屋に戻ると、リリアが笑いを堪えていた。

「姫様……絵本……」

「……言わないで」

 私は、顔を覆った。

「でも、姫様」

 リリアが、真顔で言った。

「殿下、明らかにおかしいです」

「……そうね」

「これは……もしかして……」

 リリアは、何か言いかけて——黙った。

「何?」

「……いえ、何でもありません」

 彼女は、首を振った。

 でも——その目には、何か思うところがあるようだった。

 私は、窓の外を見た。

 庭に、護衛が立っている。

 十人以上。

 異常だ。

 明らかに、異常だ。

 ルシアン様は——何を考えているのだろう。

 なぜ、こんなに——。

 わからない。

 全てが、わからない。

 ただ——一つだけ、確かなことがある。

 彼は——私を、監視している。

 常に、見ている。

 なぜ——。

——彼は、私を逃がさないつもりなのだろうか。

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