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事例3 正面突破の解放軍【エピローグ】
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むろん、非番だった職員全員が一斉蜂起したわけではない。当然ながら、非番のメンバーであっても、解放軍に参加しなかった職員もいたらしい。いいや、参加しなかったどころか、解放軍などという恐ろしい軍団が存在すること自体、知らなかった者がほとんどのようだ。恐らく、人材をしっかりと見極め、賛同してくれる者に絞って解放軍を作り上げたのであろう。
解放軍に参加しなかった非番の職員と、あの惨劇で生き残った職員。全員を足したところで、どう考えてもアンダープリズンは回せないとか。現状だって、必要最低限の人数で回しているというより、そもそもフルメンバーで回しているのかもしれない。楠木の溜め息が聞こえてきそうだ。
ちなみに、桜はあの事件のショックから体調を崩してしまい、休職しているそうだ。あれだけの人数が殺害され、その中には彼女の親しい人だっていたのだ。彼女のようにショックを受けるのが普通であって、もしかすると縁をはじめとする面々のほうが、どこかおかしいのかもしれない。
流羽や善財が死んでしまったという実感がない。それどころか、中嶋が逮捕されてしまったことも、どこかで嘘ではないかと疑っている節がある。むしろ、あの惨劇そのものが冗談だったとさえ思いたい。
何かをしていれば気も紛れるのであろうが、しかし何もする気にならない。悶々と事件のことを考えては、この辛い現実から逃げ出したいと願う。――無意識のうちに、意識を散らして無に浸っている自分がいた。そのことに気付いたのは、目の前のテーブルに白く細い手が伸び、そっとスマートフォンが置かれたからだった。
「どうしたの? 最近、元気がないわ――」
我に返った縁は白い手を目で追いかける。その先にはうっすらと笑みを浮かべた姉が立っていた。
「お、お姉ちゃん。あぁ、また勝手に私のスマホ使ったんだね――」
音もなく現れた姉に驚きつつも、小さく溜め息を漏らす縁。あの事件のさなか、辛うじて傷ひとつなく生き延び、ようやく手元に返ってきたという奇跡のスマートフォンであるが、そんなことは関係なく、姉は勝手に縁のスマートフォンを拝借することがあった。これは以前から変わらないことだ。
「ちょっと調べ物があったから――」
姉はそう言っているが、正直なところあまり信用ならなかった。それは前科があるからなのだが――。
「自分のがあるでしょ? 自分のが。そっちのほうを使ってよ」
むろん、姉だってスマートフォンを持っている。それなのに、どうしてわざわざ妹のスマートフォンを使うのか。
「だってあれ、使い勝手が悪いんだもの。それとも、新しいの――買ってくれる?」
解放軍に参加しなかった非番の職員と、あの惨劇で生き残った職員。全員を足したところで、どう考えてもアンダープリズンは回せないとか。現状だって、必要最低限の人数で回しているというより、そもそもフルメンバーで回しているのかもしれない。楠木の溜め息が聞こえてきそうだ。
ちなみに、桜はあの事件のショックから体調を崩してしまい、休職しているそうだ。あれだけの人数が殺害され、その中には彼女の親しい人だっていたのだ。彼女のようにショックを受けるのが普通であって、もしかすると縁をはじめとする面々のほうが、どこかおかしいのかもしれない。
流羽や善財が死んでしまったという実感がない。それどころか、中嶋が逮捕されてしまったことも、どこかで嘘ではないかと疑っている節がある。むしろ、あの惨劇そのものが冗談だったとさえ思いたい。
何かをしていれば気も紛れるのであろうが、しかし何もする気にならない。悶々と事件のことを考えては、この辛い現実から逃げ出したいと願う。――無意識のうちに、意識を散らして無に浸っている自分がいた。そのことに気付いたのは、目の前のテーブルに白く細い手が伸び、そっとスマートフォンが置かれたからだった。
「どうしたの? 最近、元気がないわ――」
我に返った縁は白い手を目で追いかける。その先にはうっすらと笑みを浮かべた姉が立っていた。
「お、お姉ちゃん。あぁ、また勝手に私のスマホ使ったんだね――」
音もなく現れた姉に驚きつつも、小さく溜め息を漏らす縁。あの事件のさなか、辛うじて傷ひとつなく生き延び、ようやく手元に返ってきたという奇跡のスマートフォンであるが、そんなことは関係なく、姉は勝手に縁のスマートフォンを拝借することがあった。これは以前から変わらないことだ。
「ちょっと調べ物があったから――」
姉はそう言っているが、正直なところあまり信用ならなかった。それは前科があるからなのだが――。
「自分のがあるでしょ? 自分のが。そっちのほうを使ってよ」
むろん、姉だってスマートフォンを持っている。それなのに、どうしてわざわざ妹のスマートフォンを使うのか。
「だってあれ、使い勝手が悪いんだもの。それとも、新しいの――買ってくれる?」
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