お悔やみ様は悪鬼に祟る

鬼霧宗作

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最終章 お悔やみ様と僕らの絆

第四十一話

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 わざと茶化して言ってやると、江崎はいつもの調子で「あ?」と声を上げてから続ける。

「俺はいつだってまともだろうよ。たっちん、いまさら何を言ってんだ?」

 すると、ここぞとばかりに佳代子が横から口を挟んだ。江崎に散々小馬鹿にされた仕返しなのかもしれない。

「しょーやんがまともの基準だったら、日本が沈没する」

 沈没はしない。恐らく、崩壊とかそのようなニュアンスを言いたかったのであろう。売り言葉に買い言葉というか、この二人の争いはどうにも小学生レベルになるから困る。やられたらやり返すと言わんばかりに江崎が口を開こうとするが、葛西はそれを慌てて遮った。幼馴染の墓前で何をしているのだ――。いや、このように普段通りのほうが、沙織も喜んでいるのかもしれないが。

「とにかく、お盆の時期になったら集まるようにしよう。まぁ、この腐れ縁だから、そんなことを決めなくても自然と集まったりするんだろうけどね」

 人は生まれてから死ぬまでに、幾つものコミュニティーと関わりを持ちながら生きていく。幼少期ならば幼少期、青年期ならば青年期、壮年期ならば壮年期――といった具合に、変わりゆく環境の中でコミュニティーも変化していく。葛西達はこれまでたまたまコミュニティーがずっと一緒だっただけであり、高校卒業を期に別々のコミュニティーを築き上げることであろう。そして、新たなコミュニティーを築き上げるということは、過去のコミュニティーの中で失ってしまう縁もあるということだ。

 けれども、ここまで強力な――本人達も呆れてしまうほどの腐れ縁ならば、きっとこの先も付き合いは続いて行くのであろう。これほどの腐れ縁だったのだから、いっそのこと死ぬまで腐れ縁でいてやろうと思うのは葛西だけなのだろうか。いや、葛西だけではないだろう。

 葛西の言葉に江崎と佳代子が頷き、そして沙織の墓前の線香が、同意をするかのように揺らいだような気がした。蝉の大合唱が鳴り止まぬなか、高校生活最後の夏休みが始まろうとしている。

 ――この後、約束した通り、お盆の時期になると三人で集まることになる葛西達。しかし、二十歳になったお盆の時期に、佳代子が持ってきた【白い短編集】という本のせいで、またしても奇っ怪な事件に巻き込まれてしまうことになるのであるが、それはまた別のお話。高校時代に三人が経験した事件は、とりあえずここで幕とさせていただこう。

 もちろん、数年後の同じ場所から、奇っ怪な事件に巻き込まれてしまうなど、今の葛西達には知る由もない――。
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