お悔やみ様は悪鬼に祟る

鬼霧宗作

文字の大きさ
上 下
158 / 191
最終章 お悔やみ様と僕らの絆

第十三話

しおりを挟む
 学校のシステムなどの詳しいことは分からない。分からないが、教師という立場と親という立場を分けて考えることは難しいような気がする。親は自分の子が一番可愛いのであって、公平な目を生徒に配れなくなってしまう。だから、自分の子が生徒になるようなことがないように、システムが整備されているのであろう。しかし、そのシステムには大きな欠陥があり、離婚が成立して親権を持たなかったほうには適用されないらしい。この欠陥こそが、沙織を苦しめることになったのか。いや、糸井先生までをも苦しめたのだ。

 人間というものは誰しもが、常に公平な目で他人を見ているわけではない。だが、教師という立場はあくまでも公平でなければならない。もちろん、その根底的な部分を守れていない残念な教師もいるのだが、糸井先生の場合はそれに対して必要以上に意固地いこじになってしまったのだろう。

 戸籍は別になっても、自分のお腹を痛めて産んだ娘が、自分の受け持ったクラスにいる。親心は胸の奥に押し込んで、他の生徒と同じように公平に接しようとした。その考え方が強すぎて、糸井先生は必要以上に沙織に対して教師のスタンスを取ってしまった。なんたる皮肉な話なのだろうか。

「自分の娘が何者かに乱暴され、そして妊娠したとなれば心配しない親はいない。恐らく、さおりんもそんなことを考えて、貴方を試す意味で例の動画と一緒にメールを送ったんだ。やり方は褒められたものじゃないけど、貴方から返ってきた反応は、さおりんが期待したものではなかった――。その結果、さおりんは衝動的に……」

「嘘よっ! そんなことがあるはずない!」

 葛西の言葉に、頭を抱えた糸井先生がヒステリックな金切り声を上げた。その反応に佳代子がびくりと体を震わせる。触れてはならないところに触れてしまった――。江崎は直感的にそう思った。しかさ、葛西は止めない。先生の反応にも動じずに、淡々と続ける。

「糸井先生、あくまでも俺は可能性の話をしている。言ってしまえば俺の想像の中の話でしかないよ。反論は後で幾らでも受け付ける。今は話を聞いて欲しい」

 糸井先生とは対照的に、言葉を進めるたびに冷静な口調になる葛西。もしかすると、あえて感情的にならないようにしているのかもしれない。幼馴染の死と、クラスメイトの死――。デリケートな問題を扱っているがゆえに、感情的になるべきではないと考えているのかもしれない。
しおりを挟む

処理中です...