縁仁【ENZIN】 捜査一課 対凶悪異常犯罪交渉係

鬼霧宗作

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事例1 九十九人殺しと孤高の殺人蜂【エピローグ】

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「車の免許も、危ないから――という理由だけでとらせなかったらしい。なんというか、あんな母親と一緒にいたら、窮屈で仕方がなかったと思うんだがな」

 歓楽街の中を、ただ【人妻ヘルス】の看板を目印に進む。夜がメインの街であるため、真昼間でも人の気配はまばらで、夜になると人が行き交う通りも閑散かんさんとしていた。この足元には、誰にも知られぬ監獄が存在していて、死刑されたはずの元死刑囚が収監されている。改めて現実離れをした話であるし、馬鹿げた話だとも思う。

「なんでもかんでも母親に支配されていたんすね。愛情を注ぐことは結構なことっすけど、縛り付けるような愛情は愛情じゃねぇっす。愛情という名の支配でしかねぇっすから」

 尾崎が呟くと倉科が苦笑いを浮かべ「珍しくまともなことを言うじゃないか」と漏らす。尾崎は「自分はいつでもまともっす!」と反論するが、残念なことに説得力はなかった。

 ようやく【人妻ヘルス】の看板の前へとやってくると、照らし合わせたかのように周囲を確認する。ここに入るところを他人に見られても、まさか地下に監獄が広がっているなんて思う人間はいないのだろうが、あまりにも倉科が周囲を警戒するものだから、それが自然と感染うつってしまったようだ。

 辺りに人がいないことを確認すると、一目散に扉へと駆け込む。薄暗く、じめりとした階段が縁達を出迎えた。

「さて、アンダープリズンに入る前に、二人に話しておかなきゃならないことがある。大事な大事な話だ」

 階段を降りると、エレベーターに乗る直前で振り返る倉科。大事な話――なんて言われると、嫌でも身構えてしまう。勝手な行動をとったことによる処分が、まさかこんなところで下されるのであろうか。

「殺人蜂は無事に逮捕することができた。ただし、原因はいまだに分からないが、殺人蜂は事情聴取を受けられないほどに精神を磨耗まもうし、重傷を負っている状態だ。幸いなことに広瀬が撮影した動画のおかげで、証拠は充分だ。本人から話が聞けなくとも送検はできるだろう。広瀬の動画では、殺人蜂に襲われる山本の姿が映っていて、刑事うんぬんは関係なく、山本もまた殺人蜂のターゲットにされたものだと、苦し紛れながら話をすり替えることもできた。表向きではお前達のやらかしたことは、上手い具合に隠蔽できたわけだ。ただ――」

 倉科はそこで言葉を区切ると、神妙な面持ちで手痛い一言を吐き出した。

「下手をすれば、最悪の結末が待っていたかもしれない。俺にも責任はあるが、やはり勝手に捜査を混乱させた責任はとらなきゃならん。俺の苦し紛れの言い訳が、全ての警察関係者に通用しているわけでもないだろうからな」
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