召喚術師はじめました

鈴野あや(鈴野葉桜)

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第二章

七十一話

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「そろそろ帰るよ」

 クライシスはお尻についた土をパンパンと両手で払い、立ち上がった。

「もう?」

「うん。リーディルの傍にいたいんだ。会えなくても」

「そっか」

 いつ会えるのか。明日か、一週間後か、一年後かすら分からない。それでもこうして異界の湖へ帰るのは、会えるようになった時、すぐにリーディルと会うためなのだろう。

 そんなクライシスに野宿用のテントや布団を無言で提供をしたのは言うまでもない。

「ねぇ、クライシス」

「体は平気?」

 まるで明日の天気でも尋ねるように聞いた。クライシスがこの場を去るとき、いつもベルはこの言葉を投げかけていた。もちろんそれにはきちんとした理由がある。

 クライシスと和解をした後、ベルは尋ねたのだ。

 どうして龍脈の力を魔法として使うことができたのか、と。

 そしてクライシスは自嘲気味にこう答えた。

 ――僕は元召喚術師であり元輝人だよ? 役割を降ろされても、龍脈の関係は密なんだ。だから龍脈の力を使う際に僕自身が召喚獣だと龍脈に嘘の情報を与えた。もちろん代償はある。使えない魔法を使うんだから、体は使うたびにぼろぼろになっていく。それでもどうでもよかったんだ。リーディルに会えるなら。それにある程度の時間が経てば、体は回復する。便利だよね、この体はさ。

 召喚術師は不老ではあるが完全なる不死ではない。猛毒ごときでは死なないが、後継者が現れ、自然と同化することで生を終える。

 だからクライシスの体が回復することは理解できた。そして発想の転換で魔法を使っていたことも。この話を聞いたとき、教師の話をすぐ撤回しようとした。しかしクライシスがそれを断ったのだ。これが償いとなるのならば、と。

「いまのところはね」

「……そっか」

 もちろん体調のことも心配していた。けれどベルがもっと心配をしていたのは自然と同化してしまわないかということだった。

 元召喚術師であり元輝人でもあるクライシスがここまで生きて来られたのは奇跡に近い。リーディルに会いたいという一心がここまで命を繋ぎ止めてきたのだろう。だからベルは恐ろしかった。リーディルに会えず、そのまま自然と同化してしまうかもしれないという現実が起こるかもしれないと。確かめずにはいられなくなる。

 薄々クライシスも気づいているのだろう。ベルの確認を邪険にするようなことはなかった。

「また明日、報告に来るよ」

「待ってる」

 クライシスはベルに背を向け、手をひらりと振ると瞬間移動の魔法で異界の湖まで転移をした。

 そんな日々を過ごした一カ月後。

 いつものように庭で三人の召喚獣と日向ぼっこをしていると、頭の中に直接誰かの声が聞こえてきた。

《償いを認める》

 直観でそれが神の声だと分かった。男でも女でも、若くも歳をとってもいない、なんだか不思議な声。

「本当に!?」

 がばりと体勢を起こし、声に出す。

「ベル?」

「お嬢?」

「お嬢?」

 いきなりのベルの行動に、三人が不思議そうにベルを見つめていた。しかし今、その疑問に答える余裕はない。

《本当だ。お主は今、幸せか?》

「幸せだよ」

《そうか》

 迷いもなく答えれば、神は嬉しそうに呟いた。

「だからもう、クライシスを自由にしてあげて」

《承知した。己の召喚獣とも会えるよう戒めを解くとしよう。しかし召喚術師に戻すことはできない》

「それはクライシスだって承知のはず」

 召喚術師はすでに足りている。一人少なくても、一人多くても均衡を崩す。龍脈を身近に感じているからこそ、ベルはそれを一番に理解していた。

《理を外れたものに、この世界で生きることはできない》

「そんなっ、それってつまり……」

 しかし神が告げた言葉は想定外なもので、思わず言葉を失ってしまう。

《慌てるな。お主は少し勘違いをしておる》

「勘違い?」

《そうだ。要するに理から外れなければいいのだからな》

 そう言葉を言い残し、神が遠ざかっていく気配がする。

「それってどういう……」

 ベルの疑問に答える声はすでになく、疑問と不安だけが心に残った。
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