縁仁【ENZIN】 捜査一課 対凶悪異常犯罪交渉係

鬼霧宗作

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事例4 人殺しの人殺し【解決篇】

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 正直、神谷の話についていけていない自分がいる。心の病は目に見えず、その実態を掴みにくいというのは理解できるのであるが、記憶を共有しておきながら、片方の人格にとって都合の良いように記憶を書き換えるとか、嘘をつくとか――正直なところ信じられない。そもそも、二重人格や多重人格という精神疾患だって、世の中で受け入れられてはいるが、その病気が実在するか否かは、実際に二重人格や多重人格になった人間にしか分からない。それを推測することはできても、立証することはできないのだ。

「縁は自分が二重人格であることを認めたくない。だからこそ、もう一人の自分を姉だと思い込んでいる――。でも、もう一人の人格は全てを把握していて、主導権を握りつつあるようにも思えるっすね」

 姉は縁に嘘をつくことにより、都合の悪い記憶を書き換えている。つまりそれは、病院で行った凶行の記憶すら書き換えられていたということか。だとすれば悲しすぎる。何も知らない縁は、恐らく一連の事件を姉の仕業であると推測して、必死に止めようとしたのだ。まさかそれが、全て自分の手で行われていたことも知らずに。

「えぇ、だから危険な状態だったんです。副人格が主人格に成り代わろうとする症例は珍しくありませんが、お姉さんのほうには人格的に色々と問題があります。俗に言うサイコパスでして、他人に対する共感性や罪悪感というものを最初から持ち合わせていないんです。ですから、お姉さんが頻繁に表に出てくるようならば、いよいよ措置入院――強制的にでも、大きな病院にお任せすべきだと考えていました」

 そんな状態であるにも関わらず、毎日のように顔を合わせていた尾崎は全く気付かなかった。恐らく、倉科だって縁がそんな顔を持っていたなど気付かなかったであろう。それだけ姉の人格が狡猾だったということか。人格が任意でスイッチするのかどうかは分からないが、恐らく尾崎達と一緒にいる際には、姉の人格は心の奥底に隠れていて、だから問題なく山本縁として振る舞えたのであろう。

「大体、縁はどうして二重人格なんかに? 人間、誰しもが生まれた時から二重人格だというわけではないと思うんすけど」

 これはドラマや映画などの影響が強いのだが、そのような精神疾患は後天性のものが多いような気がする。さっき、神谷はトラウマという言葉を口にしたし、多分ではあるが過去に何かしらのきっかけがあったものだと思われる。

「お姉さんのほうからしか聞いていませんが、恐らくはご両親による恒常的な虐待が原因かと思われます」
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