お悔やみ様は悪鬼に祟る

鬼霧宗作

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五章 忘れ形見

第六話

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 平屋部分は後になってから増築されたものであり、その部屋毎にトイレと風呂がついているのならばと考えたのだが、どうやら葛西の思っていた通りの構造になっていたらしい。足元には水道メーターが埋め込まれていた。しかも、少し離れたところに並んでもうひとつ――。念のためにぐるりと家を一周して見て回ると、玄関脇にも同じものを見つけた。

 家の敷地内に存在する複数の水道メーター。これが何を意味するかは明白だ。つまり、一軒家と寮の水道管はそれぞれ独立している。恐らく、一軒家は一軒家で、そして寮として使用する部屋は、それぞれの部屋で水道管が独立しているのである。アパートメントのようになっているのだ。これが果たして何を意味するのか――。実はとんでもない事実を如実にょじつに映し出すことになる。ある意味、重要な証拠であると言ってもいい。

 葛西はスマートフォンを取り出し、それぞれの水道メーターを写真に収めて回る。はたと思い立って、手にしていたスマートフォンで江崎へと電話をかけた。

「たっちん、急に飛び出してどうしたんだよ?」

「しょーやん、ユニットバスの中の写真を撮っておいて欲しいんだ。赤水が出ているのが分かるように撮って貰えるとありがたい」

 江崎の質問には答えずに、とにかく優先すべきことだけに集中する葛西。本当ならば全て説明すべきなのであろうが、それは証拠を確保してからだ。これらの証拠は、ある事実を根底から否定する材料になる。それを否定したところで大きく事件が動くわけではないだろうが、かと言って見逃していいほど小さいことでもない。

「いや、別に構わないけどよ。こんなもの撮ってどうすんだよ?」

「後で説明するよ。とにかく写真を撮っておいて欲しいんだよ。俺も今からそっちに戻る」

 後は工事が行われた日がいつなのかを証明することができれば、この大きな矛盾を形として立証することができる。その矛盾の先にどんな答えがあるのかは、葛西にだって分からない。けれども、今とは全く違った答えが見えてくるはずだ。

 葛西が戻ると、ちょうど寮母さんと鉢合わせになった。寮母さんは葛西の姿を見ると、手に持っていた紙を差し出してきた。

「工事の案内――ありましたよ。これを見て思い出したけど、工事があったのは沙織ちゃんが亡くなる日のお昼だったのねぇ」

 寂しそうに呟いた寮母さんに「これ、ちょっと貸して貰えませんか?」と言う葛西。きっと寮母さんの目から見れば、葛西は幼馴染の死すら悲しむことのできない非情な人間に映っていることだろう。
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