お悔やみ様は悪鬼に祟る

鬼霧宗作

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三章 親と子

第二十三話

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「これなんだけど――」

 おばさんがスマートフォンを操作して、あるメール画面を見せてきた。もしかすると、おばさんの元にも例の動画が……そんなことをふと考えた江崎であったが、そこにあったのは無機質な一文のみだった。

 ――私、妊娠しちゃったかもしれない。

 送信主はもちろんお悔やみ様ではなく、沙織のアドレスからだった。妊娠という文字を見て、真っ先に例の動画が頭をよぎる。これはもしかして、イエローヘッズの何者かから、沙織に対する乱暴があった証拠になるのではないか。性的暴行を受けたからこそ、沙織は事後になってこのようなメールを母親へと送ったのではないか。

「おばさん、他にさおりんからのメールはなかったか?」

 江崎は自分でも知らない内に、前のめりになっていた。おばさんは寂しそうな笑みを見せて首をゆるく振った。

「沙織からメールが来ることなんて滅多にないから――。それに、このメールが来た時、私はもう寝てしまっていて返信もできていないの。こんなものが沙織との最期のメールになるなんて。しかも妊娠だなんて」

 おばさんが操作するスマートフォンを覗き込むが、直近のものはその一通のみだった。わざわざ【沙織】というフォルダーまで作っているようだが、ひとつ前のメールは半年ほど前のものだった。離婚が原因で割かれた親子の絆。理由はそれだけではないが、沙織は学校で母親のことを話すのを嫌った。葛西や佳代子もそれを知っていたのだろう。特に学校では家族の話題を出さないようにしていたような気がする。

 例の動画の件を話すべきか――。目で葛西に問うてみると、その意図を察したのか、葛西が首を小さく横に振る。この場で動画を持ち出すのは、おばさんの悲しみに追い打ちをかけるだけだ。この問題には関与させず、自分達の力で調べたほうがいいだろう。

「おばさん、残念だけど俺達には沙織が自殺するような心当たりがないし、妊娠なんて話も聞いてない。おばさんには心当たりはない?」

 コーヒーカップを口に運びながら葛西が問う。沙織の死の真相を確かめるためにやって来たはいいが、思っていたよりもおばさんの精神的なダメージが大きいようだ。あまり多くのことは聞き出せそうにない。

「私より、たっちん達のほうが接している時間が多いでしょ? 親として情けないけど、沙織が自殺するような心当たりはないのよ。もちろん、妊娠なんて話も知らないわ」

 おばさんの言葉を最後に沈黙が訪れた。壁掛け時計が時を刻む音だけが響く。沙織の壇に供えた線香が燃え尽きようとしていた。
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