縁仁【ENZIN】 捜査一課 対凶悪異常犯罪交渉係

鬼霧宗作

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事例2 美食家の悪食【事件篇】

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 第一、第二の事件のシレピは、尾崎の言う通り妙な整合性がある。全て偶数で揃えられた文章。三点リーダーを境界として、左右均等になるように振り分けられた文字列。わざわざ文字数を偶数にするためにはぶかれた句読点。尾崎に言われてから、改めてレシピを見直してみるが、そこにはある種のこだわりのようなものさえ感じられる。

 だから、第三の事件のシレピにおける整合性が、極端に崩されていることが気になった。平気で奇数の文章を使うし、三点リーダーを境界とした文字の振り分けにもかたよりが見られる。そして、これまで使われていなかった句読点までもが見受けられる。

 この極端な変化は一体何なのであろうか。そう考えた時、真っ先に頭に浮かんだのは、ボイスメモで犯人が漏らした料理の名前と、実際のレシピに採用された料理の名前とが、微妙に異なっているということだった。犯人が呟き落とした料理の名前は偶数。だがしかし、実際のレシピに採用されていた料理名の文字数は奇数。それを皮切りに、ことごとく第三のレシピの整合性が、まるで意図的に崩されているように感じられる。だからこそ、縁は何かしらの原因で、犯人が整合性を自ら崩したのではないかと考えたのである。

「第一と第二のレシピを見るに、犯人からは異常とも思えるこだわりを感じます。犯行の手口、手順、手段などが統一されている辺りも、恐らく犯人なりのこだわりゆえのものでしょう。そのこだわりが、几帳面さとなって表出ひょうしゅつしているような気がします」

 縁の言葉に対して、煙草を取り出しつつ安野が口を開く。

「では、仮にその考えが正しいとして、どうして犯人は第三のレシピになって、整合性を崩さなければならなかったんだ? 理由があるとすれば、その理由はなんだ?」

 ――なぜだろうか。安野に言われて縁は言葉に詰まった。安野は断りも入れずに煙草に火を点けると、縁の言葉を待つかのように見据えてくる。

「それは……分かりません」

 その理由をここでズバリと言い当てることができるならば格好いいのであろうが、残念なことにそこまでは分からない。ただ、縁の第六感が、この点ばかりは逃してはならないと警鐘を鳴らしているのも事実だった。

「結局、何も分からずってことだねぇ。犯人が几帳面だって分かったところで、何にもならないし」

 恐らく、自分がわざわざ神座に戻り、坂田から受けたアドバイスを、小馬鹿にされたように感じたのであろう。尾崎がムスッとした様子を見せ、やや口調を荒げて返す。
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