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事例2 美食家の悪食【事件篇】
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ミサトに身に何が起きたのか――。それを知っているのは、現場に駆けつけた自分達を含む関係者と、サンテラスのママくらいだ。マスコミには箝口令が出され、この凶悪な事件そのものが世に伝えられていないため、当然ながら楼々軒の看板娘である絵梨子も、ミサトに降りかかった災難のことは知らない。むろん、もうミサトがこの世にいないことだって知らずに、いつも通りの日常を過ごしていることだろう。
安野が先に暖簾をくぐり、それに続く形で店に入る縁達。店に入るなり、元気な声で「いらっしゃいませぇ!」と出迎えてくれたのは絵梨子だった。浮かべた満面の笑顔が、これから悲しみの色に染まるだろうことを想像して、なんとも言えない気持ちになった。
「四人だが、大丈夫か?」
店はちょうど客が途切れたところだったらしく、絵梨子はテーブルを拭いているところだった。中華料理屋といえば、失礼ながら小汚いイメージがなんとなくあるのだが、楼々軒はこぢんまりとしていながら掃除が行き届いているようだった。無駄なものを置かずに整然としているといったほうが正しいか。
「あぁ、安野さん。昨日はどうも――。好きな席に座ってよ」
そうか――まだ昨日のことなのか。絵梨子の言葉を聞いて、縁はしみじみとそんなことを考えた。昨日のこの時間、まだミサトは生きていて、いつもと変わらぬ一日を送っていたのだ。それが一変してしまうような出来事に遭遇してしまうとも知らずに。
「――そこの席にするか」
安野が店の隅にある四人掛けのテーブルへと視線を移し、他の人間の意見も聞かずにさっさと着席してしまう。安野の隣に麻田が座り、そして対面側に縁と尾崎が座った。
「どうしたのぉ? なんだか、みんなお通夜みたいな顔をしてるけど。なんか嫌なことでもあった?」
きっと、自分達で思っているよりも暗い顔をしているのだろう。ろくに睡眠もとらずに動いていたから疲れもあるのだろうが、何よりもミサトが亡くなってしまったこと――それをこれから絵梨子に伝えなければならないことが、無意識のうちに表情に陰を落としていたのかもしれない。
「あぁ、ちょっとな――」
訃報を伝えるのは、サンテラスの常連であり、また絵梨子とも顔見知りである安野の役割だ。派遣をされてこちらにやって来ている縁と尾崎が出る幕ではないだろう。
「そうなんだ。まぁ、人生山あり谷ありですからねぇー。そんな日もあるよ。注文決まったら呼んで下さいねー」
絵梨子はあっけらかんとした様子で言うと、カウンターの奥へと引っ込んでしまった。カウンターの向こうには調理場があり、年配の男が腕組みをしてこちらを見つめていた。頑固な料理人といった雰囲気だ。調理場の奥の壁には肉切り包丁だろうか、大振りの包丁がかけられていた。
安野が先に暖簾をくぐり、それに続く形で店に入る縁達。店に入るなり、元気な声で「いらっしゃいませぇ!」と出迎えてくれたのは絵梨子だった。浮かべた満面の笑顔が、これから悲しみの色に染まるだろうことを想像して、なんとも言えない気持ちになった。
「四人だが、大丈夫か?」
店はちょうど客が途切れたところだったらしく、絵梨子はテーブルを拭いているところだった。中華料理屋といえば、失礼ながら小汚いイメージがなんとなくあるのだが、楼々軒はこぢんまりとしていながら掃除が行き届いているようだった。無駄なものを置かずに整然としているといったほうが正しいか。
「あぁ、安野さん。昨日はどうも――。好きな席に座ってよ」
そうか――まだ昨日のことなのか。絵梨子の言葉を聞いて、縁はしみじみとそんなことを考えた。昨日のこの時間、まだミサトは生きていて、いつもと変わらぬ一日を送っていたのだ。それが一変してしまうような出来事に遭遇してしまうとも知らずに。
「――そこの席にするか」
安野が店の隅にある四人掛けのテーブルへと視線を移し、他の人間の意見も聞かずにさっさと着席してしまう。安野の隣に麻田が座り、そして対面側に縁と尾崎が座った。
「どうしたのぉ? なんだか、みんなお通夜みたいな顔をしてるけど。なんか嫌なことでもあった?」
きっと、自分達で思っているよりも暗い顔をしているのだろう。ろくに睡眠もとらずに動いていたから疲れもあるのだろうが、何よりもミサトが亡くなってしまったこと――それをこれから絵梨子に伝えなければならないことが、無意識のうちに表情に陰を落としていたのかもしれない。
「あぁ、ちょっとな――」
訃報を伝えるのは、サンテラスの常連であり、また絵梨子とも顔見知りである安野の役割だ。派遣をされてこちらにやって来ている縁と尾崎が出る幕ではないだろう。
「そうなんだ。まぁ、人生山あり谷ありですからねぇー。そんな日もあるよ。注文決まったら呼んで下さいねー」
絵梨子はあっけらかんとした様子で言うと、カウンターの奥へと引っ込んでしまった。カウンターの向こうには調理場があり、年配の男が腕組みをしてこちらを見つめていた。頑固な料理人といった雰囲気だ。調理場の奥の壁には肉切り包丁だろうか、大振りの包丁がかけられていた。
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