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第一章
十六話
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翌日。すっきりと目覚めたベルは早速服を着替えて、洗面所で顔を洗ってからリビングへと降りていった。昨日の夜は四人で寝ようとあのベッドルームへ誘われたが、どうにか固辞して自分の部屋で寝るという権利を勝ち取った。四人で寝るのは、あらゆる意味でドキドキして、絶対に寝不足になるという確信があったからだ。
リビングへと顔を出すと、すでに三人とも起きていた。
「おはよう、セス、アーテ、アル」
三人の名前を呼びながら挨拶をすれば、すぐに挨拶を返してくれた。キッチンには双子のアーテルとアルブスが立っていて、何やら美味しそうな匂いが鼻をくすぐってくる。
「二人とも、何を作っているの?」
そう尋ねれば、朝食との返事がアーテルから返ってきた。
「そんな、私作るのに。もしかして、起きるの遅かった?」
はっとして壁にかかっている時計を見てみると、針は八時を少し過ぎたあたりを指していた。ベルからしてみれば早い方なのだが、彼らからしたら遅い方なのかもしれない。
「そんなことないよ。ただ昨日の夕飯は作ってもらったから、朝は俺たちで作ろうって話して作ってただけ。お嬢は甘いの好きだよね? だから二人でパンケーキを作ってみたんだ」
二人の合間から美味しそうな匂いを発するフライパンを覗いてみる。するとそこにはふっくらとしたパンケーキが今まさにできようとしていた。パンケーキの飾りつけであるフルーツや生クリームをアーテルが、パンケーキをアルブスが担当をしているらしい。
普段から作っているのか、手つきが慣れていて手際がとてもよかった。
「お嬢はロセウスと座って待ってて。もうすぐできるから」
アルブスに椅子を引かれたので、大人しく座って待つことにした。
「はーい」
ロセウスはベルがキッチンに設置されている椅子に座ったのを見て、隣へとやってきてくれた。そして隣へ座ると、今日はなにをするのかと尋ねてきた。
「明日はラシード殿のお願いを聞く日だから、今日はこの街を散策でもしようかと思って。十年も経っていれば、街の様子とか大分変っていると思うし」
昨日ちらりとアーテルの乗りながら見た限りでも、知らないお店が多かったように見えた。
「ああ、確かにそうかもしれないね。私でよければお供をしようか?」
「え、いいの?」
「もちろんさ」
一人で散策をしようと思っていたのだが、やはり誰かがついてきてくれるのはありがたい。十年も住んでいるロセウスならば、案内役にもうってつけだ。さらに散策が楽しみになってきた。
「えー、俺も一緒に行きたい」
「俺も俺も! ロセウスばっかずるい」
どこに行きたいか、どんな店があるのか、十年前にあったあの店はまだあるのか、などと和気あいあいと話していると、ふわふわのパンケーキを綺麗に盛り付けした皿をアーテルとアルブスが二つずつ運んできた。それをそれぞれの前に置いて、席へと座る。
二人の作ってくれたパンケーキは絶品で、今日の予定について話しているのに、ついつい意識をそちらに取られてしまいがちになりそうになる。頑張って意識を今日の予定へと持っていくが、それをすぐに見破られてしまい、また作るからという約束の元、結局は食べ終えてからの話し合いとなった。
「今日だけど、皆で街に行く? 私はどういうふうでも街へ行ければ構わないけど」
四人で街へ行くのも楽しそうだ。しかしその提案には、残念そうにアーテルが首を横に振った。
「残念なんだけど、非常に、残念なんだけど、俺たち今日は用事があるんだよね」
非常に、という単語をやたらと押してくるアーテルに苦笑をしながら、話の続きを促す。
「用事?」
「そう、用事。お嬢が眠っている間、街の仕事を引き受けていたって言ったろ? それのこと」
そういえば、と昨日のことを思い出す。
街の人だけでは、解決できないことを仕事として請け負ってお金を稼いでいると言っていた。
「それを今日までに終わらせる約束をしていてさ。ちょっと片づけてこなきゃいけないんだよね」
「そっか。それなら、行かなきゃだよね」
仕事があるのなら仕方がない。
「ごめんね、お嬢」
「いいよ、気にしないで」
「お嬢が目覚めた以上、お嬢から離れるのは今回だけだから」
ベルと三人の関係は恋人という関係以前に、召喚術師と召喚獣という関係がある。
召喚術師が一人で仕事をこなすことはあっても、召喚獣だけで働くという形は滅多にない。今回はベルが十年間眠り続けたというイレギュラーがあったからこそ働いていただけであって、本来であればベルが引き受けた仕事を一緒にこなすというのが普通なのだ。
「わかった。じゃあ、街までは一緒に行く? そこから別行動ってことで」
仕事を依頼で引き受けているということは、仕事へ行く前に仲介場所へ寄る必要がある。所謂ギルドと呼ばれる場所で、ベルも契約術師時代に何度もそこで仕事の依頼を引き受けていた。輝人となってからは、王国の依頼が中心となってくるので終盤では行かなくなってしまったが、それでも懐かしいものがある。今後使わないとは言い切れない場所でもあるので、一度は足を運んできちんと目を通しておきたかった。
「そうだな、お嬢さえ良ければ」
「むしろ久しぶりに行ってみたかったからちょうどいいよ。どうする? もう街へ出かける準備は済んでるけど、もう出る?」
「早く終わらせるに越したことはないし、出るとするか。今からなら夕方までには終わるだろうし」
「わかった。なら、それくらいの時間になったらギルドに迎えに行くよ。だから一緒に帰ろう」
