28 / 45
第14話(後編)「これは物語の通り?」
翌日、私は大きなお茶会に参加していた。
殿下の代理として、王族を代表しての出席。
会場には、多くの貴族令嬢たちが集まっていた。
「エリーゼ様、こちらへどうぞ」
主催の令嬢が、上座へ案内してくれる。
私が席に着くと――
周囲の視線が、一斉に集まった。
「まあ、エリーゼ様」
一人の令嬢が言う。
「最近、レオンハルト様とはお元気でいらっしゃいますか?」
「ええ、おかげさまで」
私は笑顔で答えた。
「それはよろしゅうございました」
令嬢が微笑む。
でも――その目は、笑っていなかった。
「ところで、エリーゼ様」
別の令嬢が尋ねる。
「記憶を失っていらっしゃると伺いましたが……」
「……はい」
私は頷いた。
「幼い頃、高熱で――一部の記憶を失いました」
「まあ、それは大変でしたわね」
「レオンハルト様との思い出も、失われたとか」
令嬢たちが、同情するような顔をする。
でも――その言葉の裏には、別の意味が込められていた。
「それで、婚約者として――お務めは果たせるのですか?」
一人の令嬢が、はっきりと尋ねた。
会場が、静まり返る。
全員の視線が、私に集中する。
私は――
深呼吸をして、答えた。
「記憶は、確かにありません」
はっきりとした声で。
「幼い頃の殿下を、私は覚えていません」
「……」
「でも――」
私は令嬢たちを見渡した。
「私は、今の殿下を愛しています」
「エリーゼ様……」
「過去の記憶がなくても、構いません」
私は続ける。
「今、殿下の隣にいられること。今、殿下を愛していること。それが――全てです」
令嬢たちが、ざわめく。
「それに――」
私は立ち上がった。
「婚約者としてふさわしいかどうかを決めるのは、周囲の方々ではありません」
会場が、さらに静まる。
「殿下です」
私ははっきりと言った。
「殿下が私を選んでくださった。それだけで――私は、婚約者です」
その言葉に――
一人の令嬢が、拍手をした。
そして、また一人。
また一人。
やがて――会場全体に、拍手が広がった。
「素晴らしいですわ、エリーゼ様」
主催の令嬢が微笑む。
「その通りですわ。大切なのは、殿下のお気持ち」
「私たちが、とやかく言うことではありませんでしたわね」
令嬢たちが口々に言う。
私は――少しだけ、肩の力が抜けた。
そうだ。
私は、殿下に選ばれた。
殿下が、私を愛してくださっている。
それだけで――十分なのだ。
## ◆
お茶会を終えて、王宮へ戻った。
殿下に、今日の出来事を報告したくて。
「殿下!」
執務室に入ると、殿下が驚いた顔で振り返った。
「エリーゼ? どうした、そんなに慌てて」
「聞いてください、殿下!」
私は息を切らしながら、今日の出来事を話した。
お茶会でのこと。
令嬢たちに堂々と答えたこと。
全部――
「そうか」
殿下が微笑む。
「よく頑張ったな、エリーゼ」
「はい!」
私は嬉しくて、殿下に抱きついた。
「殿下のおかげです! 殿下が、いつも私を信じてくださるから!」
「いや、君が――強くなったんだ」
殿下が私の背中を撫でる。
「自分で、立ち向かったんだ」
「殿下……」
「誇りに思うよ」
その言葉に、涙が溢れた。
でも――
今度の涙は、悲しみではない。
喜びの、涙。
「殿下……私、もう大丈夫です」
私は殿下を見上げた。
「もう、あの本の令嬢みたいにはなりません」
「あの本……?」
「『悪役令嬢の末路』です」
私ははっきりと言った。
「私、ずっと怖かったんです。あの令嬢のように、孤立して、殿下に見放されるのではないかって」
「エリーゼ……」
「でも、もう違います」
私は微笑んだ。
「私には、殿下がいる。そして――私を信じてくれる人たちがいる」
殿下の目が、優しく細められる。
「だから――もう、怖くありません」
「そうか……」
殿下が私を強く抱きしめた。
「よかった……本当に、よかった……」
その声が、少し震えていた。
私は――殿下の胸で、幸せを噛みしめた。
私は、悪役令嬢じゃない。
私は――
殿下に愛される、婚約者。
それだけで――
十分なのだから。
殿下の代理として、王族を代表しての出席。
