縁仁【ENZIN】 捜査一課 対凶悪異常犯罪交渉係

鬼霧宗作

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事例2 美食家の悪食【事件篇】

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 なかば頭をかち割られるという形で殺害された犠牲者。刃渡り50センチを越えるであろう大型の凶器。生きたまま指を切断され、そして体には謎の印が残されていた。ここまでの話をざっと聞いただけでも、事件の凄惨せいさんさが伺える。これに加えて、犯人が人を喰らっているなど、残酷にもほどがある。

「ここからは、また俺がバトンを貰おうか」

 先生がお茶を口にしたところで、一旦話すべき要点は抑えたと考えたのであろう。安野がボロボロの手帳をめくりながら口を開いた。先生は無言で頷く。

「遺体が発見された現場からは、犯人が残したと思われる遺留品が見つかっている。A4用紙をわざわざラミネートしたレシピと――犠牲者の薬指の骨がな」

 レシピ――。一瞬、我が耳を疑った。レシピとは、あのレシピであろうか。調理法が記され、料理をする際の参考にするレシピのことなのだろうか。

 ふと、殺人蜂の事件を思い出す。あの事件ではポエムが遺留品として、被害者の口の中に詰め込まれていたわけであるが、猟奇殺人を犯す者は、どこかで自己主張をしなければ気が済まないようだ。もっとも、犯行そのものが異常であり、それ自体が自己主張のようになっているのが、猟奇殺人の特徴といえば特徴なのであるが。

「これ、実際のレシピを縮小コピーしたやつね。さすがに鑑識課も気を張ってる事件だからさ、持ち出すのに苦労したわけ」

 麻田はそう言いながら、ポケットから束になった紙切れを取り出し、それを「隣に回して」と、縁に手渡してきた。受け取った縁は、その内容が気になりながらも、一枚だけ紙切れを手に取って隣の先生に残りを渡す。先生から尾崎と安野の手にレシピのコピーが回った。

「一枚余ったぞ――」

「あ、それママの分ね。俺って、そういうところ抜かりないから」

 麻田の言葉を受けた安野がレシピのコピーを手渡すと「さすが、分かってるわね」と、ママがレシピを受け取りながら呟く。それに対して「俺を誰だと思っているわけ?」と、少し得意げな麻田。

 察するに、麻田はレシピのコピーを正攻法で持ち出したわけではないようだ。無断で失敬したのだろう。も。悪い言い方をすれば証拠品の横流しに抵当するわけだが、あえて深くは考えないようにした。郷に入れば郷に従え――というわけではないが、こちらにはこちらのやり方というものがあるし、一般人であるママが当たり前のように話に参加しているのも、こちらでは当たり前のことなのかもしれない。どちらも守秘義務に違反しているが、それをどうこう言うつもりはなかった。縁がここにやって来た理由は、あくまでも事件の捜査をするためなのだから。
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