縁仁【ENZIN】 捜査一課 対凶悪異常犯罪交渉係

鬼霧宗作

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事例2 美食家の悪食【解決篇】

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 吃音症――とは、聞き慣れた名前ではないが、言われてみれば確かに、犯人らしき肉声は母音を発する際に吃っている。それも、言葉の頭に母音がくる時のみにだ。

「さて、犯人は【あ】【い】【う】【え】【お】の母音を、言葉の頭に発音しようとする際に吃ってしまいます。ですが、少なくとも先生は、私達の前で吃ったりはしていませんでした。それはなぜだか分かりますか? 先生ご本人ならば、誰よりも知っておられると思いますが」

 先生と縁の間に、目には見えない火花が飛び散っているかのように思える。両者の間に漂う空気が過熱され、陽炎かげろうのように歪んでいるかのようにさえ見えた。けれども、先生は黙ったまま口を開こうとはしない。縁の出方を伺っているように見えるのは尾崎の気のせいなのか。

「――意識的に言葉の頭に【あ】【い】【う】【え】【お】の母音がこないようにしていたから。母音が頭にくるような言葉は、意図的に他の言葉に置き換えていたからですよね? だから、ここは【応接室】ではなく【ゲストルーム】なんです。だから、先生が礼を言う時は【ありがとう】ではなく【サンキュー】だったんです。母音が言葉の頭にきてしまうと吃ってしまう。よって、先生は母音が頭にこないように言葉を置き換える癖がついていたのだと思われます」

 犯人は母音が頭にくる言葉を発音する際に吃ってしまう。そして、先生は母音が頭にくるような言葉を意図的に避け、別の言葉に置き換えていた。これは果たして偶然だと言えるのだろうか。もはや完全に縁の独壇場であり、これてかと言わんばかりに縁は言葉で先生を追い詰める。

「普段は理性が働いているから、言葉を発する際に別の言葉に置き換えることができた。しかし、犯行に及んでいる最中は理性が吹き飛び、そこまで意識が回らなかった。だからこそ、ボイスメモに残されていた犯人の肉声では、言葉が吃りに吃ってしまっていたのだと思います。――いかがですか、先生。どうやら犯人は、先生と全く同じ特徴の吃音症だったと思われますが」

 ここでようやく先生が目線を少し動かし、同意するかのように何度か頷いた。そして、静かにそっと口を開く。

「――認めましょう。確かに、私は小さい頃から【あ】【い】【う】【え】【お】の母音が、言葉の言い始めにきてしまうと吃ってしまう吃音症よ。これが昔から嫌で仕方がなくてね、大人になるにつれて、言葉を置き換える癖がついたのも事実ね。でも……それだけで私が犯人だと決めつけるのはお粗末じゃない? 吃音症で、同じような症状の人間は、世の中にたくさんいるわ」
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