会場には、多くの貴族令嬢たちが集まっていた。
「エリーゼ様、こちらへどうぞ」
主催の令嬢が、上座へ案内してくれる。
私が席に着くと――
周囲の視線が、一斉に集まった。
「まあ、エリーゼ様」
一人の令嬢が言う。
「最近、レオンハルト様とはお元気でいらっしゃいますか?」
「ええ、おかげさまで」
私は笑顔で答えた。
「それはよろしゅうございました」
令嬢が微笑む。
でも――その目は、笑っていなかった。
「ところで、エリーゼ様」
別の令嬢が尋ねる。
「記憶を失っていらっしゃると伺いましたが……」
「……はい」
私は頷いた。
「幼い頃、高熱で――一部の記憶を失いました」
「まあ、それは大変でしたわね」
「レオンハルト様との思い出も、失われたとか」
令嬢たちが、同情するような顔をする。
でも――その言葉の裏には、別の意味が込められていた。
「それで、婚約者として――お務めは果たせるのですか?」
一人の令嬢が、はっきりと尋ねた。
会場が、静まり返る。
全員の視線が、私に集中する。
私は――
深呼吸をして、答えた。
「記憶は、確かにありません」
はっきりとした声で。
「幼い頃の殿下を、私は覚えていません」
「……」
「でも――」
私は令嬢たちを見渡した。
「私は、今の殿下を愛しています」
「エリーゼ様……」
「過去の記憶がなくても、構いません」
私は続ける。
「今、殿下の隣にいられること。今、殿下を愛していること。それが――全てです」
令嬢たちが、ざわめく。
「それに――」
私は立ち上がった。
「婚約者としてふさわしいかどうかを決めるのは、周囲の方々ではありません」
会場が、さらに静まる。
「殿下です」
私ははっきりと言った。
「殿下が私を選んでくださった。それだけで――私は、婚約者です」
その言葉に――
一人の令嬢が、拍手をした。
そして、また一人。
また一人。
やがて――会場全体に、拍手が広がった。
「素晴らしいですわ、エリーゼ様」
主催の令嬢が微笑む。
「その通りですわ。大切なのは、殿下のお気持ち」
「私たちが、とやかく言うことではありませんでしたわね」
令嬢たちが口々に言う。
私は――少しだけ、肩の力が抜けた。
そうだ。
私は、殿下に選ばれた。
殿下が、私を愛してくださっている。
それだけで――十分なのだ。
## ◆
お茶会を終えて、王宮へ戻った。
殿下に、今日の出来事を報告したくて。
「殿下!」
執務室に入ると、殿下が驚いた顔で振り返った。
「エリーゼ? どうした、そんなに慌てて」
「聞いてください、殿下!」
私は息を切らしながら、今日の出来事を話した。
お茶会でのこと。
令嬢たちに堂々と答えたこと。
全部――
「そうか」
殿下が微笑む。
「よく頑張ったな、エリーゼ」
「はい!」
私は嬉しくて、殿下に抱きついた。
「殿下のおかげです! 殿下が、いつも私を信じてくださるから!」
「いや、君が――強くなったんだ」
殿下が私の背中を撫でる。
「自分で、立ち向かったんだ」
「殿下……」
「誇りに思うよ」
その言葉に、涙が溢れた。
でも――
今度の涙は、悲しみではない。
喜びの、涙。
「殿下……私、もう大丈夫です」
私は殿下を見上げた。
「もう、あの本の令嬢みたいにはなりません」
「あの本……?」
「『悪役令嬢の末路』です」
私ははっきりと言った。
「私、ずっと怖かったんです。あの令嬢のように、孤立して、殿下に見放されるのではないかって」
「エリーゼ……」
「でも、もう違います」
私は微笑んだ。
「私には、殿下がいる。そして――私を信じてくれる人たちがいる」
殿下の目が、優しく細められる。
「だから――もう、怖くありません」
「そうか……」
殿下が私を強く抱きしめた。
「よかった……本当に、よかった……」
その声が、少し震えていた。
私は――殿下の胸で、幸せを噛みしめた。
私は、悪役令嬢じゃない。
私は――
殿下に愛される、婚約者。
それだけで――
十分なのだから。
あなたにおすすめの小説
手作りお菓子をゴミ箱に捨てられた私は、自棄を起こしてとんでもない相手と婚約したのですが、私も含めたみんな変になっていたようです
珠宮さくら
