悪役令嬢のはずですが、年上王子が幼い頃から私を甘やかす気でいました

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第1話(後編)「私は悪役令嬢かもしれない」

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 翌日、私は王宮の書庫へ向かった。
 殿下が「面白い本がある」と教えてくださったからだ。
 広い書庫の中を歩き、目当ての棚を探す。
 そして――
 手に取った一冊。
 その背表紙には、こう書かれていた。

『悪役令嬢の末路』

「……悪役令嬢?」
 不思議なタイトルだと思いながら、ページを開く。
 そこに書かれていたのは――
 王子の婚約者である令嬢の物語。
 彼女は、王子に愛されていると信じていた。
 彼女は、侍女に何度も無理を言った。
 彼女は、自分の美しさにこだわり、時間を忘れた。
 彼女は、王子の優しさを当然だと思い、周囲への配慮を欠いた。
 王子は何も言わなかった。優しいから。
 だが周囲は、彼女を許さなかった。
 
 そして――
 彼女は、「我儘な悪役令嬢」として、全てを失った。

「……え?」

 手が震える。
 ページをめくる手が、止まらない。
 令嬢は婚約破棄され、国外追放された。
 王子は最後まで優しかった。
 でも、止めなかった。

 なぜなら――周囲の非難に、王子も疲れてしまったから。

「そんな……」

 胸が、苦しい。
 侍女に三回も髪を編み直させた。
 殿下を三十分も待たせた。
 周囲から「我儘」と言われている。

 でも殿下は――何も言わない。

「優しいから……」

 震える声が漏れる。
 殿下は優しいから、私を叱らない。
 でも、それは――
 私が正しいからではない。
 殿下が、優しすぎるだけなのではないか。

「私……悪役令嬢……?」

 本を抱きしめたまま、床に座り込む。
 違う。
 そんなはずない。
 私は殿下のことが好きで、だから――
 でも。
 この物語の令嬢も、きっとそう思っていたはずだ。
 王子のため。
 愛されているから。
 だから、何をしても許される、と。
 そして――気づいた時には、手遅れだった。

「嫌……そんなの、絶対に嫌……!」

 涙がこぼれる。
 殿下の優しさが、初めて怖くなった。
 もし、私が本当に悪役令嬢だとしたら。
 もし、殿下の優しさが、いつか尽きてしまったら。
 もし――私が、この令嬢と同じ末路を辿るとしたら。

「殿下……」

 呟いた名前は、誰にも届かない。
 
 天真爛漫だった私の世界は、この瞬間、音を立てて崩れ始めた。
 

 そして――私は知らない。
 殿下が私を見つめる瞳の中に、どれほどの愛が込められているかを。
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