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#3 罠と死体とみんなのアリバイ【プロローグ】

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 ゴールの提示。これは、安藤達にとって非常に大切なものだった。

 これまでは漠然と、クラスメイトに混じったアベンジャーが全滅すれば、それで全てが終わると思っていた。しかし、芽衣の推測により、クラスメイト全員が元よりアベンジャーだとすると、いつまで経っても終わらないことになる。なぜなら、最後に生き残る人間もまたアベンジャーだからだ。

 芽衣の言葉に黙ったままの姫乙。ゴールの提示という点で考え込まれてしまうのも、なんだか嫌なものだ。ゴールのことなんて、最初から姫乙の頭にないことを証明するようなものなのだから。

「まさか、あれだけデスゲームあるあるを嫌っていたあなたが、ゼロサムゲームをしようだなんて思っていないわよね?」

 さらに姫乙を問い詰めるかのごとく、芽衣が口調を強める。ゼロサムゲームという単語自体は、ゲームのやりすぎなのか安藤自身も知っていた。最後の一人になるまで繰り広げられるもの。逆に言ってしまえば最後の一人になるまで続けられる。それがゼロサムゲームだ。

「ま、まさかゼロサムゲームなんてするわけがないではないですかぁ。そんなデスゲームの王道をなぞるなんて真似はしませんよぉ」

 慌てて否定をする辺り、もし何も疑問を持たれなければ、このまま延々と続けるつもりだったのかもしれない。それを芽衣は明確化しに取り掛かったのであろう。

 用意してもらったスマートフォンが、学校でも問題なく使えることが明らかになった。ゆえに、ここからは次の段階へと入るつもりなのだ。少し休めばいいような気もするが、芽衣は一度走り出した足を止めようとしない。

「だったら、今ここで明確なゴールを私達に提示して。いつ、なんどき、どんな状態になったら、私達はふざけたモデルケースから解放されるのか。それを私達が納得する形で提示する義務が、あなたにはあると思うわ」

 いつだったか、姫乙は芽衣のことを煮ても焼いても食えないと表現したが、まったくもってその通りである。いつもと変わらずに【姫乙史】をするつもりだった姫乙からすれば、まさしく寝耳に水。思いも寄らない展開だったのであろう。

「確かにぃ、そうかもしれませんねぇ。ただぁ、正直なところぉ、一度にどれだけの人が殺されてしまうか先が読めないがゆえにぃ、明確なゴールというものを決めていなかったりするのですぅ。ただ、ゴールを提示するというご意見もごもっともですぅ。さてぇ、どうしましょうかねぇ」
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