余命七日の治癒魔法師

鈴野あや(鈴野葉桜)

文字の大きさ
13 / 41

第十二話

しおりを挟む
 自由な時間は今日を合わせて二日。エマはロゼッタの願いを叶えるべく、久しぶりにドレスをまとっていた。久しぶりに纏うドレスは、装飾があまり多くないものを選んだが、それでも治癒魔法師の制服と比べて重い。ドレスの重さに懐かしさを感じつつ、姿見でドレスを確認する。エマが治癒魔法師として働いている間、ロゼッタはエマがいつ公爵令嬢に戻りたいと言ってもいいようにと、新しいドレスを毎年数着ずつ新調していたらしい。見慣れないたくさんのドレスが、衣装部屋に足を踏み入れたエマを迎えてくれた。

 元々戻るつもりはなかったが、ロゼッタなりの気遣いに頬を緩まさずにはいられない。

 今日エマが身に纏っているのも、初めて身に着けたドレスだった。

 春という季節柄に合わせて薄緑色をチョイスしてみたが、大人しいデザインなのに地味に見えない、しっかりと計算された素晴らしいドレスだ。

 ドレスを着たり、髪を結ったり、化粧をしたりと、使用人に手伝ってもらいながら令嬢時代と同じことをしているだけなのに、それだけでどこか疲れてしまう。

(治癒魔法師の時はぱっと制服着て、髪を梳かして、王城にいても見苦しくないメイクをして終わりだったものね)

 そんなエマの疲れを予め察していたのか、準備をし終わると、部屋の外で待機していたウィリアムがハーブティーを持って部屋の中へ入ってきた。

「さすが、ウィリーね」

「お嬢様のことを誰よりも理解していると自負しておりますから」

「いつも助かるわ」

「恐れ入ります」

 手渡されたハーブティーは、温度もちょうどよく飲みやすい。ロゼッタと出かける時間まで余裕があったので、堪能するように時間をかけて少しずつ味わう。

 飲み終わったところで、化粧道具の中から口紅を取り出し、唇に塗った。はみ出していないか、綺麗に塗れているかを確認し、ウィリアムとともに母親との待ち合わせ場所である玄関まで歩いていく。

 玄関先にはすでに馬車が用意されていて、すでにロゼッタは乗り込んでいるようだった。御者に中へどうぞと言われ、ウィリアムの手を借りて乗り込む。

 するとそこにはロゼッタ以外にも先客がいた。

「お父様? どうしてこちらに?」

 ロゼッタの隣には、現フォルモーサ公爵である父、ハリーの姿があった。亜麻色の髪をきっちりと整えており、瞳は数年前にエマが無くしてしまった青色だ。魔力過多症にならなければ、エマが持っていた色合いである。

 驚きながら尋ねれば、悪戯が成功したかのように朗らかに笑っていた。その姿はまるで少年のようで、四十代の男性とは到底思えない無邪気さがあった。

 両親ともに四十代なのだが、その二人の姿は老いを感じさせることがなく、言われなければ三人の子持ちだと気づかないほどに若々しい。現に娘であるエマも、己の両親ながら見た目二十代後半から三十代前半よね、と思っているくらいなのだから。

「とりあえず、席に座りなさい。話はそれからだ」

「わかりましたわ」

 ハリーの言うことも一理あるので、素直に頷く。

 ウィリアムの手によって、扉が閉められ、ほどなくして馬車は蹄の音をカポカポと鳴らしながら出発した。

 馬車の中で揺られながらも、エマの視線は一直線にハリーへと向いていた。

「そんなに熱く見つめるな。照れるだろう」

「冗談はよしてください、お父様」

 全く照れておらず、むしろ穏やかに笑うハリーに眉を寄せながら冷たい視線を投げてみても、全く動じる気配はなかった。さすがはこの国の宰相なだけはある。だが、宰相としては優秀であっても、冗談に関しては全く才能がないようだ。言動と表情が全く合っていない。

「それでお父様、なぜこちらの馬車に? 本日は仕事だったのでは?」

 ハリーの仕事を把握しているわけではないが、ロゼッタからハリーが休みだという話は聞いていない。それに昨晩の夕食でも、ハリーの口から一切休みだと出ていなかったはずだ。