色んな店を見て回るとしたら、この時間から行ってもあっという間に夕方になってしまうだろう。
「了解。そうとなれば、早速出るか」
こうしてベルたちは、家をあとにしたのだった。
リビングへと顔を出すと、すでに三人とも起きていた。
「おはよう、セス、アーテ、アル」
三人の名前を呼びながら挨拶をすれば、すぐに挨拶を返してくれた。キッチンには双子のアーテルとアルブスが立っていて、何やら美味しそうな匂いが鼻をくすぐってくる。
「二人とも、何を作っているの?」
そう尋ねれば、朝食との返事がアーテルから返ってきた。
「そんな、私作るのに。もしかして、起きるの遅かった?」
はっとして壁にかかっている時計を見てみると、針は八時を少し過ぎたあたりを指していた。ベルからしてみれば早い方なのだが、彼らからしたら遅い方なのかもしれない。
「そんなことないよ。ただ昨日の夕飯は作ってもらったから、朝は俺たちで作ろうって話して作ってただけ。お嬢は甘いの好きだよね? だから二人でパンケーキを作ってみたんだ」
二人の合間から美味しそうな匂いを発するフライパンを覗いてみる。するとそこにはふっくらとしたパンケーキが今まさにできようとしていた。パンケーキの飾りつけであるフルーツや生クリームをアーテルが、パンケーキをアルブスが担当をしているらしい。
普段から作っているのか、手つきが慣れていて手際がとてもよかった。
「お嬢はロセウスと座って待ってて。もうすぐできるから」
アルブスに椅子を引かれたので、大人しく座って待つことにした。
「はーい」
ロセウスはベルがキッチンに設置されている椅子に座ったのを見て、隣へとやってきてくれた。そして隣へ座ると、今日はなにをするのかと尋ねてきた。
「明日はラシード殿のお願いを聞く日だから、今日はこの街を散策でもしようかと思って。十年も経っていれば、街の様子とか大分変っていると思うし」
昨日ちらりとアーテルの乗りながら見た限りでも、知らないお店が多かったように見えた。
「ああ、確かにそうかもしれないね。私でよければお供をしようか?」
「え、いいの?」
「もちろんさ」
一人で散策をしようと思っていたのだが、やはり誰かがついてきてくれるのはありがたい。十年も住んでいるロセウスならば、案内役にもうってつけだ。さらに散策が楽しみになってきた。
「えー、俺も一緒に行きたい」
「俺も俺も! ロセウスばっかずるい」
どこに行きたいか、どんな店があるのか、十年前にあったあの店はまだあるのか、などと和気あいあいと話していると、ふわふわのパンケーキを綺麗に盛り付けした皿をアーテルとアルブスが二つずつ運んできた。それをそれぞれの前に置いて、席へと座る。
二人の作ってくれたパンケーキは絶品で、今日の予定について話しているのに、ついつい意識をそちらに取られてしまいがちになりそうになる。頑張って意識を今日の予定へと持っていくが、それをすぐに見破られてしまい、また作るからという約束の元、結局は食べ終えてからの話し合いとなった。
「今日だけど、皆で街に行く? 私はどういうふうでも街へ行ければ構わないけど」
四人で街へ行くのも楽しそうだ。しかしその提案には、残念そうにアーテルが首を横に振った。
「残念なんだけど、非常に、残念なんだけど、俺たち今日は用事があるんだよね」
非常に、という単語をやたらと押してくるアーテルに苦笑をしながら、話の続きを促す。
「用事?」
「そう、用事。お嬢が眠っている間、街の仕事を引き受けていたって言ったろ? それのこと」
そういえば、と昨日のことを思い出す。
街の人だけでは、解決できないことを仕事として請け負ってお金を稼いでいると言っていた。
「それを今日までに終わらせる約束をしていてさ。ちょっと片づけてこなきゃいけないんだよね」
「そっか。それなら、行かなきゃだよね」
仕事があるのなら仕方がない。
「ごめんね、お嬢」
「いいよ、気にしないで」
「お嬢が目覚めた以上、お嬢から離れるのは今回だけだから」
ベルと三人の関係は恋人という関係以前に、召喚術師と召喚獣という関係がある。
召喚術師が一人で仕事をこなすことはあっても、召喚獣だけで働くという形は滅多にない。今回はベルが十年間眠り続けたというイレギュラーがあったからこそ働いていただけであって、本来であればベルが引き受けた仕事を一緒にこなすというのが普通なのだ。
「わかった。じゃあ、街までは一緒に行く? そこから別行動ってことで」
仕事を依頼で引き受けているということは、仕事へ行く前に仲介場所へ寄る必要がある。所謂ギルドと呼ばれる場所で、ベルも契約術師時代に何度もそこで仕事の依頼を引き受けていた。輝人となってからは、王国の依頼が中心となってくるので終盤では行かなくなってしまったが、それでも懐かしいものがある。今後使わないとは言い切れない場所でもあるので、一度は足を運んできちんと目を通しておきたかった。
「そうだな、お嬢さえ良ければ」
「むしろ久しぶりに行ってみたかったからちょうどいいよ。どうする? もう街へ出かける準備は済んでるけど、もう出る?」
「早く終わらせるに越したことはないし、出るとするか。今からなら夕方までには終わるだろうし」
「わかった。なら、それくらいの時間になったらギルドに迎えに行くよ。だから一緒に帰ろう」
色んな店を見て回るとしたら、この時間から行ってもあっという間に夕方になってしまうだろう。
「了解。そうとなれば、早速出るか」
こうしてベルたちは、家をあとにしたのだった。
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