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#3 罠と死体とみんなのアリバイ【糾弾ホームルーム篇】

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 冷たかった。言い放たれた一言は物凄く冷たく、それが波紋のように教室内へと広がって、安藤は思わず身震いをした。つい最近まで、その人柄さえ知らなかった小雪であるが、特に知ってはいけない――見てはいけない一面を垣間見てしまったような気がした。

 全員の視線は、小雪と同じ方向へと向けられていた。その先には、困惑したような表情を浮かべる香純の姿があった。それこそ、自分のことを指差し「え? うち?」と苦笑いを浮かべる。

「星野崎君の残したメッセージは、あなたの名前を示していたの。きっと、紫色のマジックペンでメッセージを残したのは、花の色をイメージしたんじゃない? かすみ草って紫色っていうイメージが強いし」

 小雪の言葉に困惑するばかりの香純。そして、少しばかり勝ち誇ったかのように見える小雪。そこにわざわざ追撃を加えたのは小宮山だった。教壇の上で、資料を広げながら口を開く。

「資料には書かれていないけどさ、星野崎の第一発見者も越井さんだったよね?」

 もはや、誰かが口にするのを待っていたかのごとく、小雪がさらに追いかける。ダイイングメッセージの件はともかく、最終的には強引な推測を展開する。そろそろ止めてやらねば暴走するかもしれない。

「第一発見者を疑うのは鉄則。そして、何よりもダイイングメッセージが越井さんのことを犯人だと示して――」

「残念だけど、その可能性は低いと思う。そもそも、あのメッセージを星野崎が残せたわけがないんだ」

 飛び交う議論についていけず、視線ばかりを右往左往させている小宮山が少し不憫ふびんに思えて、わざわざ手を挙げながら発言した安藤。小宮山が進行役として滑り込めるスペースを作ってやる。

「あ、安藤君。それは一体どういうことですか?」

 安藤のファインプレイによって、議論の場に戻った小宮山。少しばかり嬉しそうに問うてくる。さて、ここからは本格的に議論開始である。思ってもみなかった方向から、小雪が犯人を指摘してくれたが――しかし、その推測には穴がある。

「もっと正確に言うと、星野崎にあのメッセージを書き残す余裕なんてなかったんだ。星野崎が殺された状況を想像してみれば、それは明白だ」

「そうね――。それにダイイングメッセージについては不自然な点が多いのよ」

 安藤の言葉にフィーリングするかのごとく、すっと入ってきたのは芽衣だった。良くも悪くも、こんなことになってから彼女とはうまい具合にコンビネーションを発揮できている。そのせいか、妙な勘違いというか、ちょっとだけ――ほんのちょっとだけ彼女のことが気になり始めていた。
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