縁仁【ENZIN】 捜査一課 対凶悪異常犯罪交渉係

鬼霧宗作

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事例4 人殺しの人殺し【事件篇②】

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 水を含ませておきながら、何ヶ月も放置したスポンジを絞ったような臭いがした。湿っぽく、またカビっぽく、建物全体が腐りつつあるような臭いだ。鉄筋コンクリート製なのだから、まず腐ることなんてあり得ないのであろうが、暗くどんよりとしたビルの中は、倉科にそう思わせた。

 何があるか分からないから、拳銃を構えながら、ゆっくりと進む。数少ない採光窓から入る光に照らされ、暗闇の中に湿ったほこりが舞っていた。

 自然と背中合わせになり、周囲を警戒しながら進む尾崎と倉科。一度、ここに踏み入れたことがあるおかげで、階段の位置も把握してある。倉科が先導する形で階段までたどり着くと、倉科は無言で上を指差し、そして尾崎は大きく頷く。何が起きているのか分からない以上、最大限に周囲へと注意を払わねばならなかった。

 できる限り音を立てないように階段を駆け上る。踊り場で折り返し、上の階へと到着し、そしてまた踊り場で折り返し――を何度か繰り返すと、どん詰まりに到着。そこには薄汚れた扉があり、扉の向こうは屋上なのであろう。以前はここまで来ることはなく、むしろ二階が現場だったがゆえに、思った以上に階数があって息が上がってしまった。いよいよ、衰えというものを認めなければならないらしい。

 扉にはガラスが入っているものの、曇りガラスであるがゆえに向こうの様子は見えない。扉の前に張り付くと、尾崎とアイコンタクトをとった。倉科が頷き、そして尾崎も頷く。状況はいまだに分からないままであるが、とりあえず縁の言葉の意味をそのまま解釈すれば、屋上で何かしらが起きているということになる。

 倉科がドアノブに手を伸ばし、無防備になった倉科をフォローするかのごとく、尾崎が曇りガラスへと銃口を向ける。拳銃を使わねばならないような状況になっていなければいいが――そんなことを考えつつ、倉科はドアノブを回した。しかし、がっちりと固定されたまま回らない。鍵がかかっているようだ。

 内側にサムターン式の鍵でもあるのかと思ったが、しかしこっちのドアノブには鍵穴がついているだけだ。設計ミスなのか、それとも最初からの仕様なのかは不明だが、内側からも鍵がなければ開け閉めができないようになっているらしい。

「鍵がかかってるらしい――」

 倉科が小声で漏らすと、今度は尾崎がドアノブに手を伸ばした。しかし、倉科から尾崎に交代したところで、鍵がかかっているものはかかっている。当然、尾崎がどれだけ力を入れても、ドアノブは回らなかった。
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