縁仁【ENZIN】 捜査一課 対凶悪異常犯罪交渉係

鬼霧宗作

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事例1 九十九人殺しと孤高の殺人蜂【事件篇】

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 できるだけ二人の不安を取り除いてやる。自分がここを初めて訪れた時は、誰もしてくれなかったことをやってやりたい。慣れてしまったものの、倉科もここを初めて訪れた時があるわけで、その時に感じた不安感は今でも忘れない。

「中嶋ぁ! いるんだろう? 話は通っていると思うから案内してくれ!」

 表情ひとつ変えない刑務官のことは諦めて、倉科は刑務官が詰めている部屋の前で中嶋を呼んだ。別に案内してくれれば中嶋でなくとも良いのであるが、二人の不安を少しでも和らげるには、中嶋のようなキャラクターが最適であると考えた。他の刑務官にもう少し愛想があれば、こんな気遣いをする必要もないのに。

「そんな大きな声で呼ばれなくても分かりますって。こっちに来るなんていきなり連絡があったもんだから待ってたんですよ。法務大臣直々のお達しの上、他の連中は九十九殺しと顔を合わせたがらないときたもんです――。全く、損な役回りですよ」

 倉科が呼びかけてしばらくしない内に、中嶋が詰め所から出てきた。尾崎と縁のほうを一瞥いちべつすると、実にフレンドリーな様子で二人のほうに歩み寄った。

「やぁやぁ、お二人さんが噂の【ハンテン】候補ですか。いやぁ、こちらの方は体を随分と鍛えていらっしゃるようで、心強い。それに、キャリア出身だからと身構えていましたが、こんなにお綺麗な方がおいでになるなんて――。このしみったれた地下空間に咲いた一輪の花ですよ。いや、仕事に対するモチベーションが上がります」

 砕けた調子で尾崎と縁に握手を求める中嶋。そんな中嶋に圧倒されるかのように、握手を返す二人。少しでも気さくなやつをと気を利かせたつもりだが、人選を失敗したかもしれない。普段はここまでハイテンションではないのだが――。やはり縁がいるからか。

「あの――ハンテンってなんですか?」

 縁の問いかけに、中嶋は得意げな表情を浮かべた。どうやら、二人がすでに0.5係に配属されるものだと思って話をしているらしい。まずいと思った時には、中嶋のマシンガントークが止まらなくなっていた。

「おや、ご存知ない? てっきり倉科さんから聞いていると思ったのに――。あのですね、ハンテンというのは警察組織の中に秘密裏に設けられた係の俗称でしてね。普段は0.5係と呼ばれていますが、0.5は1の半分で、小数点がついているでしょう? ですから、いつしかハンテンと呼ばれるように……」

「あー、中嶋。今日はあれだ。こいつらは体験入店みたいなもんだから、余計なことは喋らんでいい」
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