「本当はな。だが休むことにした」

「…………はい? 今なんと」

「だから、休むことにしたんだ。せっかくエマが家に三日も滞在するんだ。せっかくなら、その内の一日くらい一緒に過ごしたいと思うじゃないか」

「そうですか……」

 その言動を聞いて目を丸くするものの、そうだこれがお父様だった、と思い出す。

たまに帰っても、ハリーと顔を合わせるのは夕食の時くらい。仕事が忙しい時は顔を合わせることができない日だってある。だからハリーのこうした驚くような行動に遭遇したのは、魔力過多症にかかる前だったと記憶している。

「ああ、もちろん何も心配はいらない。仕事は昨日のうちに部下たちに粗方割り振ってあるからな。エマの侍従のウィリアムほどではないが、そこそこ優秀な部下たちだ。私が一日いなくとも、どうにか出来る腕は持ち合わせている」

 ハリーの言葉に、王城で働くハリーの部下たちを思い、心の中で手を合わせた。今頃王城では、ある意味戦場になっていることだろう。

「エマ、今日は久しぶりに親子水入らずで楽しもうじゃないか」

 夕食の席でもエマのことを気にしていたのでてっきり、ハリーはエマに魔物討伐の話を振るのかと思っていた。しかし今日はなぜかそんな様子は微塵も感じさせなかった。

 しかし触れられないのならば、それでもいいとエマは思った。ハリーの言う通り、せっかく親子三人で王都の街に足を向けたのだ。つまらない話よりも、楽しいことをして笑いたい。魔力過多症にかかったせいで、毎日暗い顔をさせってしまった分、親孝行をしたかった。

 だからハリーの意見には賛成で、ハリーの優秀な部下には悪いと思いつつも、今日をめいいっぱい楽しむことを決めた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

助けた騎士団になつかれました。

藤 実花
恋愛
冥府を支配する国、アルハガウンの王女シルベーヌは、地上の大国ラシュカとの約束で王の妃になるためにやって来た。 しかし、シルベーヌを見た王は、彼女を『醜女』と呼び、結婚を保留して古い離宮へ行けと言う。 一方ある事情を抱えたシルベーヌは、鮮やかで美しい地上に残りたいと思う願いのため、異議を唱えず離宮へと旅立つが……。 ☆本編完結しました。ありがとうございました!☆ 番外編①~2020.03.11 終了

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

ブスすぎて嫁の貰い手がないから閨勤侍女になれと言われたので縁を切ります、完全に!完全縁切りの先にあったのは孤独ではなくて…

ハートリオ
恋愛
ルフスは結婚が決まった従姉の閨勤侍女になるよう父親に命令されたのをきっかけに父に無視され冷遇されて来た日々を終わらせようとブラコン父と完全に縁を切る決意する。 一方、従姉の結婚相手はアルゲンテウス辺境伯とのことだが、実は手違いがあって辺境伯が結婚したいのはルフス。 そんなこんなの異世界ファンタジーラブです。 読んでいただけると嬉しいです。

婚約破棄された悪役令嬢の心の声が面白かったので求婚してみた

夕景あき
恋愛
人の心の声が聞こえるカイルは、孤独の闇に閉じこもっていた。唯一の救いは、心の声まで真摯で温かい異母兄、第一王子の存在だけだった。 そんなカイルが、外交(婚約者探し)という名目で三国交流会へ向かうと、目の前で隣国の第二王子による公開婚約破棄が発生する。 婚約破棄された令嬢グレースは、表情一つ変えない高潔な令嬢。しかし、カイルがその心の声を聞き取ると、思いも寄らない内容が聞こえてきたのだった。

令嬢失格な私なので

あんど もあ
ファンタジー
貴族の令息令嬢が学ぶ王都学園。 そこのカースト最下位と思われている寮生の中でも、最も令嬢らしからぬディアナ。 しかしその正体は……。

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

社畜の私は異世界でも社畜精神が残ったままだった

木嶋うめ香
恋愛
貴族学園の小さな部屋で、私は一人書類仕事に追われていた。 今日も寮には帰れそうにない、机の上には大量の未処理の書類。 せめて空腹を紛らわそうと、ビスケットを鞄から取り出し水を汲んでこようとして立ち上がった途端、視界が暗くなり倒れた。 床に倒れた反動で、頭を床にぶつける。 その衝撃で思い出した、私は前世ブラック企業に勤めていた社畜で、二十三連勤サービス残業付きの末、体調を崩し亡くなったアラサー営業職だった。 他サイトでもアップしています。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

処理中です...