縁仁【ENZIN】 捜査一課 対凶悪異常犯罪交渉係

鬼霧宗作

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事例2 美食家の悪食【事件篇】

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「あ、あの――生活反応ってなんっすか?」

 ここでトンデモ発言をしてしまうのが尾崎である。刑事になるために法医学の全てを知らねばならないわけではないが、生活反応という用語くらいは知っていて然るべきものである。酒が入っているせいで、たまたま知識がすっぽりと抜け落ちていたと信じたい。尾崎の発言に漏れ出しそうになる溜め息を飲み込んだ。安野達どころか、ママからでさえ「マジかよ――」といったニュアンスの視線が注がれているような気がした。

「写真を見て貰えば分かる通り、両手が血まみれになっているでしょう? どうして血まみれになったと思う?」

 先生は学校の教師であるかのように、優しく尾崎へと問いかける。それに対して尾崎は少し考えてから、ちょっと自信がなさそうに答えた。

「それは――血が出たからっす。そりゃもう、ドクドクと」

 答えとしては間違ってはいないが、もう少しマシな言い回しはないのだろうか。吐き気と溜め息。こらえなければならないものが多すぎて息が止まってしまいそうだ。先生は尾崎に優しく解説してくれるつもりなのであろうが、なんだか申し訳ない。先生からすれば、この会話は無駄話であり、さっさと話を進めてしまいたいだろうに。

「では、人間はどうして出血するのかしら?」

「――そりゃ、体の中に血が流れているからっす」

 一問一答の形式で、徐々に答えへと近づける先生。尾崎はまだ先生の言いたいことが分かっていないようで、やや不思議そうな顔で受け答えをする。

「じゃあ、これが核心ね――。体の中に血が流れるのは、なんの臓器が動いているからなのかしら?」

 答えは――心臓。心臓がポンプの役割を果たすことにより、人間は常に体中に血液を循環させている。つまり、被害者の切断された指元から多量の出血が伺える所見があるということは――。

「心臓っすね。人間にとって大切な臓器っす。自分、それくらいのことは知っているっす」

 血液を循環させる臓器が心臓であることなど小学生だって知っている。それなのに、さも得意げに、したり顔を浮かべる尾崎。麻田がぽりつりと「こいつ、本当に刑事なの?」と小声で問うてきた。縁は苦笑い混じりで頷くことしかできない。刑事です――。こんな感じではありますが、正真正銘の刑事です。

「――なら、もう結論は出るわよね? 被害者の指が切断された際、被害者の心臓は動いていたのか、それとも止まっていたのか。どっちだと思う?」
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