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第14話(前編)「これは物語の通り?」
リリアーナが社交界から姿を消してから、三日が経った。
でも――噂は、消えなかった。
「聞いた? エリーゼ様、記憶を失っていらっしゃるんですって」
「まあ、本当? それで王子の婚約者だなんて……」
「レオンハルト様のこと、ちゃんとご存知なのかしら」
お茶会の会場で、ひそひそと囁く声。
私――エリーゼ・ローゼンタールは、カップを手に持ったまま、その声を聞いていた。
「エリーゼ様」
隣に座っていた令嬢が、心配そうに声をかけてくる。
「大丈夫ですか? お顔の色が……」
「ええ、大丈夫です」
私は笑顔を作った。
でも――胸の奥は、ざわついていた。
噂。
それは、まるで――
あの本の、悪役令嬢のように。
## ◆
お茶会を終えて、私は一人で王宮の図書室へ向かった。
殿下は午後から公務がある。
だから、少しだけ時間がある。
図書室の奥――
あの本が置いてある場所へ。
『悪役令嬢の末路』
手に取り、ページをめくる。
物語の中盤。
令嬢は、周囲から孤立し始めていた。
「彼女は王子のことを何も知らない」
「記憶を失っているらしい」
「婚約者としてふさわしくない」
囁かれる噂。
そして――令嬢は、一人で抱え込んだ。
王子に相談することもなく。
自分を責め続けた。
その結果――
婚約破棄。
国外追放。
「……これは」
私の手が、震える。
今の状況と――まったく同じではないか。
記憶喪失。
周囲の噂。
婚約者としてふさわしいのか、という疑問。
私は――
この令嬢と、同じ道を辿っているのではないか。
「エリーゼ様」
声がして、振り返る。
そこには――図書室の司書が立っていた。
「その本を、お読みになっているのですね」
「ええ……」
「その本は――」
司書が少し困ったような顔をする。
「実は、あまり良い評判ではないんです」
「え……?」
「悪役令嬢が可哀想すぎる、と。結末が救いがない、と」
司書が続ける。
「ですから、あまりお勧めはいたしません」
「そう……ですか」
私は本を閉じた。
でも――もう遅い。
この本の内容は、私の心に深く刻まれている。
## ◆
その夜、私は自室で考え込んでいた。
殿下は、私を愛してくださっている。
それは、分かっている。
でも――
周囲の声は、違う。
私は、婚約者としてふさわしくない。
記憶を失っている。
殿下のことを、ちゃんと知らない。
そう――囁かれ続けている。
「このままでは……」
呟いて、窓の外を見る。
月が、冷たく輝いていた。
このままでは――
あの本の令嬢のように、私も――
コンコン。
扉がノックされる。
「エリーゼ様、マリアです」
「どうぞ」
マリアが入ってきて、心配そうに私を見つめた。
「エリーゼ様……最近、お元気がありませんね」
「そう……かしら」
「はい。お食事も、あまり召し上がっていませんし」
マリアが近づいてくる。
「何か、お悩みでは?」
「……マリア」
私は少し迷ってから、口を開いた。
「もし、私が――殿下の婚約者として、ふさわしくなかったら……」
「エリーゼ様?」
「記憶もなくて、殿下のこと、ちゃんと知らなくて……」
声が、震える。
「そんな私が、婚約者でいていいのかしら……」
「エリーゼ様!」
マリアが強い口調で言った。
「そんなこと、おっしゃらないでください」
「でも……」
「エリーゼ様は、レオンハルト様を愛していらっしゃるでしょう?」
「……はい」
「なら、それで十分です」
マリアが私の手を取る。
「記憶など、関係ありません」
「マリア……」
「大切なのは、今のお気持ちです」
マリアの言葉に、涙が溢れそうになった。
でも――
それでも、不安は消えなかった。
でも――噂は、消えなかった。
「聞いた? エリーゼ様、記憶を失っていらっしゃるんですって」
「まあ、本当? それで王子の婚約者だなんて……」
「レオンハルト様のこと、ちゃんとご存知なのかしら」
お茶会の会場で、ひそひそと囁く声。
私――エリーゼ・ローゼンタールは、カップを手に持ったまま、その声を聞いていた。
「エリーゼ様」
隣に座っていた令嬢が、心配そうに声をかけてくる。
「大丈夫ですか? お顔の色が……」
「ええ、大丈夫です」
私は笑顔を作った。
でも――胸の奥は、ざわついていた。
噂。
それは、まるで――
あの本の、悪役令嬢のように。
## ◆
お茶会を終えて、私は一人で王宮の図書室へ向かった。
殿下は午後から公務がある。
だから、少しだけ時間がある。
図書室の奥――
あの本が置いてある場所へ。
『悪役令嬢の末路』
手に取り、ページをめくる。
物語の中盤。
令嬢は、周囲から孤立し始めていた。
「彼女は王子のことを何も知らない」
「記憶を失っているらしい」
「婚約者としてふさわしくない」
囁かれる噂。
そして――令嬢は、一人で抱え込んだ。
王子に相談することもなく。
自分を責め続けた。
その結果――
婚約破棄。
国外追放。
「……これは」
私の手が、震える。
今の状況と――まったく同じではないか。
記憶喪失。
周囲の噂。
婚約者としてふさわしいのか、という疑問。
私は――
この令嬢と、同じ道を辿っているのではないか。
「エリーゼ様」
声がして、振り返る。
そこには――図書室の司書が立っていた。
「その本を、お読みになっているのですね」
「ええ……」
「その本は――」
司書が少し困ったような顔をする。
「実は、あまり良い評判ではないんです」
「え……?」
「悪役令嬢が可哀想すぎる、と。結末が救いがない、と」
司書が続ける。
「ですから、あまりお勧めはいたしません」
「そう……ですか」
私は本を閉じた。
でも――もう遅い。
この本の内容は、私の心に深く刻まれている。
## ◆
その夜、私は自室で考え込んでいた。
殿下は、私を愛してくださっている。
それは、分かっている。
でも――
周囲の声は、違う。
私は、婚約者としてふさわしくない。
記憶を失っている。
殿下のことを、ちゃんと知らない。
そう――囁かれ続けている。
「このままでは……」
呟いて、窓の外を見る。
月が、冷たく輝いていた。
このままでは――
あの本の令嬢のように、私も――
コンコン。
扉がノックされる。
「エリーゼ様、マリアです」
「どうぞ」
マリアが入ってきて、心配そうに私を見つめた。
「エリーゼ様……最近、お元気がありませんね」
「そう……かしら」
「はい。お食事も、あまり召し上がっていませんし」
マリアが近づいてくる。
「何か、お悩みでは?」
「……マリア」
私は少し迷ってから、口を開いた。
「もし、私が――殿下の婚約者として、ふさわしくなかったら……」
「エリーゼ様?」
「記憶もなくて、殿下のこと、ちゃんと知らなくて……」
声が、震える。
「そんな私が、婚約者でいていいのかしら……」
「エリーゼ様!」
マリアが強い口調で言った。
「そんなこと、おっしゃらないでください」
「でも……」
「エリーゼ様は、レオンハルト様を愛していらっしゃるでしょう?」
「……はい」
「なら、それで十分です」
マリアが私の手を取る。
「記憶など、関係ありません」
「マリア……」
「大切なのは、今のお気持ちです」
マリアの言葉に、涙が溢れそうになった。
でも――
それでも、不安は消えなかった。
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