162 / 581
事例2 美食家の悪食【事件篇】
21
しおりを挟む
なかば頭をかち割られるという形で殺害された犠牲者。刃渡り50センチを越えるであろう大型の凶器。生きたまま指を切断され、そして体には謎の印が残されていた。ここまでの話をざっと聞いただけでも、事件の凄惨さが伺える。これに加えて、犯人が人を喰らっているなど、残酷にもほどがある。
「ここからは、また俺がバトンを貰おうか」
先生がお茶を口にしたところで、一旦話すべき要点は抑えたと考えたのであろう。安野がボロボロの手帳をめくりながら口を開いた。先生は無言で頷く。
「遺体が発見された現場からは、犯人が残したと思われる遺留品が見つかっている。A4用紙をわざわざラミネートしたレシピと――犠牲者の薬指の骨がな」
レシピ――。一瞬、我が耳を疑った。レシピとは、あのレシピであろうか。調理法が記され、料理をする際の参考にするレシピのことなのだろうか。
ふと、殺人蜂の事件を思い出す。あの事件ではポエムが遺留品として、被害者の口の中に詰め込まれていたわけであるが、猟奇殺人を犯す者は、どこかで自己主張をしなければ気が済まないようだ。もっとも、犯行そのものが異常であり、それ自体が自己主張のようになっているのが、猟奇殺人の特徴といえば特徴なのであるが。
「これ、実際のレシピを縮小コピーしたやつね。さすがに鑑識課も気を張ってる事件だからさ、持ち出すのに苦労したわけ」
麻田はそう言いながら、ポケットから束になった紙切れを取り出し、それを「隣に回して」と、縁に手渡してきた。受け取った縁は、その内容が気になりながらも、一枚だけ紙切れを手に取って隣の先生に残りを渡す。先生から尾崎と安野の手にレシピのコピーが回った。
「一枚余ったぞ――」
「あ、それママの分ね。俺って、そういうところ抜かりないから」
麻田の言葉を受けた安野がレシピのコピーを手渡すと「さすが、分かってるわね」と、ママがレシピを受け取りながら呟く。それに対して「俺を誰だと思っているわけ?」と、少し得意げな麻田。
察するに、麻田はレシピのコピーを正攻法で持ち出したわけではないようだ。無断で失敬したのだろう。も。悪い言い方をすれば証拠品の横流しに抵当するわけだが、あえて深くは考えないようにした。郷に入れば郷に従え――というわけではないが、こちらにはこちらのやり方というものがあるし、一般人であるママが当たり前のように話に参加しているのも、こちらでは当たり前のことなのかもしれない。どちらも守秘義務に違反しているが、それをどうこう言うつもりはなかった。縁がここにやって来た理由は、あくまでも事件の捜査をするためなのだから。
「ここからは、また俺がバトンを貰おうか」
先生がお茶を口にしたところで、一旦話すべき要点は抑えたと考えたのであろう。安野がボロボロの手帳をめくりながら口を開いた。先生は無言で頷く。
「遺体が発見された現場からは、犯人が残したと思われる遺留品が見つかっている。A4用紙をわざわざラミネートしたレシピと――犠牲者の薬指の骨がな」
レシピ――。一瞬、我が耳を疑った。レシピとは、あのレシピであろうか。調理法が記され、料理をする際の参考にするレシピのことなのだろうか。
ふと、殺人蜂の事件を思い出す。あの事件ではポエムが遺留品として、被害者の口の中に詰め込まれていたわけであるが、猟奇殺人を犯す者は、どこかで自己主張をしなければ気が済まないようだ。もっとも、犯行そのものが異常であり、それ自体が自己主張のようになっているのが、猟奇殺人の特徴といえば特徴なのであるが。
「これ、実際のレシピを縮小コピーしたやつね。さすがに鑑識課も気を張ってる事件だからさ、持ち出すのに苦労したわけ」
麻田はそう言いながら、ポケットから束になった紙切れを取り出し、それを「隣に回して」と、縁に手渡してきた。受け取った縁は、その内容が気になりながらも、一枚だけ紙切れを手に取って隣の先生に残りを渡す。先生から尾崎と安野の手にレシピのコピーが回った。
「一枚余ったぞ――」
「あ、それママの分ね。俺って、そういうところ抜かりないから」
麻田の言葉を受けた安野がレシピのコピーを手渡すと「さすが、分かってるわね」と、ママがレシピを受け取りながら呟く。それに対して「俺を誰だと思っているわけ?」と、少し得意げな麻田。
察するに、麻田はレシピのコピーを正攻法で持ち出したわけではないようだ。無断で失敬したのだろう。も。悪い言い方をすれば証拠品の横流しに抵当するわけだが、あえて深くは考えないようにした。郷に入れば郷に従え――というわけではないが、こちらにはこちらのやり方というものがあるし、一般人であるママが当たり前のように話に参加しているのも、こちらでは当たり前のことなのかもしれない。どちらも守秘義務に違反しているが、それをどうこう言うつもりはなかった。縁がここにやって来た理由は、あくまでも事件の捜査をするためなのだから。
2
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし
かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし
長屋シリーズ一作目。
第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。
十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。
頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。
一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる