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第二章
五十八話
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湖の水は、濁っていても味に変わりはなかった。普段ならばここでヴィータが姿を見せるのだが、やはりその姿を湖の中から見せることはない。しかしその代わりとでもいうように、緑色の光が一つ湖の上に現れた。
光は次第に大きくなっていき、人の形になっていく。そして光が収まって現れたのは、柔らかな雰囲気を持つ緑の髪の女性だった。
誰もがその姿に声を失う。
直接会ったことがある者は、この場に一人もいない。しかしその顔を知らない者も一人もいなかった。
「初めまして、そしてクライシスが迷惑をかけて申し訳ありません。召喚術師、召喚獣の皆様方。私はリーディル・ウィレンティアと申します」
「どうして貴女が……」
思わず心の声が漏れ出てしまう。
そこにいたのは、ムースの夢見の能力で見せてもらったクライシスの召喚獣リーディルだった。十代前半のような儚げな容姿に、人目を惹く鮮やかなウェーブのかかった緑の髪は見間違えようがない。夢見の映像では、クライシスの腕の中で、血塗れのリーディルが力なく横たわっていた。つまり死んでいたはずなのだ。
ベルの知る限り、死んだ者が生き返る魔法は、この世界にはなかったはずだ。だからこそクライシスはあそこまで狂ってしまったのだから。
「私は一度死にました。しかし神の采配により、この地にもう一度リーディル・ウィレンティアとして降り立つことができたのです」
ここにきて、また神という言葉を耳にする。
(神って一体何者なの?)
神のせいでリーディルは命を落とし、神のおかげで再び生を得ることができた。まるで命を弄んでいる子どものようだ。まだ神に会うどころか、声も聞いたことがないベルは怒りしか沸いてこない。
しかしそれは今口にするべき言葉でないことは、ベルだってわかっている。だから他の言葉を口にすることにした。
「今の現状は把握しているの?」
ベルたちの最優先事項は、クライシスと戦っているヴィータを助けること。なぜリーディルがここにいるかを突き止めることではない。
「全て把握しております。クライシスが私のせいで皆様に迷惑をかけていることも、狂ってしまったことも、召喚術師ではなくなったことも全て」
リーディルは悲し気に目を伏せ、胸元で両手を重ね合わせた。
「全て神にお聞きしました。ベルさん、貴女のことも。クライシスによる度々の攻撃、本当に申し訳なく思っております。すみませんでした」
「リーディルさんが謝らなくても……」
「いえ、ここは私が謝るべきなのです。原因の一端でもあるのですから。ただ今は時間がありません。現状を説明するためにも、この話はまたあとでさせてください」
「……わかった」
ここでベルが受け入れなければ、無駄な押し問答で時間を消費してしまう。それは避けたいことだったので、とりあえずといった形で受け入れることにした。
「ありがとうございます」
リーディルは深くベルに頭を下げた後、どうしてこのようなことになっているかについて教えてくれた。
「事のはじまりは、その様子ですと粗方知っているようですね」
「はい。ムースの夢見の力で」
「ムース、懐かしい名前です。それなら話は早いですね。……実は私、本当に死んだ訳ではなかったんです。所謂仮死状態というものだったんです」
「仮死状態? どういうことですの?」
コーディリアが眉間に皺を寄せながら首を傾げる。
「ああなる前の日の夜、私は直接神から声をもらい、ベルさん、貴女とクライシスの関係をお聞きしました。そしてクライシスの前世の記憶が数週間前から戻っているにも関わらず、神からの頼みをずっと拒否をしていることも」
神からの頼みというのは、ベルが幸せになるためにサポートしてほしいというものだろう。
「そんなクライシスをどうにかしてほしい。そう神から頼まれ、私は頼みを聞くことにしました。それがクライシスのためにもなると思ったからです。しかし残念なことにあの日のことが起こってしまったのです」
リーディルは伏せていた目をベルに合わせ、当時のことを教えてくれた。
光は次第に大きくなっていき、人の形になっていく。そして光が収まって現れたのは、柔らかな雰囲気を持つ緑の髪の女性だった。
誰もがその姿に声を失う。
直接会ったことがある者は、この場に一人もいない。しかしその顔を知らない者も一人もいなかった。
「初めまして、そしてクライシスが迷惑をかけて申し訳ありません。召喚術師、召喚獣の皆様方。私はリーディル・ウィレンティアと申します」
「どうして貴女が……」
思わず心の声が漏れ出てしまう。
そこにいたのは、ムースの夢見の能力で見せてもらったクライシスの召喚獣リーディルだった。十代前半のような儚げな容姿に、人目を惹く鮮やかなウェーブのかかった緑の髪は見間違えようがない。夢見の映像では、クライシスの腕の中で、血塗れのリーディルが力なく横たわっていた。つまり死んでいたはずなのだ。
ベルの知る限り、死んだ者が生き返る魔法は、この世界にはなかったはずだ。だからこそクライシスはあそこまで狂ってしまったのだから。
「私は一度死にました。しかし神の采配により、この地にもう一度リーディル・ウィレンティアとして降り立つことができたのです」
ここにきて、また神という言葉を耳にする。
(神って一体何者なの?)
神のせいでリーディルは命を落とし、神のおかげで再び生を得ることができた。まるで命を弄んでいる子どものようだ。まだ神に会うどころか、声も聞いたことがないベルは怒りしか沸いてこない。
しかしそれは今口にするべき言葉でないことは、ベルだってわかっている。だから他の言葉を口にすることにした。
「今の現状は把握しているの?」
ベルたちの最優先事項は、クライシスと戦っているヴィータを助けること。なぜリーディルがここにいるかを突き止めることではない。
「全て把握しております。クライシスが私のせいで皆様に迷惑をかけていることも、狂ってしまったことも、召喚術師ではなくなったことも全て」
リーディルは悲し気に目を伏せ、胸元で両手を重ね合わせた。
「全て神にお聞きしました。ベルさん、貴女のことも。クライシスによる度々の攻撃、本当に申し訳なく思っております。すみませんでした」
「リーディルさんが謝らなくても……」
「いえ、ここは私が謝るべきなのです。原因の一端でもあるのですから。ただ今は時間がありません。現状を説明するためにも、この話はまたあとでさせてください」
「……わかった」
ここでベルが受け入れなければ、無駄な押し問答で時間を消費してしまう。それは避けたいことだったので、とりあえずといった形で受け入れることにした。
「ありがとうございます」
リーディルは深くベルに頭を下げた後、どうしてこのようなことになっているかについて教えてくれた。
「事のはじまりは、その様子ですと粗方知っているようですね」
「はい。ムースの夢見の力で」
「ムース、懐かしい名前です。それなら話は早いですね。……実は私、本当に死んだ訳ではなかったんです。所謂仮死状態というものだったんです」
「仮死状態? どういうことですの?」
コーディリアが眉間に皺を寄せながら首を傾げる。
「ああなる前の日の夜、私は直接神から声をもらい、ベルさん、貴女とクライシスの関係をお聞きしました。そしてクライシスの前世の記憶が数週間前から戻っているにも関わらず、神からの頼みをずっと拒否をしていることも」
神からの頼みというのは、ベルが幸せになるためにサポートしてほしいというものだろう。
「そんなクライシスをどうにかしてほしい。そう神から頼まれ、私は頼みを聞くことにしました。それがクライシスのためにもなると思ったからです。しかし残念なことにあの日のことが起こってしまったのです」
リーディルは伏せていた目をベルに合わせ、当時のことを教えてくれた。
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