縁仁【ENZIN】 捜査一課 対凶悪異常犯罪交渉係

鬼霧宗作

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事例3 正面突破の解放軍【事件篇】

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 ここは普段より外界から遮断された世界。それゆえに、有事に対する脆弱性が顕著けんちょだ。助けを呼ぶこともできないし、異変に気付いて貰えることもない。そして、解放軍が武力を持っている以上、彼らこそが法なのである。その法に逆らえば――もれなく死が待っている。

 楠木は返す言葉を失ってしまったようだった。坂田を独房から出すという行為は、当然ながら独断で行えるものではないだろう。彼の存在は国家機密レベルであり、決して知られてはならないことでもある。それが漏洩してしまうかもしれないリスクを、一人で背負うには重すぎるだろう。楠木一人で決められることではない。

「こちらの要求が呑めないのであれば、死んで貰うだけだよー。どうやら、まだ自分達の立場が分かっていないみたいだねぇ。みんなは、私達の要求を拒否するなんてことはできないの。従うことしかできないんだよぉー」

 合成音声だというのに、妙にぶりっ子というか、変に鼻につく。しかし、立場は圧倒的に解放軍のほうが上であり、死にたくなければ要求に従うしかない。ただ、彼らの要求は、下手をすれば国家が揺らぐレベルのものである。機密中の機密として、地下の奥深くで国に飼い慣らされていた坂田。その坂田を独房から出すという行為は、とても一人では背負いきれないほどの重荷だった。しかし――後々の責任以前に、死んでしまったら元も子もない。ここで縁は決断する。この状況を打破するには、どちらにせよリスクを背負わねばならないのだから。

「その要求――呑みます」

 発言することに、思っていた以上の勇気が必要だった。もっと堂々と言い放ってやろうと思ったのに、情けないことに声が上擦うわずってしまう。ただ、縁の声は確かに届いたようであり、解放軍はもちろんのこと、周囲からの視線が縁へと集められた。

「や、山本さん。本気なのかい?」

 善財が小声で問うてくる。アンダープリズンの人間が、坂田の解放を恐れる理由は、きっと責任問題以外にもあると思われる。坂田自身が恐るべき連続殺人鬼であるということも、躊躇ちゅうちょする理由になっているのだろう。ただでさえ解放軍という得体の知れない猛獣がいるというのに、そこに殺人鬼を放つのだから、躊躇しないほうがおかしいのかもしれない。

 しかしながら、縁は確信していた。この状況――坂田ならば最大限に楽しもうとするということを。思考回路のぶっ飛んだ彼にとって、アンダープリズンが占拠されたなんて状況は、究極のエンターテイメントでしかない。少なくとも、独房から出てきた途端に、無差別に人を殺して回るなんて真似はしないだろう。曲がりなりにも、これまで坂田と関わってきたからこそ持てた確信だった。
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