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第三話
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翌日。リディアリアが目を覚ますと、昨日は閉められていた厚手のカーテンが開けられ、薄手のカーテン越しに、太陽の柔らかな日差しが部屋の中に入ってきていた。季節は春頃なのか、少しだけ開けられた窓から、風が花のいい匂いを纏ってやってくる。
太陽の日差しも、花の匂いも、頬を撫でる風さえも、全てが新鮮で、ベッドから起き上がり、その上で感じていると、扉の外から名前を呼ばれた。
「どうぞ、起きてるよ」
入室の許可を出し、相手が入ってくるのを待つと、そこに現れたのは狼の耳と尻尾を生やした細見のウルフと呼ばれる種族の女性だった。金色の髪は肩で切り揃えてあり、太陽の光を受けてさらに輝いてみえた。リディアリアの姿を見るなり、尻尾を大きく揺らし、魔族の特徴でもある赤の瞳を潤ませていた。
「久しぶり、だね。ルナ」
「……はいっ。お目覚めを、ずっとお待ちしておりました」
最上位の礼をとったルナの肩は震えていた。
「ごめん、心配させて」
「リディアリア様が謝ることではございません!」
「うん、でもごめんね」
ライトニングに魔法をかけてもらったとはいえ、体が動かしにくいのは変わらない。でもどうしても、扉の傍から動かないルナを抱きしめてやりたかった。
ベッドから足を出し、一歩、一歩と慎重に歩いていく。しかし久しぶりに足を使ったせいで、思うようにバランスをとることができず、すぐに躓いてしまった。
咄嗟に手を前に出そうとするが、体は動いてくれず、顔面から床へ落ちてしまうこととなった。訪れる痛みに耐えようと瞼を閉じるが、痛みはいつまで経ってもやってはこなかった。代わりに柔らかな存在が、リディアリアを包み込んだ。
「ご無事ですか?」
顔を上げると、そこにいたのはルナだった。ウルフの身体能力は魔法を使っていないときでも、他の魔族より圧倒的に優れている。そのおかげでリディアリアも助かったのだろう。
「ありがとう、助かったよ。……でもさ、ちょっと私思ったんだけど、十年前よりこの胸大きくなってない? なんでサキュバスの私よりウルフのルナの方が大きいのさ! これ、明らかに不公平ってもんじゃない!?」
ルナに礼を言いつつ、頬にぶつかるルナの胸に不満をぶつける。
リディアリアのささやかにあった胸は幼子になったせいで、絶壁になり、今や無いに等しい。昨日ディティラスから魔力をもらったおかげで、一時的には元に姿に戻ることができたものの、朝になったらまた幼子の姿に戻っていた。ディティラスからもらった魔力が、魔法を使わずに微量のみを自然ともらった形だったので、すぐに使い果たしてしまったのだろう。
ルナの胸を小さくなってしまった手で、遠慮なく揉んでいるとルナにクスクスと笑われてしまった。
「相変わらず変わりませんね、リディアリア様」
「当たり前でしょう。私、十年眠っていただけだもん。まあ姿はこんなんになっちゃったけどね」
「可愛らしいですよ」
「いやいや、私サキュバスだから。美しいとか、色っぽいとかいわれるのは嬉しいけど、可愛いは嬉しくないからね?」
「でも、可愛らしいです」
リディアリアを抱きしめたまま、ルナは頬を緩めていた。その頬には一筋の涙が零れており、それを小さな手で拭いとる。そんな姿を見ていたら、可愛いでもいいか、と妥協してしまう自分がいた。溜息を一つ小さくついて、口元に笑みを浮かべる。
「まあルナがそういうなら、とりあえずそれでもいいや。……ねぇルナ、私をまだ主と認めてくれている?」
「もちろんです。本日こちらに馳せ参じたのも、主従の誓いを再度行わせていただく為ですので」
「そっか。じゃあ今日からまたよろしくお願いするよ」
「こちらこそ、よろしくお願いいたします。では、再契約の方を行いたいので、このままソファまで運んでもよろしいでしょうか?」
「うん、お願い」
意地を張って一人で歩けるというよりは、ルナに頼んで運んでもらった方がいい。そう判断したリディアリアは、お姫様抱っこをしいてもらう形で、ソファまで運んでもらうことにした。
部屋に置いてある三人掛けのソファに座らされ、その足元にルナが自然な動きで跪いた。
「我、リディアリアを主とする契約を願う」
「我、ルナを従とする契約を願う」
「《主従》」
この魔法はウルフの種族魔法で、生涯仕えると誓った相手と絆を結ぶ魔法だ。メリットは、契約をすることで自身の能力が全て向上するというところだ。つまり、ウルフの優れている身体能力がさらに向上することで、護衛役などにさらにピッタリになるということである。
しかしデメリットもしっかりと存在していて、魔法の更新を一年に一回しなければならないということと、主が死なない限り、違う者を主として契約を結ぶことができないといった点だ。
今回はリディアリアが十年眠っていたせいで、契約の更新ができておらず、また死んでもいなかったので別の主を選ぶこともできず、ルナの身体能力の向上が十年間できずにいた。
だからこうして確認したうえで、再契約を結ぶことになったのである。
魔法による契約は滞りなく終わり、契約の証としてルナの首には魔法による模様が現れ、リディアリアの右手の甲にも同じような模様が現れた。
これでルナの能力は最大限に上がったはずだ。
「ルナ、どう?」
