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第六話
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「二人とも、仕事終わりかい?」
「ええ、そうよ。リタさんも?」
「いや、私は今日は休みだったんでね。家で旦那とゆっくり過ごして、帰ってきたところさ。明日は早朝から仕事だし、庶民の家には湯船なんて贅沢ものはないからね」
湯を張るというのは、魔法が普及していても、贅沢な代物であることに違いはない。アネットの言葉にくすりと笑みを零しながら、他愛もない話に相槌を打つ。そして自然と話は仕事の話に変わっていった。
「それで、エマって今日は午後から鍛錬場の担当だったわよね? 騎士のいい筋肉見れた?」
「またアネットってば、そんなことばかり言うのだから。きちんと仕事してたわよ」
「だって、この仕事の特権じゃない。至近距離で騎士の筋肉を見れるのって」
アネットは無類の筋肉好きらしく、アネットと話をする時は必ずといっていいほど、筋肉の話題が出てくる。一度それほど好きなら、気に入った筋肉の持ち主とお付き合いをしてみればいいのではないかと言ったことがあったのだが、すぐに一蹴されてしまった。こんな可愛くない女に惚れられても困るだろうと。
エマから見ればアネットの性格はさっぱりとしていていいし、会話のテンポもよくて話しやすい。騎士たちがアネットと話していて楽しいと話をしているのを聞いたこともある。自覚がないのも困ったものだが、こればかりは自分で気づかない限りどうしようもないだろう。
「アネットはそうかもね。でもエマは違うんだろう? 何かあったんだろう?」
「え、どうして?」
何の脈略もなく、リターニャにいきなり何かあったことを見抜かれ、ぎくりと体が固まる。
「顔にはっきりと書いてあるからさ。だいたいアネットも、それを見てエマをお風呂に誘ったんだろう?」
「あ、ばれました?」
しかもアネットにまで見抜かれていたらしい。そこまで顔に出ていたのかと、両頬を手の平で覆う。
「エマは顔に出やすいのよ。それに私はエマの先輩でもあるけれど、一番の親友であることも自負しているの。それくらい気づいて当然よ。ほら、話しなさいよ。ちょうどここには私たちしかいないし、頼りになるリタさんもいることだし」
「そうだよ。力になれるかは分からないけど、話した方が多少は気が楽になるだろう?」
「……うん」
治癒魔法師になる前のエマは、この国の王太子、レオナルドの婚約者だった。それは誰もが知る有名な話だ。そして魔力過多症によってエマが身を引いたことも、妹であるミアカーナが次の婚約者候補になったことも合わせて有名な話。仲良くなるにつれて、自然とアネットやリターニャには自身の体のことを話していた。だからエマが未だに抱いているこの感情も、アネットとリターニャは知っている。
エマはぽつり、ぽつりと鍛錬場でレオナルドと五年ぶりに再会した話や、その時の感情を全て話した。
全てを聞き終えた二人は、それぞれ複雑な表情をしていた。
「互いに想い合っているのに、結ばれないことほど悲しい話ってないわよね」
「それに、隣には現婚約者候補の妹さんが仲良さげにいたんだろう? 自分から身を引いたと言っても、二人の姿を見るのも辛かっただろうに」
「でも、私が決めたことだから。私が勝手に悲しむことも辛く思うことも間違っているんじゃないかって……そう思ってしまって。それに私はレオナルド殿下に婚約者候補がいなくても、もうレオナルド殿下の隣に立つことはできませんから」
どんなに頑張っても身ごもる可能性がほとんどない自身のお腹に手を当てた。
魔力過多症によって失ったのは、一房の髪と瞳の色だけではない。魔力過多症を治癒魔法を自身にかけるという方法で克服したエマは、生きながらえることに成功をした。しかしそれは、余命を過ぎても生きられるだけであって、決して余命の呪縛から離れられたわけではない。エマの体は今も魔力過多症によっていつ命が終わるかわからない不安定な体のままなのだから。その上、エマの体は魔力過多症によって、女性にとって一番大切な子供を産む機能を失ってしまった。これは決定的な欠陥といえるだろう。
