お悔やみ様は悪鬼に祟る

鬼霧宗作

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四章 イエローヘッズ

第十一話

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「ちょうどいいや。あいつが近所の人間なら、イエローヘッズが使ってる廃工場のことも知ってるかもしれねぇ」

 うつむき気味に歩いているせいか、まだこちらに気付いていない様子の平沢。江崎がやや早足になって平沢のほうへと向かう。葛西は思わず江崎の背中に向かって「いや、声をかけるなら俺のほうが――」と言葉を放ったが、ややタイミングが遅かったようだ。

「よう平沢。ちょっと聞きたいことがある」

 江崎が声をかけると、平沢は顔を上げて体をびくりと震わせる。まん丸になった瞳は、やはり小動物そのものだった。まぁ、悪い意味でクラスから一目を置かれている江崎が声をかけたのだ。平沢が恐れのニュアンスを含んだ反応をするのも当然である。

「やぁ平沢。この辺りに住んでいるのか?」

 フォローを入れようと慌てて声をかけるが時すでに遅し。

「か、葛西君。ごめん、僕ちょっと急ぐんだ」

 明らかな逃げ腰で、平沢は江崎の脇をすり抜けようとする。一切目を合わせようとしない辺り、どれだけ江崎がクラスから恐れられているのかが分かる。

「おい、ちょっと待てや」

 江崎からすれば、平沢の反応が面白いわけがない。少々苛立いらだった様子で、おもむろに平沢の腕を掴んだ。しかし、平沢の防衛反応が発揮されたのであろう。江崎の腕を振り払い、軽く葛西のほうに向かって会釈をしながら、平沢は早足で住宅街へと消えて行った。江崎は平沢の腕を掴んでいた手を見つめながら、ほんの少し首をかしげる。普通に接したつもりなのに平沢から拒絶されたのが不思議でならないのであろう。

「――普段からクラスに馴染もうとしないからこうなる」

 葛西が言うと、佳代子が「根は悪い人じゃないのにねぇ」と続いた。フォローのつもりなのだろうが、それに対して「うっせぇよ」と呟く江崎。なんにせよ、最初から自力で廃工場を探すつもりだったし、平沢と会ったのはイレギュラーにすぎない。気を取り直し、三人は辺りの探索を再開することにした。

 話を聞いた工場で描いて貰った地図を片手に、廃業してしまった工場をひとつずつ当たる。住宅街に突如として現れる廃工場は、どこか異様に感じられた。かつては個人経営の工業で栄えたのであろうが、時代の流れと共にすたれていったのであろう。過去の遺物は、現代になっても自身の居場所を主張していた。

 どれを当たっても伸び放題の雑草が出迎えるような状況の中、恐らく最後になるであろう廃工場の前へとたどり着く。
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