「体が軽く感じます。これでリディアリア様をしっかりと守れます」
十年前と同じく、侍女服をまとったルナは顔を上げて笑った。
「これから面倒かけると思うけど、よろしくね」
「はい!!」
太陽の日差しも、花の匂いも、頬を撫でる風さえも、全てが新鮮で、ベッドから起き上がり、その上で感じていると、扉の外から名前を呼ばれた。
「どうぞ、起きてるよ」
入室の許可を出し、相手が入ってくるのを待つと、そこに現れたのは狼の耳と尻尾を生やした細見のウルフと呼ばれる種族の女性だった。金色の髪は肩で切り揃えてあり、太陽の光を受けてさらに輝いてみえた。リディアリアの姿を見るなり、尻尾を大きく揺らし、魔族の特徴でもある赤の瞳を潤ませていた。
「久しぶり、だね。ルナ」
「……はいっ。お目覚めを、ずっとお待ちしておりました」
最上位の礼をとったルナの肩は震えていた。
「ごめん、心配させて」
「リディアリア様が謝ることではございません!」
「うん、でもごめんね」
ライトニングに魔法をかけてもらったとはいえ、体が動かしにくいのは変わらない。でもどうしても、扉の傍から動かないルナを抱きしめてやりたかった。
ベッドから足を出し、一歩、一歩と慎重に歩いていく。しかし久しぶりに足を使ったせいで、思うようにバランスをとることができず、すぐに躓いてしまった。
咄嗟に手を前に出そうとするが、体は動いてくれず、顔面から床へ落ちてしまうこととなった。訪れる痛みに耐えようと瞼を閉じるが、痛みはいつまで経ってもやってはこなかった。代わりに柔らかな存在が、リディアリアを包み込んだ。
「ご無事ですか?」
顔を上げると、そこにいたのはルナだった。ウルフの身体能力は魔法を使っていないときでも、他の魔族より圧倒的に優れている。そのおかげでリディアリアも助かったのだろう。
「ありがとう、助かったよ。……でもさ、ちょっと私思ったんだけど、十年前よりこの胸大きくなってない? なんでサキュバスの私よりウルフのルナの方が大きいのさ! これ、明らかに不公平ってもんじゃない!?」
ルナに礼を言いつつ、頬にぶつかるルナの胸に不満をぶつける。
リディアリアのささやかにあった胸は幼子になったせいで、絶壁になり、今や無いに等しい。昨日ディティラスから魔力をもらったおかげで、一時的には元に姿に戻ることができたものの、朝になったらまた幼子の姿に戻っていた。ディティラスからもらった魔力が、魔法を使わずに微量のみを自然ともらった形だったので、すぐに使い果たしてしまったのだろう。
ルナの胸を小さくなってしまった手で、遠慮なく揉んでいるとルナにクスクスと笑われてしまった。
「相変わらず変わりませんね、リディアリア様」
「当たり前でしょう。私、十年眠っていただけだもん。まあ姿はこんなんになっちゃったけどね」
「可愛らしいですよ」
「いやいや、私サキュバスだから。美しいとか、色っぽいとかいわれるのは嬉しいけど、可愛いは嬉しくないからね?」
「でも、可愛らしいです」
リディアリアを抱きしめたまま、ルナは頬を緩めていた。その頬には一筋の涙が零れており、それを小さな手で拭いとる。そんな姿を見ていたら、可愛いでもいいか、と妥協してしまう自分がいた。溜息を一つ小さくついて、口元に笑みを浮かべる。
「まあルナがそういうなら、とりあえずそれでもいいや。……ねぇルナ、私をまだ主と認めてくれている?」
「もちろんです。本日こちらに馳せ参じたのも、主従の誓いを再度行わせていただく為ですので」
「そっか。じゃあ今日からまたよろしくお願いするよ」
「こちらこそ、よろしくお願いいたします。では、再契約の方を行いたいので、このままソファまで運んでもよろしいでしょうか?」
「うん、お願い」
意地を張って一人で歩けるというよりは、ルナに頼んで運んでもらった方がいい。そう判断したリディアリアは、お姫様抱っこをしいてもらう形で、ソファまで運んでもらうことにした。
部屋に置いてある三人掛けのソファに座らされ、その足元にルナが自然な動きで跪いた。
「我、リディアリアを主とする契約を願う」
「我、ルナを従とする契約を願う」
「《主従》」
この魔法はウルフの種族魔法で、生涯仕えると誓った相手と絆を結ぶ魔法だ。メリットは、契約をすることで自身の能力が全て向上するというところだ。つまり、ウルフの優れている身体能力がさらに向上することで、護衛役などにさらにピッタリになるということである。
しかしデメリットもしっかりと存在していて、魔法の更新を一年に一回しなければならないということと、主が死なない限り、違う者を主として契約を結ぶことができないといった点だ。
今回はリディアリアが十年眠っていたせいで、契約の更新ができておらず、また死んでもいなかったので別の主を選ぶこともできず、ルナの身体能力の向上が十年間できずにいた。
だからこうして確認したうえで、再契約を結ぶことになったのである。
魔法による契約は滞りなく終わり、契約の証としてルナの首には魔法による模様が現れ、リディアリアの右手の甲にも同じような模様が現れた。
これでルナの能力は最大限に上がったはずだ。
「ルナ、どう?」
「体が軽く感じます。これでリディアリア様をしっかりと守れます」
十年前と同じく、侍女服をまとったルナは顔を上げて笑った。
「これから面倒かけると思うけど、よろしくね」
「はい!!」
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