笑みを浮かべてみるが、その顔はひどいものだったに違いない。そんなエマの体をアネットがいきなり抱きしめてきた。
「ア、アネット?」
抱きしめてくると同時に、水しぶきが上がる。顔にお湯を被ったリターニャは顔を両手で顔を拭いながら、ため息を吐いていた。
「エマ、そういう負の方向に気持ちを持っていくのは良くないわ。たしかにレオナルド殿下はリアム国の次期国王様になられるお方だから、世継ぎを産めて教養のある女性を妃に選ばなくてはならないわ」
「わかっているわ……」
「だからそうやってすぐに負のオーラを背負わないの。ねぇ、エマ。あなたが今もずっと変わらずレオナルド殿下を想っていることは私もリタさんも知っているわ。恋する気持ちを止めることなんて、本人ですら止めることはできない。だからね、エマ。私はあなたがその気持ちを我慢する必要なんて、ないと思うのよ」
「どうして? この気持ちは決して向けてはならないものなのに」
「気持ちを抑えるだけ、エマが辛くなるだけでしょう? 私はエマの親友だもの。エマには幸せになってほしいから。レオナルド殿下と結ばれる運命ではなくても、レオナルド殿下を想う心はエマのものよ。そんなエマの心を縛る人なんて誰もいないでしょう?」
アネットの言葉に幾分か心が軽くなった気がする。
「アネットの言う通りさ。私も今の旦那と結婚する前は、好きな人がいたよ。まあ失恋したけれどね。それをいつか乗り越えられた時、エマにも新しい好きな人が必ず現れるさ。私のようにね。だからその時まで、その恋心を大事にすればいい」
「アネット……、リタさん……」
レオナルドをまだ好きでいてもいい。そんな二人の言葉に瞳の奥が熱くなる。いつレオナルドを想う恋心が思い出になるかは、エマにもわからない。それでもいつかレオナルドとミアカーナを心の底から応援できるようになれたらいいなと思った。
「ええ、そうよ。リタさんも?」
「いや、私は今日は休みだったんでね。家で旦那とゆっくり過ごして、帰ってきたところさ。明日は早朝から仕事だし、庶民の家には湯船なんて贅沢ものはないからね」
湯を張るというのは、魔法が普及していても、贅沢な代物であることに違いはない。アネットの言葉にくすりと笑みを零しながら、他愛もない話に相槌を打つ。そして自然と話は仕事の話に変わっていった。
「それで、エマって今日は午後から鍛錬場の担当だったわよね? 騎士のいい筋肉見れた?」
「またアネットってば、そんなことばかり言うのだから。きちんと仕事してたわよ」
「だって、この仕事の特権じゃない。至近距離で騎士の筋肉を見れるのって」
アネットは無類の筋肉好きらしく、アネットと話をする時は必ずといっていいほど、筋肉の話題が出てくる。一度それほど好きなら、気に入った筋肉の持ち主とお付き合いをしてみればいいのではないかと言ったことがあったのだが、すぐに一蹴されてしまった。こんな可愛くない女に惚れられても困るだろうと。
エマから見ればアネットの性格はさっぱりとしていていいし、会話のテンポもよくて話しやすい。騎士たちがアネットと話していて楽しいと話をしているのを聞いたこともある。自覚がないのも困ったものだが、こればかりは自分で気づかない限りどうしようもないだろう。
「アネットはそうかもね。でもエマは違うんだろう? 何かあったんだろう?」
「え、どうして?」
何の脈略もなく、リターニャにいきなり何かあったことを見抜かれ、ぎくりと体が固まる。
「顔にはっきりと書いてあるからさ。だいたいアネットも、それを見てエマをお風呂に誘ったんだろう?」
「あ、ばれました?」
しかもアネットにまで見抜かれていたらしい。そこまで顔に出ていたのかと、両頬を手の平で覆う。
