悪役令嬢のはずですが、年上王子が幼い頃から私を甘やかす気でいました

ria_alphapolis

文字の大きさ
27 / 45

第14話(前編)「これは物語の通り?」

 リリアーナが社交界から姿を消してから、三日が経った。

 でも――噂は、消えなかった。

「聞いた? エリーゼ様、記憶を失っていらっしゃるんですって」

「まあ、本当? それで王子の婚約者だなんて……」

「レオンハルト様のこと、ちゃんとご存知なのかしら」

 お茶会の会場で、ひそひそと囁く声。

 私――エリーゼ・ローゼンタールは、カップを手に持ったまま、その声を聞いていた。

「エリーゼ様」

 隣に座っていた令嬢が、心配そうに声をかけてくる。

「大丈夫ですか? お顔の色が……」

「ええ、大丈夫です」

 私は笑顔を作った。

 でも――胸の奥は、ざわついていた。

 噂。

 それは、まるで――

 あの本の、悪役令嬢のように。

## ◆

 お茶会を終えて、私は一人で王宮の図書室へ向かった。

 殿下は午後から公務がある。

 だから、少しだけ時間がある。

 図書室の奥――

 あの本が置いてある場所へ。

『悪役令嬢の末路』

 手に取り、ページをめくる。

 物語の中盤。

 令嬢は、周囲から孤立し始めていた。

「彼女は王子のことを何も知らない」

「記憶を失っているらしい」

「婚約者としてふさわしくない」

 囁かれる噂。

 そして――令嬢は、一人で抱え込んだ。

 王子に相談することもなく。

 自分を責め続けた。

 その結果――

 婚約破棄。

 国外追放。

「……これは」

 私の手が、震える。

 今の状況と――まったく同じではないか。

 記憶喪失。

 周囲の噂。

 婚約者としてふさわしいのか、という疑問。

 私は――

 この令嬢と、同じ道を辿っているのではないか。

「エリーゼ様」

 声がして、振り返る。

 そこには――図書室の司書が立っていた。

「その本を、お読みになっているのですね」

「ええ……」

「その本は――」

 司書が少し困ったような顔をする。

「実は、あまり良い評判ではないんです」

「え……?」

「悪役令嬢が可哀想すぎる、と。結末が救いがない、と」

 司書が続ける。

「ですから、あまりお勧めはいたしません」

「そう……ですか」

 私は本を閉じた。

 でも――もう遅い。

 この本の内容は、私の心に深く刻まれている。

## ◆

 その夜、私は自室で考え込んでいた。

 殿下は、私を愛してくださっている。

 それは、分かっている。

 でも――

 周囲の声は、違う。

 私は、婚約者としてふさわしくない。

 記憶を失っている。

 殿下のことを、ちゃんと知らない。

 そう――囁かれ続けている。

「このままでは……」

 呟いて、窓の外を見る。

 月が、冷たく輝いていた。

 このままでは――

 あの本の令嬢のように、私も――

 コンコン。

 扉がノックされる。

「エリーゼ様、マリアです」

「どうぞ」

 マリアが入ってきて、心配そうに私を見つめた。

「エリーゼ様……最近、お元気がありませんね」

「そう……かしら」

「はい。お食事も、あまり召し上がっていませんし」

 マリアが近づいてくる。

「何か、お悩みでは?」

「……マリア」

 私は少し迷ってから、口を開いた。

「もし、私が――殿下の婚約者として、ふさわしくなかったら……」

「エリーゼ様?」

「記憶もなくて、殿下のこと、ちゃんと知らなくて……」

 声が、震える。

「そんな私が、婚約者でいていいのかしら……」

「エリーゼ様!」

 マリアが強い口調で言った。

「そんなこと、おっしゃらないでください」

「でも……」

「エリーゼ様は、レオンハルト様を愛していらっしゃるでしょう?」

「……はい」

「なら、それで十分です」

 マリアが私の手を取る。

「記憶など、関係ありません」

「マリア……」

「大切なのは、今のお気持ちです」

 マリアの言葉に、涙が溢れそうになった。

 でも――

 それでも、不安は消えなかった。
感想 1

あなたにおすすめの小説

手作りお菓子をゴミ箱に捨てられた私は、自棄を起こしてとんでもない相手と婚約したのですが、私も含めたみんな変になっていたようです

珠宮さくら
恋愛
アンゼリカ・クリットの生まれた国には、不思議な習慣があった。だから、アンゼリカは必死になって頑張って馴染もうとした。 でも、アンゼリカではそれが難しすぎた。それでも、頑張り続けた結果、みんなに喜ばれる才能を開花させたはずなのにどうにもおかしな方向に突き進むことになった。 加えて好きになった人が最低野郎だとわかり、自棄を起こして婚約した子息も最低だったりとアンゼリカの周りは、最悪が溢れていたようだ。

