縁仁【ENZIN】 捜査一課 対凶悪異常犯罪交渉係

鬼霧宗作

文字の大きさ
205 / 581
事例2 美食家の悪食【事件篇】

64

しおりを挟む
「――はい」

 目をこすりながら、やや間抜けな声で対応する。どうして寝起きの時は、自分でも驚くほど間抜けな声が出てしまうのか。腕時計に視線を落としてみると、一時間ほどが経過していた。体感的には、ほんの一瞬だったというのに。

「縁、今どこにいるっすか?」

 電話の相手は尾崎だった。その背後には駅のアナウンスらしきものが聞こえる。ようやく、こちらのほうに戻ってきたようだ。スマートフォンの着信音で起きてしまったのか、麻田が大きく背伸びをした。安野は重たそうなまぶたを上げながら、後部座席のほうへと振り返ってくる。

「今は先生のところにいます。尾崎さんはどこなんですか?」

 先生のところ――と言っても、正確にはその駐車場に停車した車の中である。尾崎が奔走していたかもしれないのに、仮眠をとっていたとは、ちょっと言いにくかった。

「親不知駅にいるっす。色々と分かったことがあるから、今からすぐに合流するっす」

 電話の相手が尾崎であるということは、おおよそ察しがついているのであろう。あくびを噛み殺しながら安野がシートベルトを締める。

「分かりました。今から向かいます。ちょっと待っていて下さい」

 そこで尾崎との電話を終えると、縁はスマートフォンを仕舞いながら「親不知駅まで向かって下さい。尾崎さんが待っていますから」と告げる。

「――それで、何か分かったのか?」

 エンジンをかけた安野から放り投げられた言葉に、縁は力強く頷いた。

「そうみたいです。これから尾崎さんと合流しましょう」

 尾崎が一度神座に戻っていることは麻田も聞かされていたらしく「あっちには優秀な警部さんがいるみたいだねぇ」と、やや皮肉った様子で安野のほうへと視線を移す。それに対して「警察学校時代は、俺とどんぐりの背比べだったんだがなぁ……」とぼやきつつ、アクセルを踏む安野。二人は知らないだろうし、あくまでも機密事項であるから口外はしないが、倉科のおかげで何かが掴めたわけではない。それを導き出したのは坂田だ。

 現場に急行するわけではないから、緊急用の赤色灯の出番はなし。それでも、明らかに法定速度を超える速度で駅へと向かう。ここに交通課の人間が乗っていたら、こっぴどく叱られていることだろう。むしろ、違反切符を切られてしまうかもしれない。

 駅のロータリーに入ると、駅の出入口で仁王立ちをしている尾崎の姿をすぐに見つけた。待ちきれずに外で待っていたらしい。
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。

藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった…… 結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。 ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。 愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。 *設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 *全16話で完結になります。 *番外編、追加しました。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし

かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし 長屋シリーズ一作目。 第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。 十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。 頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。 一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。

処理中です...