縁仁【ENZIN】 捜査一課 対凶悪異常犯罪交渉係

鬼霧宗作

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事例2 美食家の悪食【事件篇】

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「そうだな――。二人とも、辛くなったらトイレに駆け込んで貰っても構わないから聞いてくれ。これは、この事件にたずさわった人間なら、一度通る道だからな」

 お言葉に甘えてトイレに駆け込みたくなるが、しかしそれでは一向に話が進まない。それに、写真を直視さえしなければ、まだ耐えられそうだ。縁はやせ我慢でその場に居座り続ける。

「遺体が発見されたのは、今言った通り国道の中央分離帯なわけだが、そもそもこの国道は深夜になるとほとんど車通りがなくてな。まぁ、田舎なんてそんなものなんだが、さすがにその場で犯行に及んだ可能性は低いと思っている。車通りが少ないだけで、数分――数十分おきに車の一台くらいは通るからな。よって、どこか別の場所で殺害された後、遺体発見現場に運ばれたと考えるのが妥当だと思われる」

 遺体は国道の中央分離帯という、実に大胆な場所で発見されたようだ。幾ら深夜だとしても、いつ誰に目撃されるか分からない場所で犯行に及ぶことは考えにくい。安野の見解でまず間違いはないだろう。

「遺体の損傷具合の割に、現場にはその痕跡こんせき――例えば飛び散った人間の脳細胞だとか、血液とかが見られなかったわけ。それも、別の場所で被害者が殺害されたことを裏付けていると思うよ。ちなみに切断されたであろう両手の薬指も、当然と言えば当然だけど見つかっていない」

 グラスを傾けながら補足をつける麻田。彼もまた、最初の頃は吐き気と戦いながら鑑識の仕事にあたったのであろうか。あまりにも平気そうに資料を眺めている辺り、そのようには思えないのだが。いずれ、自分も慣れてしまうのだろうか――。そう思うと、なんだかゾッとした。そもそも、こんな残酷な事件に慣れたくはないものだ。

「死因は――あ、ここからの見解は先生に話して貰ったほうがいいか。せっかく専門家がいるんだから」

 淡々と続けようとした安野だったが、先生に気を遣ったのか、話の主導権を先生のほうに渡した。それを受け取った先生は「別に気にしなくてもいいのに」と言いながらも、眼鏡のブリッジを指で押し上げ、淡いピンク色をした唇を動かした。

「司法解剖の結果だけど、特筆すべき点が幾つかあるわ。まず、死因は写真を見て貰えば分かる通り、頭部への鋭器えいき損傷による即死ね。頭蓋骨を割って傷は脳まで達しているから、鋭利な刃物で――しかも相当な力でやられたものだと思われるわ。傷の程度から見て、凶器は恐らく刃渡り50センチから60センチ。また、厚さは最大で5センチはあるものだと思われる。さて、ここから導き出される凶器はどんなものになるかしらね?」
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