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事例2 美食家の悪食【事件篇】
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「――はい」
目をこすりながら、やや間抜けな声で対応する。どうして寝起きの時は、自分でも驚くほど間抜けな声が出てしまうのか。腕時計に視線を落としてみると、一時間ほどが経過していた。体感的には、ほんの一瞬だったというのに。
「縁、今どこにいるっすか?」
電話の相手は尾崎だった。その背後には駅のアナウンスらしきものが聞こえる。ようやく、こちらのほうに戻ってきたようだ。スマートフォンの着信音で起きてしまったのか、麻田が大きく背伸びをした。安野は重たそうな瞼を上げながら、後部座席のほうへと振り返ってくる。
「今は先生のところにいます。尾崎さんはどこなんですか?」
先生のところ――と言っても、正確にはその駐車場に停車した車の中である。尾崎が奔走していたかもしれないのに、仮眠をとっていたとは、ちょっと言いにくかった。
「親不知駅にいるっす。色々と分かったことがあるから、今からすぐに合流するっす」
電話の相手が尾崎であるということは、おおよそ察しがついているのであろう。あくびを噛み殺しながら安野がシートベルトを締める。
「分かりました。今から向かいます。ちょっと待っていて下さい」
そこで尾崎との電話を終えると、縁はスマートフォンを仕舞いながら「親不知駅まで向かって下さい。尾崎さんが待っていますから」と告げる。
「――それで、何か分かったのか?」
エンジンをかけた安野から放り投げられた言葉に、縁は力強く頷いた。
「そうみたいです。これから尾崎さんと合流しましょう」
尾崎が一度神座に戻っていることは麻田も聞かされていたらしく「あっちには優秀な警部さんがいるみたいだねぇ」と、やや皮肉った様子で安野のほうへと視線を移す。それに対して「警察学校時代は、俺とどんぐりの背比べだったんだがなぁ……」とぼやきつつ、アクセルを踏む安野。二人は知らないだろうし、あくまでも機密事項であるから口外はしないが、倉科のおかげで何かが掴めたわけではない。それを導き出したのは坂田だ。
現場に急行するわけではないから、緊急用の赤色灯の出番はなし。それでも、明らかに法定速度を超える速度で駅へと向かう。ここに交通課の人間が乗っていたら、こっぴどく叱られていることだろう。むしろ、違反切符を切られてしまうかもしれない。
駅のロータリーに入ると、駅の出入口で仁王立ちをしている尾崎の姿をすぐに見つけた。待ちきれずに外で待っていたらしい。
目をこすりながら、やや間抜けな声で対応する。どうして寝起きの時は、自分でも驚くほど間抜けな声が出てしまうのか。腕時計に視線を落としてみると、一時間ほどが経過していた。体感的には、ほんの一瞬だったというのに。
「縁、今どこにいるっすか?」
電話の相手は尾崎だった。その背後には駅のアナウンスらしきものが聞こえる。ようやく、こちらのほうに戻ってきたようだ。スマートフォンの着信音で起きてしまったのか、麻田が大きく背伸びをした。安野は重たそうな瞼を上げながら、後部座席のほうへと振り返ってくる。
「今は先生のところにいます。尾崎さんはどこなんですか?」
先生のところ――と言っても、正確にはその駐車場に停車した車の中である。尾崎が奔走していたかもしれないのに、仮眠をとっていたとは、ちょっと言いにくかった。
「親不知駅にいるっす。色々と分かったことがあるから、今からすぐに合流するっす」
電話の相手が尾崎であるということは、おおよそ察しがついているのであろう。あくびを噛み殺しながら安野がシートベルトを締める。
「分かりました。今から向かいます。ちょっと待っていて下さい」
そこで尾崎との電話を終えると、縁はスマートフォンを仕舞いながら「親不知駅まで向かって下さい。尾崎さんが待っていますから」と告げる。
「――それで、何か分かったのか?」
エンジンをかけた安野から放り投げられた言葉に、縁は力強く頷いた。
「そうみたいです。これから尾崎さんと合流しましょう」
尾崎が一度神座に戻っていることは麻田も聞かされていたらしく「あっちには優秀な警部さんがいるみたいだねぇ」と、やや皮肉った様子で安野のほうへと視線を移す。それに対して「警察学校時代は、俺とどんぐりの背比べだったんだがなぁ……」とぼやきつつ、アクセルを踏む安野。二人は知らないだろうし、あくまでも機密事項であるから口外はしないが、倉科のおかげで何かが掴めたわけではない。それを導き出したのは坂田だ。
現場に急行するわけではないから、緊急用の赤色灯の出番はなし。それでも、明らかに法定速度を超える速度で駅へと向かう。ここに交通課の人間が乗っていたら、こっぴどく叱られていることだろう。むしろ、違反切符を切られてしまうかもしれない。
駅のロータリーに入ると、駅の出入口で仁王立ちをしている尾崎の姿をすぐに見つけた。待ちきれずに外で待っていたらしい。
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