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事例3 正面突破の解放軍【事件篇】

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 実は善財という男。妙なところで几帳面である。彼自身の中で基準があるのか、どうでも良いところにこだわる節があるらしい。例えば、自分が煙草を吸った後は灰皿を空っぽにしなければ気が済まないのに、彼の仕事用のデスクは物で溢れかえっているらしいとか――。とにかく、昼食の前に煙草を吸った善財が、必ず灰皿を掃除するのは、楠木や中嶋のような喫煙者の間では有名な話だった。綺麗にした直後に灰皿へと吸殻が入るのも嫌なようで、わざわざ自分が最後になるように時間を調整するらしいから驚きである。そして、今日も今日とて、食堂が占拠されてしまうことなど知らずに灰皿の掃除をしたのであろう。この善財の、ある意味変な癖というか習慣が、まさか手掛かりを導き出すとは。恐らく、本人だって思いもよらなかったことだろう。

「中嶋、この銘柄――知ってるか?」

 吸殻から煙草の銘柄を推測するのは、その種類によっては容易であったり、逆に困難だったりする。口にくわえるフィルター部分に銘柄が記されたりしているものであれば、比較的容易に銘柄が分かるが、なにも記されていないものは、とことん何も記されていない。楠木が拾い上げた吸殻は前者のほうだった。フィルター部に銘柄らしきものが記されており、フィルターそのものがピンク色だ。しかし、楠木の知らない銘柄である。

「あぁ、それはブラックデビルのピンクローズですね。確か――オランダ産の煙草だって聞いたことがあります」

 楠木も喫煙者ではあるが、ブラックデビルという銘柄は聞いたことがないし、そもそもフィルターがピンク色というのも珍しい。しかしながら、中嶋が知っているということは、楠木が知らないだけであり、そこそこ有名な煙草なのだろうか。

「――言っておきますが、かなりマイナーな煙草ですよ。コンビニや小さい煙草屋にはまず置いてなくて、専門店じゃないと手に入らないとか」

 中嶋はそう言うと大きく溜め息を漏らした。そして、楠木が手渡したピンク色のフィルターを眺める。しばらくすると、楠木のほうへと視線をくれてきた。

「楠木さん、俺はこれを吸っている人を知っています。珍しい銘柄であり、コンビニなどでは入手が困難であるため、アンダープリズンの関係者でも、何人もの人間が吸っているなんてことはないでしょう。つまり、昼休憩に入り、いつものように善財さんが灰皿を掃除した後に――食堂が占拠された後になって、ここで煙草を吸った人物を特定することはできそうです」
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