お悔やみ様は悪鬼に祟る

鬼霧宗作

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五章 忘れ形見

第二十一話

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 普段、人に頭を下げることなんて滅多にない江崎。そんな江崎が、ただ頭を下げるだけではなく、地に額をついての土下座をする。ここまでへりくだった江崎の姿に、平沢も面を食らったようだった。

「……頭、上げてよ」

 少し困ったかのように、江崎のことを見ていた平沢であったが、小さく溜め息を漏らすと、ぽつりと呟いた。

「それは、話してくれるってことか?」

 江崎が下手に出るというのは、幼馴染から見ても奇妙な感じで、どこか違和感を抱いてしまう。例えるなら獰猛どうもうな狂犬が、尻尾を振っているような印象だ。江崎がプライドよりも幼馴染のことを優先させたがゆえの行動だったのだろう。

「僕の知っている限りのことはね――。これは、彼女の名誉にも関わることだから、特に君達には話したくなかったんだけど」

 平沢はそう言うと、日野に手招きをする。日野がそばまで行くとポケットから裸銭はだかせんを取り出し「これで適当な飲み物でも買ってきて。彼らの分もね」と、使いっ走りに出す。それを見送りつつ、平沢はテーブルに立てかけてあったパイプ椅子を出して並べた。

「まぁ、とりあえず座ってよ。飲み物くらいならご馳走するからさ――」

 平沢に促されて、それぞれがパイプ椅子を手に取ると、テーブルを囲むようにして座る葛西達。平沢が他のメンバーに音楽を停めるように指示を出し、辺りは一気に静寂へと包まれた。

「それで、どうしてこんな動画を? 一体、何が目的だったんだ?」

 平沢の対面に座った葛西は、話を早速切り出した。ゆっくりと話を聞きたいところだが、残念なことに終電というタイムリミットがある以上、言い方は悪いが簡潔に要点だけを聞き出したいところだ。

「――ちょっと前のことだったかな。浦沢さんに頼まれたんだよ。例の動画を撮影するのに協力して欲しいとね。頼まれた……と言うより脅されたと言ったほうが正しいか。どこから仕入れてきたのかは知らないけど、僕がイエローヘッズのヘッドをやっていることを聞き付けたみたいでね。そのことをばらされたくなければ協力して欲しいって感じだったよ」

 平沢の言葉に三人は顔を見合わせた。あの沙織が人を脅すような真似をするなど考えられない。特に佳代子は、その事実に驚いたようだった。

「そんな……さおりんがそんなことをするなんて思えないよ」

「でも事実だよ。僕は彼女に脅されて、そして彼女の指示に従って例の動画を撮影した。それ以上でもそれ以下でもない。残念だけど、何が目的で、彼女があんな動画を撮影したかったのは知らない」
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