召喚術師はじめました

鈴野あや(鈴野葉桜)

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第二章

六十七話

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 集中を高めるために瞼を閉じ、すぅと息を吸う。

 戦闘で荒れてしまった森に、トトーの澄んだ歌声が広がった。

 クライシスの邪魔が入るのではないかと、ベルを除く召喚獣と召喚術師が臨戦態勢になる。しかしベルはそれを手で制して止めた。瞳から戦う意思が消えていたからだ。

 ずっと聞きたくなるようなトトーの歌声。しかしそれは惜しくも数分で終わりを告げ、トトーが目の前にいないはずの人物へ、まるでそこにいるかのように声をかけた。

「リーディル、僕の声が聞こえる? 聞こえたら返事をしてほしい」

「リーディル、だって?」

 リーディルの名前に耳ざとく反応をしたのは、他ならぬクライシスだった。まさか、とでも言うような表情でトトーが見ている方向へと視線を向ける。

「聞こえますよ、トトーくん」

 トトーの歌魔法によって運ばれてきたのは、紛れもないリーディルの声だった。

「よかった、成功して。さすがにこれだけ離れた距離でこの魔法を使うのは初めてだったから」

「私もこのような魔法、初めてです。でも、これは一体? クライシスとはどうなったのですか?」

 リーディルとの作戦に、トトーの魔法を使う発想はなかった。作戦会議をする際にこの方法を最初に思いついていればよかったのだが、こればかりは思い出せなかったのだから仕方がない。

「……っ、リーディル!!」

 トトーとの会話を実際に耳にして、ようやくリーディルが生きているのだと信じてくれたようだ。互いを好き合っていた者同士なのだ。声を聞き間違えるはずはない。忘れるはずがなかった。

「その声……クライシスなのですか?」

 クライシスが心から反省をするまで、リーディルの姿を見せることはできない。けれどトトーの魔法で声を届けることはできた。イチかバチかの賭けではあったが、成功したことにほっと胸を撫で下ろす。

 クライシスの濁った金の瞳が、リーディルの声を聞いた瞬間、微かに光を取り戻したように見えた。負の感情しか見たことがなかったクライシスの顔に、違う感情が宿る。ぼろぼろと瞳から涙を零していた。

「リーディル、リーディル、リーディル……リリー」

 何度も何度も、繰り返しリーディルの名前を呼ぶ。そして最後にリーディルの愛称を呼んでいた。ベルたちが見ていることは分かっていても、感情が隠しきれないのだろう。

いや、すでに隠すつもりはないのかもしれない。

 死んだと思っていた想い人が生きていたのだ。二度と聞けないと思っていた声が聞け、自分の名前を呼んでくれたのだ。どれほど嬉しいことなのか、ベルには計り知れないほど溢れる気持ちが胸中を渦巻いているのだろう。

 クライシスは、まるで子どものように鼻水を流し、泣きじゃくっていた。

 そんなクライシスにもらい泣きをしたのか、トトーの歌魔法で聞こえるリーディルの声も、どこか震えていた。

「ライ、貴方の声、久しぶりに聞くことができました」

「僕もだよ。でもリリーの声が聞くことができて、本当に嬉しい。もっと声を聞かせて」

 ベルたちに向けていた棘のある声とは違い、恋人に向ける柔らかな声音だった。

(いや、元々こっちが本当の声なんだろうな)

 ムースの夢見で見た仲睦まじい二人の姿を思い浮かべる。今のクライシスの姿が想像できないほど穏やかな雰囲気をまとっていた。今の姿へと捻じ曲げってしまったのは、日本での出来事や、神の存在、そしてリーディルの死が主な原因となる。その中でも大部分を占めているのは、やはりリーディルの死だ。それが解消された今、本来の性格へと戻っていくのは、自然なことなのだろう。

 このままリーディルとクライシスが再開できたら、問題は一気に解決するのだろうが、事はそんなにも簡単に進まない。

「声を聞かせるのは構いません。ですがその前に、ライ。貴方は罪を償い、反省をしなければなりません」

 それはリーディルが一番理解しているだろう。泣きたくなるような気持ちをぐっと堪えるように、クライシスへ言い聞かせる。

「罪? 反省?」

 首を傾げるクライシスは、自覚がないのだろう。クライシスにとって、今までの行動はリーディルのために行ってきたのもの。だから罪の意識はないし、何をどうやって反省したらいいのか分からないのだ。まるで言葉の意味が理解できない、子どもを見ているようだった。
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