婚約者を友人に奪われて~婚約破棄後の公爵令嬢~

tartan321
恋愛
成績優秀な公爵令嬢ソフィアは、婚約相手である王子のカリエスの面倒を見ていた。 ある日、級友であるリリーがソフィアの元を訪れて……。

良くある事でしょう。

r_1373
恋愛
テンプレートの様に良くある悪役令嬢に生まれ変っていた。 若い頃に死んだ記憶があれば早々に次の道を探したのか流行りのざまぁをしたのかもしれない。 けれど酸いも甘いも苦いも経験して産まれ変わっていた私に出来る事は・・。

愛する人のためにできること。

恋愛
彼があの娘を愛するというのなら、私は彼の幸せのために手を尽くしましょう。 それが、私の、生きる意味。

モブ令嬢、当て馬の恋を応援する

みるくコーヒー
恋愛
侯爵令嬢であるレアルチアは、7歳のある日母に連れられたお茶会で前世の記憶を取り戻し、この世界が概要だけ見た少女マンガの世界であることに気づく。元々、当て馬キャラが大好きな彼女の野望はその瞬間から始まった。必ずや私が当て馬な彼の恋を応援し成就させてみせます!!!と、彼女が暴走する裏側で当て馬キャラのジゼルはレアルチアを囲っていく。ただしアプローチには微塵も気づかれない。噛み合わない2人のすれ違いな恋物語。

片想い婚〜今日、姉の婚約者と結婚します〜

橘しづき
恋愛
 姉には幼い頃から婚約者がいた。両家が決めた相手だった。お互いの家の繁栄のための結婚だという。    私はその彼に、幼い頃からずっと恋心を抱いていた。叶わぬ恋に辟易し、秘めた想いは誰に言わず、二人の結婚式にのぞんだ。    だが当日、姉は結婚式に来なかった。  パニックに陥る両親たち、悲しげな愛しい人。そこで自分の口から声が出た。 「私が……蒼一さんと結婚します」    姉の身代わりに結婚した咲良。好きな人と夫婦になれるも、心も体も通じ合えない片想い。

悪役令嬢に転生かと思ったら違ったので定食屋開いたら第一王子が常連に名乗りを上げてきた

咲桜りおな
恋愛
 サズレア王国第二王子のクリス殿下から婚約解消をされたアリエッタ・ネリネは、前世の記憶持ちの侯爵令嬢。王子の婚約者で侯爵令嬢……という自身の状況からここが乙女ゲームか小説の中で、悪役令嬢に転生したのかと思ったけど、どうやらヒロインも見当たらないし違ったみたい。  好きでも嫌いでも無かった第二王子との婚約も破棄されて、面倒な王子妃にならなくて済んだと喜ぶアリエッタ。我が侯爵家もお姉様が婿養子を貰って継ぐ事は決まっている。本来なら新たに婚約者を用意されてしまうところだが、傷心の振り(?)をしたら暫くは自由にして良いと許可を貰っちゃった。  それならと侯爵家の事業の手伝いと称して前世で好きだった料理をしたくて、王都で小さな定食屋をオープンしてみたら何故か初日から第一王子が来客? お店も大繁盛で、いつの間にか元婚約者だった第二王子まで来る様になっちゃった。まさかの王家御用達のお店になりそうで、ちょっと困ってます。 ◆◇◇◇ ◇◇◇◇ ◇◇◇◆ ※料理に関しては家庭料理を作るのが好きな素人ですので、厳しい突っ込みはご遠慮いただけると助かります。 そしてイチャラブが甘いです。砂糖吐くというより、砂糖垂れ流しです(笑) 本編は完結しています。時々、番外編を追加更新あり。 「小説家になろう」でも公開しています。

【完結】王子妃候補をクビになった公爵令嬢は、拗らせた初恋の思い出だけで生きていく

たまこ
恋愛
 10年の間、王子妃教育を受けてきた公爵令嬢シャーロットは、政治的な背景から王子妃候補をクビになってしまう。  多額の慰謝料を貰ったものの、婚約者を見つけることは絶望的な状況であり、シャーロットは結婚は諦めて公爵家の仕事に打ち込む。  もう会えないであろう初恋の相手のことだけを想って、生涯を終えるのだと覚悟していたのだが…。