悪役令嬢のはずですが、年上王子が幼い頃から私を甘やかす気でいました

ria_alphapolis

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第14話(後編)「これは物語の通り?」

 翌日、私は大きなお茶会に参加していた。

 殿下の代理として、王族を代表しての出席。

 会場には、多くの貴族令嬢たちが集まっていた。

「エリーゼ様、こちらへどうぞ」

 主催の令嬢が、上座へ案内してくれる。

 私が席に着くと――

 周囲の視線が、一斉に集まった。

「まあ、エリーゼ様」

 一人の令嬢が言う。

「最近、レオンハルト様とはお元気でいらっしゃいますか?」

「ええ、おかげさまで」

 私は笑顔で答えた。

「それはよろしゅうございました」

 令嬢が微笑む。

 でも――その目は、笑っていなかった。

「ところで、エリーゼ様」

 別の令嬢が尋ねる。

「記憶を失っていらっしゃると伺いましたが……」

「……はい」

 私は頷いた。

「幼い頃、高熱で――一部の記憶を失いました」

「まあ、それは大変でしたわね」

「レオンハルト様との思い出も、失われたとか」

 令嬢たちが、同情するような顔をする。

 でも――その言葉の裏には、別の意味が込められていた。

「それで、婚約者として――お務めは果たせるのですか?」

 一人の令嬢が、はっきりと尋ねた。

 会場が、静まり返る。

 全員の視線が、私に集中する。

 私は――

 深呼吸をして、答えた。

「記憶は、確かにありません」

 はっきりとした声で。

「幼い頃の殿下を、私は覚えていません」

「……」

「でも――」

 私は令嬢たちを見渡した。

「私は、今の殿下を愛しています」

「エリーゼ様……」

「過去の記憶がなくても、構いません」

 私は続ける。

「今、殿下の隣にいられること。今、殿下を愛していること。それが――全てです」

 令嬢たちが、ざわめく。

「それに――」

 私は立ち上がった。

「婚約者としてふさわしいかどうかを決めるのは、周囲の方々ではありません」

 会場が、さらに静まる。

「殿下です」

 私ははっきりと言った。

「殿下が私を選んでくださった。それだけで――私は、婚約者です」

 その言葉に――

 一人の令嬢が、拍手をした。

 そして、また一人。

 また一人。

 やがて――会場全体に、拍手が広がった。

「素晴らしいですわ、エリーゼ様」

 主催の令嬢が微笑む。

「その通りですわ。大切なのは、殿下のお気持ち」

「私たちが、とやかく言うことではありませんでしたわね」

 令嬢たちが口々に言う。

 私は――少しだけ、肩の力が抜けた。

 そうだ。

 私は、殿下に選ばれた。

 殿下が、私を愛してくださっている。

 それだけで――十分なのだ。

## ◆

 お茶会を終えて、王宮へ戻った。

 殿下に、今日の出来事を報告したくて。

「殿下!」

 執務室に入ると、殿下が驚いた顔で振り返った。

「エリーゼ? どうした、そんなに慌てて」

「聞いてください、殿下!」

 私は息を切らしながら、今日の出来事を話した。

 お茶会でのこと。

 令嬢たちに堂々と答えたこと。

 全部――

「そうか」

 殿下が微笑む。

「よく頑張ったな、エリーゼ」

「はい!」

 私は嬉しくて、殿下に抱きついた。

「殿下のおかげです! 殿下が、いつも私を信じてくださるから!」

「いや、君が――強くなったんだ」

 殿下が私の背中を撫でる。

「自分で、立ち向かったんだ」

「殿下……」

「誇りに思うよ」

 その言葉に、涙が溢れた。

 でも――

 今度の涙は、悲しみではない。

 喜びの、涙。

「殿下……私、もう大丈夫です」

 私は殿下を見上げた。

「もう、あの本の令嬢みたいにはなりません」

「あの本……?」

「『悪役令嬢の末路』です」

 私ははっきりと言った。

「私、ずっと怖かったんです。あの令嬢のように、孤立して、殿下に見放されるのではないかって」

「エリーゼ……」

「でも、もう違います」

 私は微笑んだ。

「私には、殿下がいる。そして――私を信じてくれる人たちがいる」

 殿下の目が、優しく細められる。

「だから――もう、怖くありません」

「そうか……」

 殿下が私を強く抱きしめた。

「よかった……本当に、よかった……」

 その声が、少し震えていた。

 私は――殿下の胸で、幸せを噛みしめた。

 私は、悪役令嬢じゃない。

 私は――

 殿下に愛される、婚約者。

 それだけで――

 十分なのだから。
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