恋愛
アンゼリカ・クリットの生まれた国には、不思議な習慣があった。だから、アンゼリカは必死になって頑張って馴染もうとした。
でも、アンゼリカではそれが難しすぎた。それでも、頑張り続けた結果、みんなに喜ばれる才能を開花させたはずなのにどうにもおかしな方向に突き進むことになった。
加えて好きになった人が最低野郎だとわかり、自棄を起こして婚約した子息も最低だったりとアンゼリカの周りは、最悪が溢れていたようだ。
運命に勝てない当て馬令嬢の幕引き。
ぽんぽこ狸
恋愛
気高き公爵家令嬢オリヴィアの護衛騎士であるテオは、ある日、主に天啓を受けたと打ち明けられた。
その内容は運命の女神の聖女として召喚されたマイという少女と、オリヴィアの婚約者であるカルステンをめぐって死闘を繰り広げ命を失うというものだったらしい。
だからこそ、オリヴィアはもう何も望まない。テオは立場を失うオリヴィアの事は忘れて、自らの道を歩むようにと言われてしまう。
しかし、そんなことは出来るはずもなく、テオも将来の王妃をめぐる運命の争いの中に巻き込まれていくのだった。
五万文字いかない程度のお話です。さくっと終わりますので読者様の暇つぶしになればと思います。
婚約者を友人に奪われて~婚約破棄後の公爵令嬢~
tartan321
恋愛
成績優秀な公爵令嬢ソフィアは、婚約相手である王子のカリエスの面倒を見ていた。
ある日、級友であるリリーがソフィアの元を訪れて……。
モブ令嬢、当て馬の恋を応援する
みるくコーヒー
恋愛
侯爵令嬢であるレアルチアは、7歳のある日母に連れられたお茶会で前世の記憶を取り戻し、この世界が概要だけ見た少女マンガの世界であることに気づく。元々、当て馬キャラが大好きな彼女の野望はその瞬間から始まった。必ずや私が当て馬な彼の恋を応援し成就させてみせます!!!と、彼女が暴走する裏側で当て馬キャラのジゼルはレアルチアを囲っていく。ただしアプローチには微塵も気づかれない。噛み合わない2人のすれ違いな恋物語。
王子好きすぎ拗らせ転生悪役令嬢は、王子の溺愛に気づかない
エヌ
恋愛
私の前世の記憶によると、どうやら私は悪役令嬢ポジションにいるらしい
最後はもしかしたら全財産を失ってどこかに飛ばされるかもしれない。
でも大好きな王子には、幸せになってほしいと思う。
【完結】王太子妃候補の悪役令嬢は、どうしても野獣辺境伯を手に入れたい
たまこ
恋愛
公爵令嬢のアレクサンドラは優秀な王太子妃候補だと、誰も(一部関係者を除く)が認める完璧な淑女である。
王家が開く祝賀会にて、アレクサンドラは婚約者のクリストファー王太子によって婚約破棄を言い渡される。そして王太子の隣には義妹のマーガレットがにんまりと笑っていた。衆目の下、冤罪により婚約破棄されてしまったアレクサンドラを助けたのは野獣辺境伯の異名を持つアルバートだった。
しかし、この婚約破棄、どうも裏があったようで・・・。
王女を好きだと思ったら
夏笆(なつは)
恋愛
「王子より王子らしい」と言われる公爵家嫡男、エヴァリスト・デュルフェを婚約者にもつバルゲリー伯爵家長女のピエレット。
デビュタントの折に突撃するようにダンスを申し込まれ、望まれて婚約をしたピエレットだが、ある日ふと気づく。
「エヴァリスト様って、ルシール王女殿下のお話ししかなさらないのでは?」
エヴァリストとルシールはいとこ同士であり、幼い頃より親交があることはピエレットも知っている。
だがしかし度を越している、と、大事にしているぬいぐるみのぴぃちゃんに語りかけるピエレット。
「でもね、ぴぃちゃん。私、エヴァリスト様に恋をしてしまったの。だから、頑張るわね」
ピエレットは、そう言って、胸の前で小さく拳を握り、決意を込めた。
ルシール王女殿下の好きな場所、好きな物、好みの装い。
と多くの場所へピエレットを連れて行き、食べさせ、贈ってくれるエヴァリスト。
「あのね、ぴぃちゃん!エヴァリスト様がね・・・・・!」
そして、ピエレットは今日も、エヴァリストが贈ってくれた特注のぬいぐるみ、孔雀のぴぃちゃんを相手にエヴァリストへの想いを語る。
小説家になろうにも、掲載しています。