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#2 ぼくとわたしと禁断の数字【糾弾ホームルーム篇】

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「――困りますねぇ。あなたがたは、あくまでも第三者ですぅ。舞台には決して上がってはいけない立場なのですよぉ。それなのにぃ、ベラベラと彼らにとって有益になりそうな情報を喋られては――ね。ちょっと空気読んで下さぁぁぁい」

 アンジョリーヌへと注意をした姫乙の口調は、いつもと全く変わらないものだったが、しかし決しておだやかなものではなかった。それに対して、アンジョリーヌは悪びれる様子もなく口を開く。

「この程度の思考回路は、ごくごく一般的な知能さえ持っていれば、誰でも簡単に構築できると思ったがゆえ、問題ないだろうと判断したのですが――。お気にさわったのならば申し訳ありませんでした。ただ、私も意図があったわけではなく、ごくごく当たり前のレベルに合わせてレポートをさせていただいただけ。決して他の意図があったわけではないことだけはご理解願いたいです」

 淡々としながらも、しかし自分の非を詫びて頭を下げるアンジョリーヌ。正直なところ、その本心が全く読めなかった。事実、彼女のおかげで情報と策略を共有することができたわけだが、それが意図的なもの――すなわち、安藤達に肩入れをする目的があったのかは分からない。弁解の仕方も無感情で淡々としたものだから、判断するにも材料に乏しかった。姫乙も勘繰かんぐることに疲れたのか、溜め息を漏らしながら「以後気をつけるように。放送を再開して下さい」と業務的に呟いただけだった。

 少しばかり足止めを食らったが、何事もなかったかのようにアンジョリーヌ達も放送を再開。放送の中断を謝罪したものの、根本的な理由は述べず、そのまま状況説明へと移るアンジョリーヌ。状況説明といっても、これからゲームが始まる旨を改めて伝えただけであるが。

 そう、始まるのだ。ここまできたら引き返すことなんてできないし、今さらになって議論を挟み込むことなんかもできないであろう。泣いても笑っても、確実に誰かが死ぬゲームの第2戦目が始まるのである。

「それではぁ、ただいまよりゲームを開始しまぁぁぁす。順番はあらかじめ指定した通り、出席番号順。すなわちぃ、出席番号1番の、安藤奏多くーん。安藤奏多君よりスタートですぅぅ。それでは安藤君、数字のコールをどうぞぉ」

 姫乙の音頭ひとつで、とうとうゲームは始まってしまった。特に盛り上がりを見せるわけでもなく、ただただ業務的に――しかし、命がけでだ。
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