「エマは顔に出やすいのよ。それに私はエマの先輩でもあるけれど、一番の親友であることも自負しているの。それくらい気づいて当然よ。ほら、話しなさいよ。ちょうどここには私たちしかいないし、頼りになるリタさんもいることだし」
「そうだよ。力になれるかは分からないけど、話した方が多少は気が楽になるだろう?」
「……うん」
治癒魔法師になる前のエマは、この国の王太子、レオナルドの婚約者だった。それは誰もが知る有名な話だ。そして魔力過多症によってエマが身を引いたことも、妹であるミアカーナが次の婚約者候補になったことも合わせて有名な話。仲良くなるにつれて、自然とアネットやリターニャには自身の体のことを話していた。だからエマが未だに抱いているこの感情も、アネットとリターニャは知っている。
エマはぽつり、ぽつりと鍛錬場でレオナルドと五年ぶりに再会した話や、その時の感情を全て話した。
全てを聞き終えた二人は、それぞれ複雑な表情をしていた。
「互いに想い合っているのに、結ばれないことほど悲しい話ってないわよね」
「それに、隣には現婚約者候補の妹さんが仲良さげにいたんだろう? 自分から身を引いたと言っても、二人の姿を見るのも辛かっただろうに」
「でも、私が決めたことだから。私が勝手に悲しむことも辛く思うことも間違っているんじゃないかって……そう思ってしまって。それに私はレオナルド殿下に婚約者候補がいなくても、もうレオナルド殿下の隣に立つことはできませんから」
どんなに頑張っても身ごもる可能性がほとんどない自身のお腹に手を当てた。
魔力過多症によって失ったのは、一房の髪と瞳の色だけではない。魔力過多症を治癒魔法を自身にかけるという方法で克服したエマは、生きながらえることに成功をした。しかしそれは、余命を過ぎても生きられるだけであって、決して余命の呪縛から離れられたわけではない。エマの体は今も魔力過多症によっていつ命が終わるかわからない不安定な体のままなのだから。その上、エマの体は魔力過多症によって、女性にとって一番大切な子供を産む機能を失ってしまった。これは決定的な欠陥といえるだろう。
笑みを浮かべてみるが、その顔はひどいものだったに違いない。そんなエマの体をアネットがいきなり抱きしめてきた。
「ア、アネット?」
抱きしめてくると同時に、水しぶきが上がる。顔にお湯を被ったリターニャは顔を両手で顔を拭いながら、ため息を吐いていた。
「エマ、そういう負の方向に気持ちを持っていくのは良くないわ。たしかにレオナルド殿下はリアム国の次期国王様になられるお方だから、世継ぎを産めて教養のある女性を妃に選ばなくてはならないわ」
「わかっているわ……」
「だからそうやってすぐに負のオーラを背負わないの。ねぇ、エマ。あなたが今もずっと変わらずレオナルド殿下を想っていることは私もリタさんも知っているわ。恋する気持ちを止めることなんて、本人ですら止めることはできない。だからね、エマ。私はあなたがその気持ちを我慢する必要なんて、ないと思うのよ」
「どうして? この気持ちは決して向けてはならないものなのに」
「気持ちを抑えるだけ、エマが辛くなるだけでしょう? 私はエマの親友だもの。エマには幸せになってほしいから。レオナルド殿下と結ばれる運命ではなくても、レオナルド殿下を想う心はエマのものよ。そんなエマの心を縛る人なんて誰もいないでしょう?」
アネットの言葉に幾分か心が軽くなった気がする。
「アネットの言う通りさ。私も今の旦那と結婚する前は、好きな人がいたよ。まあ失恋したけれどね。それをいつか乗り越えられた時、エマにも新しい好きな人が必ず現れるさ。私のようにね。だからその時まで、その恋心を大事にすればいい」
「アネット……、リタさん……」
レオナルドをまだ好きでいてもいい。そんな二人の言葉に瞳の奥が熱くなる。いつレオナルドを想う恋心が思い出になるかは、エマにもわからない。それでもいつかレオナルドとミアカーナを心の底から応援できるようになれたらいいなと思った。
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