縁仁【ENZIN】 捜査一課 対凶悪異常犯罪交渉係

鬼霧宗作

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事例1 九十九人殺しと孤高の殺人蜂【事件篇】

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 縁の言葉に、倉科が頭の中で描いていた地図が修正される。沿線に沿った形で発生している連続通り魔殺人事件。しかしながら、最初の殺人だけは、駅を中心とした圏内で起きたのではなく、犯人の住居地を中心とした円の中で発生している。それが、駅から半径2キロメールという範囲に重なったのであろう。すなわち、最初の事件だけは駅を経由せずに発生している。では、どうして最初の事件だけ駅を経由していないのか。犯人の移動手段は電車である可能性が高いにも関わらずだ。――その答えはもはや言うまでもないだろう。

「普段の人間の行動範囲ってもんは、本人が思っているほど広くは無ぇ。しかも、犯人が車という移動手段を持っていなければ、なおさらだ。よって、相楽駅を最寄りとした地域を中心に調べていけば、犯人に繋がる情報が手に入るかもしれねぇ。それと――」

 坂田はそこで言葉を区切ると、倉科達の顔を見回してから続ける。その表情には侮蔑ぶべつというべきか、どこか人を見下したものが含まれていた。

「もう一度、被害者を徹底的に洗い直せ。犯人が被害者を選定し、入念な犯行計画を練るためには、被害者の個人的な情報が必要になる。せめて、どこに住んでいるのかくらいは分からないと、下準備もへったくれも無ぇ。よって、必ずどこかで犯人は被害者の個人情報を手に入れているはずだ。どんなに些細なものであったとしても、被害者には何かしらの共通点がある。犯人が個人情報を手に入れることができる環境に身を置いている――もしくは、身を置いていたことがあるとかな。警察は馬鹿の集まりだから、どっかに見落としがあるんじゃねぇか?」

 ここまで堂々と馬鹿にされると、逆に清々しい。まぁ、警察だって人間の集まりだ。人間である以上、見落としているところもあるだろう。しかも組織立って動いているがゆえに、個人の主張よりも集団としての意見が優先されるような世界だ。仮に見落としに気付いている捜査員がいたとしても、立場が低ければ民意や総意には勝てない。刑事ドラマのようにスタンドプレーをすることなど、現実ではあり得ないのだ。倉科だって0.5係という役割がなければ、捜査本部の総意に従うことしかできないであろう。なんだかんだいって多数決――少数よりも多数の意見が強いのは、協調性を重んじる日本の良き部分であり、また悪しき習慣でもある。

「――分かった。その意見を参考に俺達も動いてみよう。ただ、全ての意見がまかり通るってわけじゃないと思っていてくれ。警察組織っての面倒でな。少し時間がかかるかもしれない」
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