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事例4 人殺しの人殺し【事件篇①】

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「ここでの事件で吹っ切れた部分があるんだよ。楠木が二つ返事で持ち込みを許可してくれたからな。つまりは、国に対する不信感が、規則でがんじがらめになったアンダープリズンを変えたってことかもな」

 恐らくであるが、楠木は失望したのであろう。何よりも事件のもみ消しを最優先にした国に対して、忠誠を誓うことをやめたのだ。少ない人数でアンダープリズンを管理することになったのに、人員の補充もなく、きっと今後の方針のようなアナウンスもなく、ただただ投げっぱなしにされていることであろう。0.5係だって、倉科が声を上げなければ、いまだに投げっぱなしだっただろうし。

「とにかく、俺も国のお偉いさんに対して腹が立つところがあってな。もうどうにでもなれ――ってな具合だ」

 中嶋が引き起こした事件は、様々なところに影響を及ぼした。かつて彼の職場だったアンダープリズンのあり方や、倉科の考え方など――まぁ、倉科はやや自棄になっているだけのように思えるが、お上の方々が、もっと現場サイドに寄り添った対応をしていれば、ここまで互いの信頼を失うこともなかったのだろう。

「そうですか――」

 ただ、今の縁にとって、これらのことはささいな問題だった。しっかりとワンクッションを挟んだことであるし、白いワンピースの女とやらを確認したい。倉科と尾崎の元へと向かうと、反対側からタブレットを覗き込んだ。逆さまになった監視カメラの映像には、廊下をゆっくりと歩く白い人影が映っていた。陰影の具合と画像の荒さもあってか、まるでB級ホラーのワンシーンのように見えた。

「警備員と看護師を襲った時の映像はしっかり残っているっす。映っていないのは患者の個室での殺害場面だけ――。つまり、殺人蜂が殺される場面は残念ながら残されていねぇっす」

 廊下を歩いていた白い人影が、病室らしきほうに姿を消した。

「警備員と看護師二人が殺害された場面――ですか。できることならば見たくはありませんね」

 縁の言葉に頷くと「スプラッター映画顔負けっすよ」と苦笑いを浮かべると、尾崎は続ける。

「多分、返り血だと思うっすけど、殺人蜂の病室を出てきた後は、まだ白かったワンピースが真っ赤に染まってるっす。でも、映像を確認している限りでは、そのままの格好でワンピースの女は外に出てるっす。これじゃ、嫌でも目立ってしまうっすね。事件解決も時間の問題かと」
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